クロスオーバーワゴンの元祖が造る最新作をテスト
地域柄積雪が多い北欧・スウェーデン製にも関わらず、かつては2輪駆動にこだわっていたボルボが、AWD(四輪駆動)を初めて採用したのが1996年に発売された850エステートである。
その後1997年にV70へと進化するが、その年にボルボ初のクロスカントリーモデル「V70XC」が登場している。スバルのアウトバックと並び、同ジャンルの草分け的な存在だ。
あれから20年以上が経つが、V70XCの末裔である「V60クロスカントリー」はどのようなAWD性能を持っていたのか? 今回は北海道のリアルワールドを走ってチェックしてみることにした。
スマートなルックスにダマされるな! コイツはガチなヤツだ
改めてV60クロスカントリーをおさらいしておこう。
ベースとなるステーションワゴン「V60」に対して専用フロントグリルやボディ下部のクラッディング処理でクロスオーバーSUVルックに。
見た目がスマートなのでカッコだけの「なんちゃってSUV」に思われがちだが、実は専用サスペンションとタイヤサイズ変更で最低地上高はオフロード走行を余裕でこなすと言われる200mmを超える210mmを確保する。
更にボディの下側を覗くと無駄な突起のないフラットな床面も悪路走破性に大きく寄与している。
ハルデックス・トラクション社と共同開発したAWDシステム
AWDシステムはセンターデフを持たず、アクセル操作、車輪速、ステアリング舵角などのセンサーからの情報を分析し、電子制御多板クラッチを用いたカップリングにより瞬時に後輪に適切なトルク配分を行なうアクティブオンデマンド式。元々同郷のハルデックス・トラクション社とボルボが共同開発したシステムで、改良を重ねて現在は5世代目だ。
加えて、急勾配で自動的に車速を制御するヒルディセントコントロールや専用ドライビングモードも備える。
ちなみにこれらのシステムはボルボのモジュラー設計に組み込まれているため、性能面では兄貴分と一切変わらない。
ドライ路面ではV60との差はほとんど感じられない
北海道とはいえ、今年は雪が少なくスタートの千歳近郊はほぼドライの舗装路面(汗)。
ステーションワゴンのV60より重心が高い上タイヤのハイトが高いことから、比べると穏やかな特性とストローク感が増す足の動きになっているものの、レスポンス重視のステア特性、初期ロールを抑えたスポーティな味付けのハンドリングは健在。
同じ境遇のレガシィ/レガシィアウトバック(5代目)ほどの差は感じない。つまり、走りは「目線が高いステーションワゴン」なのだ。
今回の試乗車のタイヤは、横浜ゴムの最新スタッドレス「iceGUARD(アイスガード)6」を履いていたが、オンロードでは急な操作さえしない限り、タイヤのヨレもほとんど感じないレベルである。
雪・氷・舗装が混在する厳しい条件下でも変わらぬ安心感
雪を探して夕張に近づくと路面が白くなってきた。とはいえ、雪、氷、舗装と様々な条件が混在する上に、路面自体も凹凸があり時々刻々と変化をする嫌な路面だったが、ESCとの協調制御で車両を安定方向にアシストしてくれるので、ヒヤッとするシーンは一度もなく安心してステアリングを握れた。
撮影のために立ち寄ったスキーリゾートは平日の午前中と言うことで駐車場はガラガラ……。そこで周りの安全を確認してからESCをスポーツモードに(笑)。すると、もう一つの「顔」を見せた。
ESCスポーツモードで現れるもうひとつの「顔」とは
コーナー進入時は基本的には安定方向だが、そこから先はドライバーのアクションをクルマ側が察して曲げやすくする制御となり、パワーオーバーステアから四輪ドリフトの姿勢に持ち込むことも可能だ。
ここでは味見をした程度だが、筆者は以前スウェーデンの氷上特設コースで同じV60クロスカントリーを速度を気にせず思い切り走らせた経験がある。その時は3速全開のゼロカウンター走行も余裕でこなす性能に、クロスオーバーSUVであることを忘れたくらいだった。
ステーションワゴンベースとは思えぬ本格的なオフロード性能
肝心なオフロード性能は味見レベルしか体験できなかった。
とはいうものの、急勾配や凹凸の多い路面、更には撮影のための新雪への進入などでは、素性の良さと巧みな制御、更にボディサイズを考えれば取り回し性能の高さも相まって、ステーションワゴンベースとは思えない頼りがいのある走破性を見せてくれた。
2リッターガソリン直噴ターボはキャラクターに似合っている
パワートレインは2Lターボの高出力版(254ps/350Nm)である「T5」と8速ATの組み合わせ。
普通に使うにはパフォーマンスは十分だが、欲を言えばフットワークとのバランスを考えるとATの制御はもう少しダイレクト感とメリハリがあってもいいと思う。この辺りは純正ECUチューニング「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」が解決してくれるだろう。
ちなみに本国にはディーゼルターボモデルも用意されており、個人的には「それを導入してよ!!」と思いながらも、V60クロスカントリーのスポーティなキャラクターを考えると「ガソリンのほうが合っているな」と。
シビアな環境下でも人に寄り添うボルボの設計思想
また、新世代ボルボ共通部分となる美点も見逃せない。
グローブをしたままでタッチ操作が可能なセンタースクリーンや瞬時に体を温めるシートヒーター、環境が悪化してもキャンセルされにくい安全支援デバイスなど、装備が時代に合わせて進化していっても、その根底にはシビアな環境下でも人に寄り添う設計思想を感じるのは、ボルボの変わらない良さでもある。
過酷な条件下での安心感はオンロードでの信頼にもつながる
すでに雪も解け、春真っ只中の季節になるのに「何を今さら」と言う気持ちもあるだろう。ただ、過酷な条件下で得られる安心感は、オンロードではより高いレベルの信頼性に繋がると言うことを忘れてはならない。
恐らく、ボルボラインナップの中でも最もオン/オフ性能をバランスの良く実現している一台で、ボディサイズ/走りを含めて、同クラスの日本車よりも日本に寄り添ったモデルかも。
[筆者:山本 シンヤ/撮影:小林 岳夫]