新人たち

 新聞社の印刷工場は、耳栓が必需品の“騒音空間”だから「おおおっ」なのか「うわあ」なのかを聞き取ることはできなかったが、歓声を上げてくれたのは表情で分かった。3日の深夜、研修中の新入社員3人を印刷棟に案内した時のこと▲ほんの数分前まで記事の差し替えや組み直しに追われていた紙面が「新聞」として誕生する瞬間だ。この会社に長く勤めている私たちには「日常」でも、新人諸君には新鮮な驚きなのだろう。自分1人の仕事でも手柄でもないのに、少しだけ胸を張りたい気分▲この日は紙面のレイアウトや見出しを受け持つ編集局の整理部も見学してもらった。「見出し、付けてみる?」などと緩やかな先輩風がここぞと吹いていたのか、職場には普段と異質の活気▲今年の新社会人たちは、いつもの春と違う重苦しさの中で最初の一歩を踏み出した。間隔を広げた入社式の座席、モニター越しの歓迎や激励の言葉、同期や先輩の顔と名前を覚えようにも、見えているのは目だけ▲それでも新人たちは今年も、若い誰かが「この会社」で働くことを選んでくれた喜びや、自身の新人時代を懐かしく重ね合わせながら初心に立ち返る緊張感をそれぞれの職場に運んでくる▲こんな春でも、いや、こんな春だからこそ初心者マークの風が清々(すがすが)しい。(智)

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