教育の無償化を目指す カリスマ予備校講師 元暴走族・吉野敬介先生がYouTubeで授業開始  「シウマイ弁当みたいな授業をします」

教育の無償化を目指します。(吉野先生)

カリスマ予備校講師吉野敬介先生が教育の無償化を目指して、YouTube「ただよび」を開設。文字通り、「ただ」で授業が受けられる画期的なシステム。早速お話しを伺ってきました。

受験ぐらいは平等に

――まず「ただよび」というYouTube企画ですが、始めるきっかけを教えてください。

教育の無償化っていうのを僕はずっと提唱していたんです。世の中って不平等じゃないですか。僕は生徒にもよく言っているんですが、「世の中なんて不平等なんだよ」と言っています。ただ受験だけは平等じゃなきゃいけないんじゃないかなと思うんですよ。

――納得ですね。僕の友達もお金持ちが多かったり、いろんな人がいましたから。

東進を例にすると現役予備校といっても年間で80万円前後かかるわけです。ということは30歳で子供ができたとして、子供が18歳だと48歳ですよね。48歳の人が年間で80万円、子供がふたりいたら160万円。それを支払うのってけっこうたいへんだと思うんです。

――そうですね。

僕は神奈川県鎌倉市出身なんですけど、この学区の公立では県立湘南高校が一番レベルが高いところだったんですね。僕は昭和41年生まれで、その頃は湘南高校から東大に進学するのは60人程とかなりの人数が入ってたんですよ。湘南高校はいまだに僕らの学区ではトップですけど、そこでも今では東大に合格するのは20人もいないと思います。

つまり、それだけ中学受験が過熱してるってことです。今、小学校5年生からだと偏差値の高い学校に入れないので、最低でも4年生ぐらいから塾に通わないといけないので3年間で240万ぐらい払うわけです。

子供が小学校4年生から行くとなると大体、40歳くらい。40歳の人に「毎年80万円払え」ってすごいキツいと思います。それをしなければ、東京では開成、麻布に進学できないかも知れない。そうでないと東大に行けない。そういう時代に変わってるんですよね。格差社会というかもう、階級社会になってるわけですよ。たとえば嘘かホントかわからないけど今年、東進から800人ぐらい東大に入ったらしいのですが、そのうちの750人以上ぐらいは特待生だから、ほぼお金なんて払ってないわけです。

だからといって、無論彼らを責めるわけではない。彼らだって中学高校で一生懸命勉強して、それは東進の考え方と受験生の考え方が一致してるわけですから、無料で良いと思うんですよ。では、例えば高校3年生になって大学に行きたいと目覚めたところで、成績なんて一気に上がるわけじゃないから、大体の生徒は普通に80万という高額なお金を払って授業を受けるわけじゃないですか。

で、また授業を受けたいと言っても、東進は、まぁそれなりにいろんなところに散らばっていますが、といっても限度があります。例えば、与論島で僕のお世話になった先生がタダで教えたりしてて、僕もそこに参考書を送ったりしていて、だから大学に行きたいヤツには平等に行かせてあげようよ、と。だって大学に行ったって、今は、2人に1人ぐらいは奨学金を借りている時代じゃないですか。そしたら大学に入ったって苦労するじゃないですか。だから、この「ただよび」で無料で授業を受けてもらって、入学金や大学への授業料の一部に使ってほしいです。

――結局、奨学金は返さないといけないですからね。

そう。僕も曲がりなりにも24歳から予備校講師を30年間ずっとやらせてもらったわけです。こんな髪型だし服装だから、変な話「一発屋」なわけですよ(笑)。一発屋が30年間トップ取れたわけだから、だったら最後はお金じゃなくて、誰に恩返しするわけではないけど、YouTubeもよく知らなかったんだけど、ここ1年ぐらいはYouTubeって話をよく聞くし、だったらここで無料で恩返しでいいんじゃない? という思いです。僕も中学高校グレてきたりいろんなことがあったんで(笑)。

「できないやつ」の気持ち

――私も横浜育ちなんですけど中学受験で四谷大塚とか通ってたんで、(学費出してくれた親に)恩返しっていうのはわかります。先生はプロフィールによると不良少年だったそうですが。

そうですね、中学高校はめちゃくちゃ。何とか高校だけはギリギリで卒業できたわけです。やっと高校卒業できて、高校卒業後は当時つき合ってた彼女と同棲していまして、当時はバブル時代だけど就職試験は全部落ちました(苦笑)。出席日数も足りなかったし。で、高校時代からアルバイトしていた暴走族専門の族車を売る中古車屋に就職しまして。で、彼女にフラれてしまったんだけど、彼女の新しい相手が大学生だったんですよ。「じゃあ、俺も大学行ってやる」と、4ヶ月間自分なりに勉強して大学に入ったわけです。大学時代は勉強しましたよ。だって大学生と話が合わないんですよ、自分は不良だったんで、大学で悪ぶってるヤツが「昨日徹マンしちゃってさー」みたいな事言われると余計に(笑)。

――感覚が合わない、と。

感覚が違いましたね。1年半働いてから大学行ってるんで計算的には二浪ってことになるんですけど、自分としては二浪っていう感覚がないから。現役で入った同じクラスのヤツに「吉野!」とか言われるじゃないですか、そんなのダメなんですよ。暴走族の世界だったらヤバいですよ! 高3のときに高1のヤツに呼び捨てにされているようなもんだから(苦笑)。あるきっかけで、少し僕が同じ大学生とは違うなと分かってきたみたいです(註・「きっかけ」はオフレコという事です)。

――周りの目が変わってきた?

「吉野くん」とか「吉野さん」とか言われるようになりましたね。自分としてはそんなのどうでもいいんだけど、大学時代は勉強して、代ゼミで「チューター」とか「フェロー」っていってわからないところを見てあげるっていうのがあって。僕は国語のフェローの試験に受かって、生徒が授業でわからなかったところとか入試問題とか……だからあのときが古文一番できたんだよな。学問的なことは今の方ができるけど、入試問題を解くということは、もしかしたらあのときのほうができたかもね(笑)。それで予備校講師になりたいなっていうのがありました。

――落ちこぼれている子を更生させる、みたいなところもあるんですかね。

いや、それはないです。それは義家弘介(自民党衆議院議員。「ヤンキー先生」として知られている)とかの役目じゃないですか? そういえば、義家、この頃会ってないですが、活躍してますね! うれしいです。

――そういうことですよね。

予備校講師って、デキない人をデキるようにさせる人ってそんなにいないんです。講師たちは元々が頭が良くてデキるんですから。東大とか早稲田とか慶應に行って大学院に行ったり弁護士崩れとか、そういうのが予備校講師になっているから根本的には本当にデキない人の気持ちなんてわからないんですよ。

僕は、本当にデキなかったからデキない人の気持ちがわかるんです。それもあって30年間ずっと古文で、一番取ってるわけですよ。毎年いろんな先生が挑戦してくるんですけど、僕がほかの古文の先生に言ってるのは、「お前らは基本的に溺れてるヤツに泳ぎ方を教えてるんだよ、意味ないだろ。溺れているんだから、浮き輪を投げてあげるとか、まず助けるところから入らないといけない」と。

あとは学歴もまあまあ良い、教え方もそれなりに良い、それなりに面白い話もできる。……それって幕の内弁当みたいなんですよ。何となく見た目はそこそこカッコ良かったり、頭も良い、学歴も良い、教え方もそこそこ良い、話も学校の先生よりはまあ面白い、ちょっとした感動的な話もできる、だけどなんか突き抜けてないというか。

僕は鎌倉出身ってこともあり「崎陽軒のシウマイ弁当」でいたいですね。シウマイも美味いんだけど、タケノコも唐揚げも美味いじゃん、みたいな。唐揚げを楽しみにしてるヤツもいるし、タケノコを楽しみにしてるヤツもいると思うし、やっぱりシウマイは楽しみで飯も美味い。

あと僕が仲良くさせてもらってる「ラーメン二郎」っていうラーメン屋さんがあって。「ラーメン二郎」のラーメンって嫌いなヤツを好きにさせようっていうラーメンじゃないんですよ。

――確かにそうですね。

「ラーメン二郎」を好きなヤツをさらに中毒化させるラーメンなんですよ。僕の授業もそうなんですよ、嫌いなヤツはもう初めから俺のことは嫌いなんですよ。だってもともとこんな髪型や服装で、「俺はポルシェ乗っててさー」とか言ってるヤツなんて嫌いなヤツは嫌いなわけですよ。その嫌いなヤツを好きにさせる授業じゃないんですよ、好きなヤツをもっと好きにさせる授業なんですよ。

――ハマる感じですかね。

そう。でも、女の子がよく来たんですけど「私は正直言って吉野先生は嫌いでした」と。やっぱり田園調布雙葉とかそういうところに通っているから、合わない(苦笑)。「違う先生の授業を取ったんですけど、授業を受けてもわからないから仕方なく先生の授業を受けたらハマッてすごくよくわかって、それで先生に1年間ついてきました」って言われると嬉しいですね。

――YouTubeで何を教えたいのかとか、先生のアピールポイントを伺おうと思ったんですけど、そういう事だったのですね。

男でも「僕はイジメられたことがあって暴走族みたいな人が大嫌いです」みたいな子がいるんですよ。「だから先生を見ると拒絶反応を起こして5ちゃんに悪口書いてやろうかなぐらいに思ってたけど、騙されたと思って授業を受けたら面白いし」って。結局、暴走族を売りものにしてても、暴走族だけで生徒は1年間ついてこないんですよ。それだけで30年間トップなんて取れないです。だから「いろんな人生論とか面白い話とか聞かせてもらってうれしいです」みたいなことを聞くと嬉しいですよね。

――教える醍醐味ですね。

中毒になる子は放っといても中毒になるんですよ。

――「ラーメン二郎」とか「シウマイ弁当」みたいな授業をする、と。

そうそう。

無料が一番難しい

――YouTubeの授業は対面ではないですね。

でも、東進も映像授業なんで、対面授業ではなかったんです。ただ、東進の場合90分の授業だから、今の生徒には90分はもう長すぎるんです。みんなほぼすべての授業を1.3倍速や1.5倍速で早送りにして受講しているんです。YouTubeは10分の授業にするので、わからないところの強化にもつながるし、10分だったら集中力も持つだろう、と。

――4月から本格化されるんですよね。

4月の6日からです。

――楽しみですね。

自分自身でYouTubeで無料だからやりたいと思ったんだけど、本当にこの頃自分でもいろんなYouTubeを観てみると、無料って一番難しいんじゃないですか? つまり、お金を払ったんだから受けようって思うでしょ。お父さん、お母さんがお金払ってくれたんだから受けようとか、そこに行ったんだから受けなきゃいけないっていう気になるけど、無料でいつでもどこでも観られるわけだから、面白くなければ観なくていいわけだし。だから無料って難しいですね。

――お金を払っていると、行かなきゃいけない義務感が生まれますからね。

それもあるし、お父さんお母さんが出してくれたし、行ったんだから受けようってなるけど、無料だしどこでも受けられるし、受けなくてもいいわけだし。あと、基本的には偏差値50以上の人には受けてもらいたくないんですよ。50以下の生徒に受けてもらいたい。

――その人たちが先ほど仰った「溺れてる生徒」っていうことですね。

そうですね。そういう人たちが受けるわけだから、ちょっと工夫しないと難しい。授業だけやっててもしょうがないから面白い話したり、飽きさせないように10分間をやらないと。

――たしかにYouTubeをずっと観させるのってなかなか難しいです。

「崎陽軒」の専務と飲みに行った時「俺、唐揚げが好きだから全部唐揚げにしろよ」って言ったら、「唐揚げ弁当にしたことあるんだけど、逆に売れない」んだって。僕からすると、唐揚げもう1個入っててもいいなと思うんだけど、あれはシウマイ弁当だからシウマイは絶対のものじゃん。でもタケノコが美味いってヤツもいるし、マグロが美味いってヤツもいるし、唐揚げが楽しみのヤツもいるし、あれ飯も美味いじゃない。そういうものを目指したいというか。プラスアルファで、「ラーメン二郎で良い」みたいな。

――「好き」を「もっと好き」にさせる、と。

そう。で、所詮ラーメンだから、みたいな。

――やみつき系ですよね。

そういう授業を心がけたいですね。そうは言っても、「嫌いだったけど受けてみて好きになりました」って言われたらすごく嬉しいですね。教師冥利に尽きます。

――有難うございました。YouTubeの授業、楽しみです。

※一部誤りがございましたので訂正してアップしてあります。

(聞き手◎編集部 写真◎足達倫弘)

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