「緊急事態宣言」=都市封鎖? 海外は罰則付き強硬策 日本の場合は

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急記者会見する東京都の小池百合子知事=3月25日、東京都庁

 新型コロナウイルス感染症が急拡大し、政府による緊急事態宣言の発令が現実味を帯びてきた。それに伴い、東京など都市部の「ロックダウン(都市封鎖)」の可能性が指摘されている。一方で、「4月2日にも首相が発表する」という趣旨のデマメールが流れるなど不安をあおる動きも出ている。そもそも、現行の法律の下で外出禁止や交通機関のストップといった〝強硬策〟は可能なのか。海外の事例などとともにみていきたい。(共同通信=松森好巨)

 3月25日、都内での感染増加が顕著になったこの日、小池百合子知事は「何もしないならロックダウンを招いてしまう」と発言。ただ、具体的にどのような対応をイメージしているのか問われると「海外などいろいろな例を参考にするが、未経験なので…」と明確に答えなかった。

 ロックダウンと呼ばれる外出禁止などの強硬策は、感染者が爆発的に増加した欧州で3月以降に次々と実施されている。

 イタリアでは2月末、北部のロンバルディア州などを封鎖し住民の移動を禁止した。3月10日からは移動制限の対象を全土に広げ、23日からは生活に必須でない全ての生産活動も停止した。スペインは3月14日、非常事態を宣言。仕事や生活必需品の買い物など一部の例外を除き全土で外出が制限された。違反すれば、罰金から最高禁錮1年の刑が科される可能性がある。

 フランスは17日から少なくとも15日間の外出制限を全土で開始。飲食店も当面閉鎖し、生活必需品の買い物や在宅勤務ができない際に仕事へ行くなど絶対に必要な場合のみ移動を認めるとした。違反には最大135ユーロ(約1万6千円)の罰金が科される。

 欧州以外ではマレーシアが18日からアジアで初めて全国で外出を原則禁止した例がある。

3月、イタリア北部ミラノの広場で警備する兵士(AP=共同)

 ▽自粛要請

 欧州各国では外出制限が罰則付きで命じられるなど強力な措置が講じられ、文字通り都市封鎖という状態がつくられた。ひるがえって日本ではどのような対応が可能なのか。

 感染拡大をくい止めるために検討されている緊急事態宣言は、3月14日に施行された改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく。

 同法では①国民の生命と健康に重大な被害を与え②ウイルスの全国的かつ急速なまん延で生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある―という二つの要件に該当した場合、首相が期間と区域を定めた上で発令できる。ただし、二つの要件を満たすかどうかについては専門家組織である諮問委員会の判断を仰ぐ。

 宣言が発令されたあとは指定区域の都道府県知事が具体的な措置を実施する。

 住人への不要不急の外出自粛を要請できたり、大勢の人が利用する学校や社会福祉施設、映画、音楽、スポーツなどの「興行場」の使用制限を求めたりできる。また、医療施設を臨時に開設するため所有者の同意を得ず土地や建物を使用することが可能となる。医薬品や食品の所有者が売り渡し要請に応じない場合は収用の強制措置もとれる。

 土地の使用や医薬品の収用などは強制力を伴う措置だが、私たちの暮らしにとり切実な問題となる外出に関しては、あくまで自粛要請にとどまる。

 ▽公共交通機関は?

 次に鉄道など公共交通機関の運行に影響はでるのだろうか。

 特措法には、宣言が出た場合に首相や都道府県知事が「指定公共機関」に対し感染防止対策を巡る「総合調整」を実施する権限がある、と明記されている。指定公共機関は同法施行令により定められており、JR各社や東京メトロなどが含まれる。

 総合調整の具体的な内容について、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室に聞いてみると「運行停止や間引き運転を想定したものではありません」とのことだった。ウイルスのまん延時であっても事業者に対し運行継続を協力してもらうことを想定したものだという。

 ただ、同室の担当者は事業者と調整するなかで鉄道の運行をストップしたり間引いたりすることが「(この法律の下で)技術的に不可能かと言えばそうではない」ともした。一方で、実際に検討しているのかについて聞くと「まったく考えていない」と明確に否定した。

 以上のように、罰金が伴う外出制限など海外のような対応は法律上できない。安倍晋三首相も1日の参院決算委員会で「フランスのようなロックダウンができるのかといえば、それはできない。そこに誤解がある」と述べたとおりだ。

参院決算委で答弁する安倍首相。後方は間隔を空けて着席するマスク姿の閣僚ら=1日午前

 ▽法的裏付け

 では、緊急事態宣言と強硬なイメージがついて回る「ロックダウン」が並べて語られるのはなぜなのだろう。 以下で少し考えてみる。

 現在も各地の知事は住人に対し外出自粛を要請している。宣言が発令されると、その要請に「法的裏付け」ができたことになる。

 〝知事〟という権力・権威をもつ影響力のある存在が、ウイルスのまん延する非常時に国のお墨付きを得た上で外出自粛を要請するのだから、そのメッセージはより強力なものとなるだろう。住人の受け止め方もいっそう深刻になるにちがいない。外出する人は格段に減る。外に出る人がいなくなれば店を開く意味がない。状況的には海外の都市と同じ光景が広がるかもしれないので、言うなれば〝自主的〟ロックダウンとなることも考えられなくはない。

 ただ、要請によって外出自粛が広がった際、考慮しなくてはならないのが補償の問題だ。欧米では外出制限とセットになって市民への現金給付のほか、休業店舗や失業者への補償など手厚い支援策が設けられている。日本政府も収入が急減した家庭や中小事業者への現金給付を柱とした対策をまとめるとしているが、欧米に比べ具体化に時間がかかっているのが現状だ。

 ロックダウン(都市封鎖) 感染症の拡大を防ぐため、数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止や生活必需品以外の店舗の閉鎖をしたりする強硬措置。新型コロナウイルス感染症の爆発的な患者急増が起きたイタリアやスペイン、フランスで実施された。

© 一般社団法人共同通信社