【取材の周辺】解雇通知と政府支援、ロンドン発「新型コロナ」の現場

 「新型コロナウイルス」感染拡大に戦々恐々とするなか、3月中旬にイギリスで働く日本人の友人から、「解雇された」と連絡が来た。会社は、その前の週から新型コロナの影響で在宅勤務を推奨していた。しかし、事態は深刻さを増し、ジョンソン首相が国民に向け在宅勤務を呼びかけたことで、会社のスタンスも「在宅勤務命令」に変わった。

 一緒に暮らすハウスメイトも同じタイミングで在宅勤務となったため、一緒にリビングで在宅ワークをスタートした。しかし、ハウスメイトのパソコンの操作音がうるさくて集中できず、自室で仕事をするための机をわざわざ購入した。在宅勤務の環境を整えた2日後の3月18日、会社から突然、「あなたが会社にいられるのは、あと1カ月です」と連絡があった。寝耳に水過ぎて言葉も出なかったという。

 友人は「これまでの功績を必死に訴えたが、解雇の決定は覆らなかった」と悔しさをにじませた。

 彼女が勤めるのはスポーツ関連メディア。今夏に開催が予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、クライアントから計画の縮小を告げられた。そのため、会社も人員整理を余儀なくされたという。

 職を失う失望感と不安感。同時に、一部スーパーではティッシュやトイレットペーパー、食料品が品薄となり、普段の生活にも暗い影を落とし始めている。先の見えない状況下だが、「あと1カ月は契約期間だから」と一人で仕事を続けた。

 彼女の解雇を知った同僚たちからは、励ましのメッセージや採用(求職)情報が届き始めた。腹をくくって他社の募集要項に目を通し始めた頃、会社から「解雇について再考したけど、戻りたい?」と連絡がきた。4月初旬での解雇撤回。しかし、喜んだのも束の間、解雇時期が6月中旬に伸びただけだった。

 彼女に解雇通知の連絡があった翌々日、イギリス政府が、一時的に休業したが雇用を維持した場合、その雇用者の給与の8割を保証すると発表した。しかし、保証は現時点では3カ月間。会社はそれに倣い、彼女の解雇を6月まで伸ばしただけだった。

 友人は「首の皮はつながったけれど、職を失うことには変わらない。会社は解雇して評判を落としたくないのでは」と沈んだ声で話した。ただ、政府が労働者の給与を保証することについて「すごいと思うし、ありがたい。これがなかったら、ゆっくり仕事を探すこともできなかった」と安堵していた。

 世界中が人々の命と生活を脅かす新型コロナの恐怖に侵されている。今後、事態がどう進行するのか誰にもわからない。こんな時こそ、国にはどんと構えた方針を示してほしい。

‌入場制限のかかるスーパーの外で間隔をあけ並ぶ人々(ロンドン、3月29日)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年4月6日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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