豪州SC:開幕直後に新チーム離脱のコートニー、シモーナとワイルドカード枠で参戦か

 豪州を代表する人気ツーリングカー、VASCヴァージン・オーストラリア・スーパーカーに参戦するErebus Motorsport(エレバス・モータースポーツ)は、デビッド・レイノルズ、アントン・デ・パスカーレのレギュラー2台に加え、3台目のホールデン・コモドアZB投入を計画中で、そのワイルドカード枠車両にはジェームス・コートニーの起用を検討していることを明かした。

 2010年のVASCチャンピオンであり、それ以前には日本のスーパーGTでもキャリアを積んだコートニーは、長らくホールデンのファクトリー契約チームだったHRT(Holden Racing Team)ことWalkinshaw Racing(ウォーキンショー・レーシング)のエースとしてシリーズを戦ってきた。

 2017年にはワークス待遇であるHRTの地位をレッドブル・レーシング・オーストラリア、トリプルエイト・レースエンジニアリングに譲り、2018年には北米のアンドレッティ・オートスポート、ユナイテッド・オートスポーツの資本参入を受け、チーム名をWalkinshaw Andretti United(ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド/WAU)に改称。しかし2シーズンを経て未勝利に終わる厳しい時期を過ごしてきた。

 そんな39歳の元王者は、2020年シーズンから15年ぶりに豪州最大の都市シドニーを本拠地とした新チーム、その名も“Team Sydney”に移籍して心機一転。ゴールドコーストにも拠点を置くTekno Autosportを母体とするチームで開幕戦アデレード400に参戦した。

 しかし、レース後には旧知の仲だったチーム代表との見解相違が表面化し、わずか1戦を経たところで急転直下のチーム離脱を発表。残るシーズンに向けその去就が注目されていた。

 そのコートニーに対し、ホールデンのトップチームとして活躍するエレバス・モータースポーツでCEOを務めるバリー・ライアンは、地元Fox Sportsの取材に対し「間違いなくジェームスと交渉を続けていて、もう間もなく契約成立という状況だった。しかしそのタイミングですべてに甚大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス(COVID-19)の問題が起こったんだ」と明かした。

「(VASCシリーズ第2戦が併催された)F1開幕戦のオーストラリアGPが“シャットダウン”された日、我々とジェームスはほぼ99.9%の状況で契約合意に達するところだったが、明らかに新型コロナウイルスの問題が逆風を吹かせた。我々としても、成長を続けたいというチームの野望を隠すことはできない」と続けたライアン。

チームはデビッド・レイノルズ、アントン・デ・パスカーレのレギュラー2台に加え、3台目のホールデン・コモドアZB投入を計画中だ
後半戦に3戦が設定されるレース距離500マイル越えの『耐久カップ』に向け、シモーナ・デ・シルベストロ起用のプランも

「3台体制を敷くのがチームとして適切なモデルになるか不透明だという意見もあるが、他の誰が何を言おうと気にしない。それが可能か不可能かは、我々が一番よく理解している。望みはただひとつ、チームはジェームスを必要としていて、その実現は目前だった」

 ライアンCEOはまた、2019年までケリー・レーシングに所属したシモーナ・デ・シルベストロにも接触しており、2020年はポルシェのファクトリー契約ドライバーとしてABBフォーミュラE選手権のリザーブ役を務める彼女に、VASCシーズン後半戦の“エンデューロ・カップ”登録ドライバーとして、コートニーとの強力なタッグを結成するプランも認めている。

■フルフェイス型防護マスクを開発し、医療現場を支援

 そのリクルート活動と並行して本拠地メルボルン州ダンデノンのワークショップでは、パンデミックが進行するCOVID-19対策として第一線の医療従事者(HCW)に向けた、重要な健康保護デバイスの製造を開始している。

 このプロジェクトはスーパーカーのメディカル・デリゲートを務めるカール・リー博士と共同で、PPEと呼ばれるフルフェイス型防護マスクの設計開発を進めているもので、可能な限り迅速に全豪への供給を開始したい意向だ。

「今は困難な時期であり、オーストラリア人は皆できる限りのことをする必要がある。我々は幸運な立場にあり、レーシングファクトリーの業務を変化させ、医療従事者と患者を支援することができる」と続けたライアンCEO。

「我々のエンジニアのひとりも、家族がイタリアで隔離生活を強いられている。ウイルスの問題は全員の“ホーム”で起きているんだ。博士と共同で水中シュノーケリングマスクをベースとしたHCWの換気マスクを設計開発し、製造には3Dプリンターを活用した」

「複雑なものを開発するのではなく、3Dプリント・アダプターと簡単に交換可能なP2フィルターを備えた費用対効果の高いマスクを大量生産して、リスクの高い最前線の医療従事者に直接届けることができるはずだ」

エレバス・モータースポーツCEO兼チームマネージャーを務めるバリー・ライアン
いわゆる飛沫感染の”エアロゾル”対策用防護マスクを製造。開発にはドライバー陣も参加した

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