「うたのはじまり」- 『うた』というものの本来の姿

『うた』というものの本来の姿

普段何気なく耳にしている音楽や、うた。聴者にとっては当たり前のように鳴っているものだが、ろう者にとって、それはどのような存在なのだろうか。ろうの写真家・齋藤陽道は、自分には理解できない『うた』が嫌いだった。しかし、生まれた息子・樹さんをあやすため、自然と『うた』がこぼれ出す。樹さんを抱きしめながら歌う自作の子守唄は、決められた楽譜に沿ったものとは違う、からだ全体から溢れてくる、とても原始的なもの。彼が撮る写真と同じように、透明で、ふわっとして、とてもやさしい。パートナーの麻奈美さんが樹さんを出産したあとに漏らす長い長い声も、その原始的な『うた』に似ている。無事に生まれた安堵感、嬉しさ、それ以上に、ことばで表せないもの。

わたしは陽道さんの写真が大好きだ。彼が撮るすべてのものたちに『生命』を感じる。樹さんが生まれ、『うた』と出会い、それはさらに強まったように思う。『うた』というものの本来の姿を、この映画に教えてもらった。(LOFT HEAVEN:ななを)

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