【深掘り】「縄張り」超えて問う 首相会見とメディア不信 「新聞を読む日」に考える

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新型コロナウイルスの感染拡大を巡る安倍首相の記者会見で手を挙げる記者たち=3月14日、首相官邸

 首相官邸の一室に、怒号が飛び交った。3月14日、安倍晋三首相による新型コロナウイルス対策の記者会見。前回に続き、政府側の司会が打ち切りを図り、記者が抗議の声を上げた。

 私は記者席から「総理、これ会見と呼べますか」と尋ねた。目が合った安倍首相は「いや、それはちょっと」というような困惑の色を浮かべ、軽く左手を挙げた。

 質問はその前に考えていた。「国民の命に関わることを決めながら、なぜ質疑から逃げるのですか」。そのまま畳み掛けるべきだったが、司会が即座に別の記者を指名した。会見は続行となり、追加で4問の質疑があった。異例なことに、独立系メディアの記者も指された。

■心理的ハードル

 日ごろ沖縄にいる私が会見に参加できたのは偶然だった。3月11日前後に福島を取材し、羽田空港から沖縄に帰る予定の14日に、ちょうど会見が設定された。

 当日の朝、駄目元で調べてみると、沖縄タイムスは内閣記者会(官邸記者クラブ)の加盟社なので、取材パスを持っていない記者も申し込めば参加できることが分かった。福島の民宿からファクスを送り、入り口では金属探知機をくぐって官邸に足を踏み入れた。

 権力の中枢であり、大手メディア政治部の縄張りでもある。取材のルールを何一つ知らないまま飛び込むのは、心理的なハードルがかなり高かった。

 ただ、その前の2月29日の首相会見が、鋭く批判されていた。一方的に原稿を読み上げた安倍首相だけでなく、事前に質問内容を教えた記者たちも。説明を尽くさず打ち切った官邸だけでなく、フリーランスの1人を除いて抗議しなかった記者たちも。

 メディア不信は、大手メディアや政治部に限った話ではない。だから、会見の参加資格があるなら地方紙であっても説明を引き出す努力をして、読者への責任を果たすべきだと考えた。

■氷溶かす手の熱

 2月の会見を受け、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)などは、オープンで十分な時間を確保した首相会見を求めるオンライン署名を始めた。宛先には安倍首相と、官邸記者クラブの加盟各社が同列に並べられた。沖縄タイムスも問われる側にいる。

 一方で、署名の賛同人にタイムスの与那嶺一枝編集局長が名を連ねた。メディアの幹部は琉球新報の松元剛編集局長と2人だけ。長く米軍の言論統制を経験した沖縄のメディアは、報道の危機に敏感だからかもしれない。自らも問われながら、他のメディアにも問うていた。

 自由な質問は全ての報道の基礎である。規模や論調、縄張りに関係なく、全てのメディア、記者が日々実践し、守り抜く必要がある。

 それぞれの持ち場で、権力に遠慮のない質問をぶつける。メディア同士でも、あるいは内部でも、質問の自由を妨げる動きは批判する。互いに問い、互いに問われる。

 メディア不信は氷山のようにそびえている。職業人一人一人が手で触れ、熱を伝えることで、少しずつ溶かしていくしかない。

(編集委員・阿部岳)