新型コロナで学校閉鎖のNY、遠隔学習の効果は? 慣れない操作で親も子どもも四苦八苦

 米国で、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。3日現在、死者は6000人を超え、感染者は24万人に達した。とりわけ深刻な状況に陥っているニューヨーク市では、幼稚園を含む市内約1900の公立学校が一斉閉鎖となり、出口は依然見えない。子どもたちの学びの場をどう確保するかが課題になっている。

 手探りの中、3月下旬にスタートしたのがパソコンなどを使ったオンラインでの遠隔学習「リモート・ラーニング」だ。ただITに対する理解度は家庭によって差が大きい。パソコンを持っていない世帯も多く、戸惑いの声が広がる。「家族以外とは極力会わないように」との行政指導に従い、ニューヨーク支局の記者2人が自分の家族の状況をリポートする。(共同通信=松尾聡志、山口弦二)

米ニューヨーク市で始まったオンラインでの遠隔学習(共同)

 「みんな、体調はどう?」。午前8時すぎ、アプリ上に担任教師からのメッセージが表示された。自宅マンションで感染者が出たため室内にこもる生活だが、いつもなら登校する時間だ。「元気!」。松尾記者の長女(9)がチャット形式で返信すると、遠隔学習への「出席」が認められた。

 長男(5)の出欠確認は動画を撮影して投稿することだった。「いま食べたいのはピザとフライドポテトのどっち?」という質問に「ピザ」と答えた。

 アプリは、米IT大手グーグルが米国の教育者と開発し、無償提供される「クラスルーム」。英文読解や算数などの時間割が組まれ、教師が課題を提示、児童や生徒がそこにアクセスし、回答を提出する仕組みだ。採点やアドバイスもできる。長女は慣れないシステムに四苦八苦した様子だ。インターネット接続の不具合があったのか、投稿ボタンを押したはずなのに、回答の一部が「未提出」だったことが後から分かり、「やっぱり普通に学校で授業を受けたい」とつぶやいた。

自宅でタブレット端末を使い遠隔学習をする子ども=米ニューヨーク(共同)

 このアプリは、オンライン英会話教室などとは異なり、教師と生徒がリアルタイムでやり取りできない。普段の教室に近い環境がオンライン上に再現される訳ではなく、その分、子どもたちが集中力を保つのは難しいようだ。5歳の長男には親の指導が欠かせず、この日の学習が終わった午後3時半、記者と妻はくたくただった。

   山口記者の長男(6)は母親のタブレット端末でクラスのページを開くと、第1の課題が表示された。「遠隔学習の初日を迎えた感想と、その理由を詳しく書いて」。長男は「うれしい」とだけ答えるが、記者から「理由は?」と聞かれると口ごもってしまった。「うーん、家族と一緒に勉強できることと…タブレットを使えること、かな」。画用紙に手書きさせ、写真に撮って送信した。

 続いて次男(4)だが、クラスのページに「出席」の欄がない。昼近くに担任から「ごめんなさい。使い方が分からなくて」とメールが届き、ようやく「出席」できた。長男と次男は合間に遊んだり寝転がったりで、予定通りに進めることさえ難しかった。

 25日午前には、次男の担任からメールで「(ビデオ会議アプリの)『ズーム』を試しているんだけど、希望者は正午からおしゃべりしましょう」と連絡が来た。遠隔学習の枠外だが、それぞれ自宅にこもっている担任や児童、保護者らが互いの顔を見ながら「元気だった?」「何してる?」と言葉を交わし、久しぶりの楽しいひとときとなった。20分ほどでお別れとなると、涙ぐむ女子児童もいた。

人けがまばらなニューヨーク・タイムズスクエア=3月24日(共同)

 遠隔学習が始まってから1週間たった30日。長男も次男も物珍しさがなくなり、勉強に身が入らなくなってきた。それだけでなく、ろくに外出できず、友だちとも会えず、代わり映えのない日々を送っているストレスからか、ちょっと目を離すと兄弟で奇声を上げながら室内を走り回る。記者自身も在宅勤務を続けているため、ちょっとしたことで腹を立て、つらく当たってしまう。「学校」のありがたみを痛感する日々だ。

 ニューヨーク市の全公立学校は16日に閉鎖され、少なくとも4月20日まで続く。日本の幼稚園から高校に相当する約1900校、約110万人が対象だ。

 ただ貧富の差が大きいのがニューヨークだ。地元メディアによると、約30万人は生活に余裕がないとして、パソコンやタブレットなどが家にない。そうした家庭には、市が無償で機器を貸与することになっている。ところが急ごしらえの取り組みで、学校側も対応が間に合っていない。

 保護者の間では「課題の文書が見つからない」「どこに提出すればいいか分からない」などと、想像以上に大きな負担となっているようだ。

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