外国人労働者 新制度1年 高まる期待にコロナが冷や水

メニューを手に注文を取るボガティさん(右)=諫早市永昌東町、登利亭

 諫早市の居酒屋「登利亭」。「枝豆とだし巻き卵、ハイボールですね」。手際良く日本語で注文を取るのは2月からアルバイトとして働くネパール人留学生、ボガティ・サントスさん(21)。「(スタッフもお客さんも)楽しい人ばかり」と笑顔で話す。
 登利亭は諫早、長崎、雲仙市で3店舗を展開。ベトナムやネパールなどからの留学生十数人が各店舗で働いている。
 野副智徳社長は「接客は高い日本語能力が求められ対応が難しい場面は多い。ただ、英語などで接客ができるのは大きな武器。しかも真面目。優秀な人材は手放したくない」と彼らへの期待を隠さない。
 既に語学が堪能な留学生数人に昨年4月に新設された「特定技能」への在留資格変更を打診。そうなれば留学生らは5年間を上限に日本で就労できる。ボガティさんは「大学卒業後も日本で働き続けたい」と意欲を語る。
 外国人労働者拡大に向けた新制度が始まって1年。人手不足の解決策として外国人への期待値は高まる一方だが、そこに冷や水を浴びせかけたのが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)。県内でも技能実習生の出入国が一部でストップするなど影響が広がっている。
 経済が失速すれば、外国人労働者の需要そのものが吹き飛ぶ可能性もある。県内の監理団体の関係者がため息交じりに語る。「先の展開が読めない。今は新制度どころじゃない」
 改正入管難民法の施行から1年がたった。県内では6千人の外国人が働き、特定技能の資格取得者も出始めている。新制度をめぐる現状と課題を探った。

◎「安定して働ける人材」に歓迎

 諫早市の居酒屋「登利亭」で働くネパール人留学生ボガティ・サントスさん(21)は昨年10月から長崎ウエスレヤン大(同市)で日本語を勉強している。今後は経営学を学び、将来は母国でレストランを経営するのが夢。母国語のネパール語のほか、英語、ヒンディー語を使いこなす「トライリンガル」だ。
 店でアルバイトとして働き始めて1カ月余り。日本酒の銘柄など難解な日本語メニューは日本人店員がサポートする。客から「今日のお薦めは?」のリクエストに応じるため、日々のミーティングで数点の料理に絞って覚えてもらうなど指導も工夫している。
 「一度説明すれば覚えてくれる。サンちゃんが働き続けたいと言えば(在留資格がクリアできれば)こちらとして大歓迎」と日本人店員からの信頼は厚い。ボガティさんは「ネパールの(正社員の)給与は月に1万~2万円程度。接客や経営を勉強するためにも日本で働き続けたい」と話す。
 国内の労働力不足の解消に向け、昨年4月にスタートした新たな外国人在留資格「特定技能」制度。政府は2023年度までに14業種で約34万5千人を受け入れる計画だ。このうち、外食業分野は最大5万3千人と見込まれている。
 アルバイトでも特定技能でも、できる仕事の内容にさほど違いはないのになぜ、特定技能での採用を望むのか。野副智徳社長は理由をこう説明する。「アルバイトの勤務時間は週28時間、長期休暇の期間も週40時間に限られる。学校でテストがあればシフトに入れない。費用はかかっても安定して働ける人材がほしい。県内でも採用に手を挙げる会社がこれから増えるだろう」

 建設業界も慢性的な人手不足に苦しんでいる。
 大村市の金井建設は17年からベトナム人の技能実習生を雇い始めた。同業他社からの引き抜きで日本人従業員が何人も辞めたのがきっかけ。年々、受け入れ人数を増やし、今では全社員23人のうちベトナム人が7人を占める。
 3年の実習期間を終了する2人は4月中旬にいったん帰国し、特定技能に資格変更した上で5月末に再入国する予定。特定技能は5年を上限に就労できるが、本人たちは「5年丸々働くつもりはない。2年ぐらいで帰国して結婚したい」と希望しているという。
 金井政春社長は「彼らからすれば『技能実習期間の3年じゃ短いけれど、特定技能であと5年は長い』という感じではないか」と推測。その上で「外国人労働者は(居住先を確保するなど)実は日本人を雇う以上にコストがかかる。だが、日本人が集まらない以上、外国人に頼る今の流れは続いていく」とみる。
 宿泊業分野も外国人労働者に熱視線を送る。近年、訪日外国人旅行者が増加し急速に人手が不足しているからだ。特定技能の14業種に「宿泊業」は含まれているが、政府は2月、技能実習制度の対象職種にも「宿泊」を追加。門戸が広げられた。

ホテルでベッドメイキングをする外国人労働者=長崎市内

 「県内でも日本語を学ぶ留学生らをアルバイトとして雇うホテルや旅館は増えてきている」と業界関係者は語る。日本語が堪能であればフロント業務に就き、日本語の会話が難しければレストランの洗い場やベッドメイキングなど裏方の仕事に従事するケースが多いのだという。
 長崎市のあるホテルの男性支配人は「国がインバウンドに力を入れる中、外国人労働者に頼らなければ成り立たなくなる可能性も出てくるだろう」と指摘する。ただ今は新型コロナウイルスの影響で全国的に宿泊客が激減。それでも、終息を見越して「外国人労働者をどの在留資格で雇用するのが適当なのか、検討を進めたい」としている。

 


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