日本人が経験したフランス「ロックダウン」、外出制限でも不安はなかった理由

フランスが3月17日正午にロックダウンしてから約2週間が過ぎました。中国の武漢から始まった新型コロナウイルスの脅威。当初はフランスより、日本の方が感染の脅威が迫っていました。

しかしイタリアで新型ウイルスが広がり始めると、感染はヨーロッパで一気に拡大。新型ウイルスはフランス国民にとって、すぐそばにある脅威になっていきました。

フランスでは、3月12日夜にマクロン大統領がテレビ演説を通じて、国民に外出自粛と学校の閉鎖を発表。続く3月14日夜には、フィリップ首相が飲食店の閉鎖を伝えました。そして3月16日夜に、マクロン大統領がフランス全土での外出制限を発表。翌17日正午からフランスのロックダウンが始まったのです。


ロックダウン状況下のパリで1週間

私はパリに住んでいます。そして現在、私は日本に戻ってきていて約2週間が過ぎました。以前からこの時期に日本へ帰る予定を立てていたのですが、新型ウイルスの流行が重なってしまい、結果的にロックダウン状況下のパリに約1週間、その後は日本で過ごすという形になっています。ウイルスの脅威はとどまることを知らず、今度は日本がロックダウンになるのではないかと言われています。

「ロックダウン」という普段聞き慣れない言葉を耳にすると、とても不安を感じるかもしれません。私もパリで外出制限が敷かれる前は、同じような気持ちでした。しかし、外出制限が始まってみると、ウイルスに対する脅威はあっても、私個人としては外出制限自体にそこまで不安は感じませんでした。

もしかしたら今後日本でも経験するかもしれないロックダウンに向けて(ただし現状の日本ではフランスのような外出制限は敷けないと言われていますが)、パリでの様子を参考までに紹介したいと思います。

まったく外出できないわけではない

フランスでは、現在の外出制限が敷かれている状態を「Confinement(隔離)」という単語を使って表しています。しばしば日本では、フランスの外出制限を「外出禁止」と報じるケースがありますが、外出がまったく禁止されているわけではありません。いくつかのルールに沿って外出は可能です。

外出が許されるケースは、この記事を書いている時点で7つあります。具体的には「テレワークできない必要不可欠な仕事」「生活必需品の買い物」「診察・治療」「子供や弱い立場にある人の世話や、やむを得ない家族の理由」「適度な個人で行う運動」「司法・行政による召集」「行政当局の要請を受けて行う公益活動」です。

フランス政府による新型ウイルス対策の発表が相次いだ3月半ば、何かしらの発表が行われる前は外出禁止(外出制限ではなく)が通達されるのではないかという不安が、人々の心に常にありました。

外出制限発表直前はトイレットパーパーなどが品薄に

そのため人々は、少しでも身の回りのものが不便にならないように、備蓄できるものはあらかじめ購入しておこうと小売店へ走ったのです。品薄となったのは、トイレットペーパー、パスタ、米、缶詰、冷凍食品、ミネラルウォーター、ジャガイモなど。長く保存が効く食品や消耗品でした。

3月16日、フランス国民はマクロン大統領によるテレビ演説をかじりつくように見ました。そこで発表されたのが、現在も敷かれている外出制限です。

経済面さえ払拭すればロックダウンに不安はない

外出制限が始まると、食べ物や日用品がなくて困るという状態は起こりませんでした。小売店によってはもしかしたら品薄となる商品棚があるかもしれませんが、生活が脅かされるほどではありません。制限下での暮らしのため不便なのは確かです。しかし買い物のためなら好きな時間に外出が許されています。

シャッターがすべて閉まったパリの観光地モンマルトル

運動もできます。運動目的での外出については、当初はそれほど細かく決められてはいなかったものの、それ以外の目的で外出する人が増えたため、今は「1日1時間以内で自宅から1km以内」と決められました。なかでも多くのフランス人にとって気になったのが、外出制限で働けなくなることで減ってしまう収入でした。これについてはフランス政府が大規模な財政出動を決めました。

まずマクロン大統領は、3月16日のテレビ演説で今回の新型コロナ騒動による企業倒産は起こさせない意思を国民に伝え、フランス政府はさまざまな対策を発表しました。

部分的失業(一時的な休業)になった場合、給与の84%が企業から従業員に支払われます。通常であれば、国から企業へは法定最低賃金分のみ払い戻されますが、今回の場合は、国が法定最低賃金の4.5倍を上限に100%補償して企業を支えます。

中小企業は、社会保障費や税金、水道、電気、ガスの支払いが延期可能になりました。さらに自由業やフリーランスの場合、または2020年3月の売り上げが5割減少した社員10人未満の零細企業で、年間売上高100万ユーロ(約1億2,000万円)未満の会社の場合は、1,500ユーロ(約18万円)の支援を国に求められるようになりました。

失業中の人であれば、失業保険などの権利が外出制限の期間は延長されます、それ以外にも仕事状況や家庭の事情によって、国によるフォローが定められました。

ロックダウンが決まっても冷静な行動を

パリで外出制限された状態で生活してみると、制限自体は、そこまで不安になる必要はありませんでした。買い占めも必要ありません。物流は十分に機能します。普段通りに外出できないのは少々窮屈ですが、外食を除けば普段とほぼ同じ生活レベルで過ごせます。

これら、ひとりひとりの自制心に加えて、政府からの経済的・精神的に国民の不安を払拭するサポートがあれば、さらに私たちは落ち着きます。世界的な新型ウイルス拡大に人々の不安は募る一方です。しかし冷静に行動し家にいることで収束は必ず訪れるのです。

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