コロナ禍で進むテレワーク、露見した時代遅れのIT土台 注目集まるチャットツール、結局どれがよいのか

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 新型コロナウイルスの影響で、導入が進む「テレワーク」。緊急事態宣言の発令で、さらに導入が進むとみられる。伴って注目を集めているのが、Slackなどのチャットツールだ。結局、どれを利用するのがいいのか。米マイクロソフト業務執行役員を経て、現在は働き方改革を支援する会社代表を務める越川慎司さんは「ビジネスチャット時短革命」(インプレス)に各ツールの特徴をまとめている。3月下旬までに、製造、流通、金融、自動車など東証1部上場企業を含めた18業種の319社に利用状況について緊急アンケートを実施。露見した企業のIT環境をめぐる課題も含め、解説してもらった。

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■世界一無駄なメール

 新型コロナウイルスの影響で、自宅などでのテレワーク導入が進んでいます。同僚や上司が目の前にいないわけですから、今までどおり仕事ができずストレスが溜まります。「あいつ、俺のメールを軽視しているのではないか」と思う人もいるでしょう。

 実際に、弊社クライアント企業の従業員16.2万人にアンケートを取ると、社内でやり取りする「メール」に対して89%がネガティブな感情を持っていると回答しました。相手から返事が来ない、メールの返信で待たされる、挙句の果てに世界一ムダなメール「メール見ていますか?」を送り合う始末。メールが「時間泥棒」と化しています。

 ■ストレスフリー、5秒以内に返事をもらう方法

 そこで、お勧めするのがビジネスチャットです。相手の状況が分かり、その上で気軽に「今ちょっといい?」と話しかけることができます。相手がオンライン(連絡可能)であれば、5秒以内に返事が来る確率が70%以上です。ビジネスチャットでやり取りが完結するのに必要な時間は、メールの半分以下です。

 ■週に1時間、メールをめぐる無駄な時間

 25社2・5万人を調査したところ、メール作業中に「ファイルを探す時間」に平均で週61分もかけていることが分かりました。年々増え続ける受信メールの中で、目当ての添付ファイルを探していたのです。

 それも、社内メールの添付ファイルです。複数メンバーが編集し、ファイル名がどんどん書き換わっていきます。最初に「企画書v1」だったものが、「企画書v2」になり、「企画書_最終1」とか「企画書_最終1-2」・・・。結局どれが最新版であるのか分からなくなり、更新履歴が見えないので一つずつファイルを開いて修正箇所を確認しているのです。

 こういったファイルの共有方法はやめて、クラウド共有を使ってください。そのファイルをクラウドに置いて、その置き場所=URLをチャットで共有するのです。1つのファイルで管理しますので、多数のメンバーが更新をかけても履歴は残ります。更新前の状態に戻すことも容易です。

 ■社内の「人探し」にかける時間、6割が「減った」

 チャットを使うことで、週に43分を節約できる作業が他にもあります。社内の人探しです。「この情報を持っている人は誰か」、「この資料を作った人と連絡を取りたい」といった場合です。

 チャットでは、各チャンネルやグループがテーマを作成します。そのテーマに関してよく知る人がその中にいるのです。例えば「コンビニのトレンドをよく知っている人」を探したい時に「流通業向けセールス」というグループがあれば、そこで質問すれば適任者が見つかりやすいでしょう。大量のメールの中から人を探すよりも、テーマに絞ったグループの中から人を探した方が早いのです。

 メールよりも短い時間で情報や人を探し出しやすくなります、実際に、チャットに移行した63%の人が「検索時間が減った」と答えています。

 ■チャット導入したいけれど…どれがいいの?1週間で全社員が使いこなせるようになったツールも

 「どのビジネスチャットを使うべきか?」という相談を、3月だけで78社から受けました。国土交通省の3月上旬までの調査では、自宅で勤務した人は12%台にとどまりました。弊社クライアント企業では、319社のうち80%超で、一部であってもテレワークを実施していることが、3月末までの緊急調査で分かっています。緊急事態宣言を受けて、テレワークの実施が増え、チャットツールの導入も、さらに進むでしょう。そこで私は、2つのポイントをアドバイスします。

 1つ目のポイントは、「シングル・スクリーン」です。画面(スクリーン)の切り替えが多いと集中力がそがれ、効率が落ちます。多くのアプリをいちいち切り替えて使うのではなく、チャットの中で日程調整やタスク管理などの一連の作業を完結できる方が良いのです。

 そういった点で、現在使っているカレンダーや資料保存と相性の良いチャットを選んでください。

 スケジュール管理をOffice365(4月下旬に名称が「Microsoft365」に変更予定)で行っているのであれば「Microsoft Teams」。グーグルのG suiteを使っているのであれば「ハングアウト・チャット」が良いでしょう。

 また、アプリ連携が豊富に用意されているSlackでは、クリック1回で「Zoom」でのオンライン会議を開催できたり、タスク管理の「Trello」を操作できたり、アプリを切り替えずに作業できます。Slackの連携を使いこなして会議を効率化した結果、社内会議が21%減ったという企業もあります。

 2つ目のポイントは、利用者の「ITスキル」です。チャット導入を目的にするのではなく、社内の定着・浸透を目指してください。そのためには、利用者のスキルも考慮すべきです。老舗のSlackはエンジニアやIT企業では問題なく使えますが、ITアレルギーのある年配者などにはLINE WORKS(ビジネス版LINE)や日本製のチャットワークの方が馴染みやすいです。テレワーク開始と同時にLINE WORKSを導入して、1週間以内で全社員が使いこなせるようになったという流通企業の例もあります。

 ■ついやりがち、事故起きかねないチャット利用も

 ビジネスでチャットを使うことに抵抗を示す人も、プライベートでは既に使い慣れているでしょう。しかし、プライベート用チャットをビジネスで使うのはNGです。

 弊社のクライアント企業でも、プライベートのLINEをビジネスで使っている人が多くいました。しかし、セキュリティ事故が起きているのも事実です。発表前の商品情報を社外の友人に伝え、それがSNSで拡散されて株価に影響が出てしまったり、ライバル企業に転職することが決まった直後に企業機密が入ったパワポ資料を社外に持ち出したり・・・といった事故を何度も耳にします。

 事故か故意かは分かりませんが、1日には、新型コロナウイルスに感染した男性のカルテ画像がLINEに流出したことが判明する、ということもありました。

 会社で認められていないツールを使ってやり取りをされてしまうと、その履歴を会社が管理できないので、このような背任行為を見逃すことになってしまいます。

 ■セールス部門の生産性が6割アップした方法

 319社に緊急アンケートをとったところ、オンライン会議を使用している企業は9割を超えました。こういったツールを社内に浸透・定着させるポイントは「習うより慣れろ」です。テレワークする人もしない人も、まず全員でオンライン会議を使ってみるのです。

 ある製造業の企業では、当初オンライン会議の反対者が半数以上いました。しかし、新型コロナウイルス騒動の前に全員強制でオンライン会議を使う日を1日設けたところ、初めて利用した人の満足度は77%となりました。「また使いたい」と回答する人は68%になりました。3月からはじまったテレワークでは、問題なくオンライン会議を使いこなしています。

 また、テレワークによって会議時間が減る傾向にあります。7割の企業が「情報共有の社内会議が減った」と答えました。週の43%もの時間を奪う社内会議は、そもそも成果が出ないものが多いです。実際に、4割の会議では目的が決まっていません。情報共有の会議では4割の参加者が内職をしています。こんなことで成果が出なくて当然です。

 会議の種類は3つ。情報共有・意思決定・アイデア出しです。情報共有はビジネスチャットで代替できます。意思決定は、決めるべき人だけが参加して決め方を決めてから討議すると結論がでます。アイデア出しは、意思決定と分けて行うと発言数が増えます。

 これらを理解していれば、オンライン会議でも十分に成果を残すことができます。あるサービス業の企業は、オンライン会議を駆使して会議時間を減らし、セールス部門の生産性を6割アップさせました。

 ■時代遅れのIT土台vs毎月1000人が応募する企業

 今の「働き方改革」は生産性向上ではなく、事業継続のためです。出社禁止や感染抑止のために移動を制限されても、ビジネスを回すためにテレワークをしています。

 しかし、3月からテレワークを開始してみると、社内のネットワークが遅かったり、業務に必要な情報は出社しないと見られなかったりという事象が続出しています。新型コロナウイルスの問題が解決した後でも、外部環境の変化に対応してどこでも仕事ができる環境を維持しないといけません。

 出社を前提とした社内ITは、一刻も早く見直すべきです。今後労働人口が急減するなかで出社を前提にしてしまうと、人材を確保することが困難になります。全員がテレワークで出社義務がなく、月に1000人以上の入社応募がくる企業もあります。生産性を上げて人材を確保するには「出社しない働き方」を一つの雇用形態と準備しておくべきです。(クロスリバー社長=越川慎司)

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