トルソワ、4回転ジャンプに達成感 フィギュアスケートのロシア3人娘

1月の欧州選手権で表彰台を独占したロシア勢。(左から)2位のアンナ・シェルバコワ、初優勝のアリョーナ・コストルナヤ、3位のアレクサンドラ・トルソワ=グラーツ(タス=共同)

 フィギュスケートの2019~2020年シーズンの女子で、主要な国際大会を総なめした「ロシア3人娘」。

 トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)と高い表現力を併せ持つ16歳のアリョーナ・コストルナヤ、フリーで2度の4回転ルッツを入れる16歳のアンナ・シェルバコワ、4回転を4種類跳ぶ15歳のアレクサンドラ・トルソワがシニア転向1年目で輝きを放った。

 平昌冬季五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)と同じエテリ・トゥトベリゼ・コーチに師事する3人については今季、フィギュア関係者や他社の記者と話す時に「日本勢にとって誰が北京五輪で最も脅威か」「誰の演技が好きか」とよく話題になった。

 それぞれ特長が違って魅力あふれるが、個人的にはトルソワの旺盛な挑戦心に感銘を受けている。

 昨年10月下旬に行われたグランプリ(GP)シリーズ第2戦、スケートカナダで当時の世界最高得点を塗り替えてGP初優勝した直後、筆者のインタビューに応じたトルソワは好きな技術要素を「ジャンプ」と即答した。

 「新しいことをやるのが好きで、達成感を得たいんです。挑戦し続け、突然成功できた時が喜びです」と理由は単純明快だ。

 2018年と19年の世界ジュニア選手権覇者のキャリアは女子ジャンプの「史上初」に彩られている。

 4回転ルッツ、フリップ、トーループは国際スケート連盟公認大会でいずれも女子で初めて成功し、一つの演技で複数種類の4回転を決めたのもトルソワが最初となった。

 格闘家の父を持つ血筋に加え、ジムで一日2時間から2時間半のトレーニングを行い「豊富な練習量により4回転ができている」と誇った。

 氷上では一見細い腕や脚から浮き上がる筋肉に日々の鍛錬が凝縮されている。

 「好きなスケーターは?」に対する回答も分かりやすい。

 最初に挙げたのは4回転5種類を操るネーサン・チェン(米国)で「彼は多くの4回転ジャンプを跳び、さらにうまくなろうと努力している」と尊敬する。

 次に挙げたのは競技会でこれまで4種類の4回転を降りている羽生結弦(ANA)で「チェンと同じように4回転を多く跳ぶから」。

 フィギュアは競技性と芸術性の融合したスポーツだとよく言われるが、トルソワは生粋のアスリートだ。

 チェンや羽生の4回転の動画を見て研究に励み、男子並みの速さで滑って豪快に踏み切り、練習では転んでも転んでもジャンプを跳び続ける姿勢に迷いはない。

 しかし、天才少女も最近は勢いに陰りが見える。

 ジュニア時代に最強だったトルソワも今季はGPファイナル、ロシア選手権、欧州選手権と昨年12月からことし1月にかけて行われた主要大会でいずれもコストルナヤとシェルバコワに敗れて3位と不本意な結果に終わった。

 3回転半に挑むなど難度を上げ続ける一方、身長が伸びてジャンプの軸のぶれが散見される。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月の世界選手権(モントリオール)は中止となり、リベンジの場は来季へ持ち越しとなった。

 ザギトワが17歳にして競技活動の休止を表明せざるを得ないほど、ロシア勢のトップ争いは熾烈を極め、2022年北京冬季五輪には、今季の世界ジュニア選手権を制した同門の13歳のカミラ・ワリエワ(ロシア)も年齢的には出場可能。トルソワもうかうかしていられない状況だ。

 「私の最大の武器は4回転」と話す不屈のジャンパー。来季はどう困難を乗り越えていくのか、目が離せない。

吉田 学史(よしだ・たかふみ)プロフィル

2006年共同通信入社。仙台などの支社局で警察や行政を担当して12年から大阪運動部で高校野球やサッカーを担当。14年12月に本社運動部へ異動して、水泳、テニス、フィギュアスケートなどをカバー。東京都出身。

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