消費者金融で借金50万円、情報商材にのめり込んだ大学生の告白

新型コロナウイルスの影響で入学式が相次ぎ中止になるなど、不穏なニュースが続く今年の新大学生の門出。実は最近、「株や仮想通貨の情報商材を買えば〇〇円儲かる」などとうたうマルチ商法の危険な勧誘が、学内で蔓延しているそうです。被害実態の目撃談をつづった前編に続き、後編では実際にこうした情報商材にはまって消費者金融で50万円も借りてしまい、勧誘にも関わった被害学生本人に話を聞きました。


将来の不安を煽られ……

豊田満さん(仮名、21)は都内の私立大学の文系学部に通う3年生です。自前の名刺を持ち歩き、平日も土日でもスーツにネクタイ姿が印象的です。なんでも、町中で開催されるイベントの企画運営を代行するサークルに入り、実際に報酬をもらっているそうです。いつもスーツ姿なのは「自分の中のスイッチが入るから」だとか。礼儀正しく、社会人と話し慣れている印象です。

豊田さんが以前関わったのは、「L(仮称)」という投資系の情報商材ビジネスです。彼の説明では、商材の購入者に「5分後にこの株が上がる」というメールを送ってくれるというサービスです。

「(サービス運営団体に所属する)プロのトレーダーが、株の上がり下がりを予測しているらしい」と説明する豊田さんですが、「なぜこんなことが予測できるか、運営側の裏側についても自分には分からなかった」とのこと。ちなみに同サービスは公式サイトのようなものはなく、検索すると“被害”を訴えるサイトばかりがヒットしました。

豊田さんがこのLという商材の話を聞かされたのは2017年夏のこと。高校時代の先輩で、不動産会社などの社長を務める男性から「新しいビジネスを始めるので説明を受けに来て」と誘われたのがきっかけでした。この先輩と、「L」側の人間の2人と都内の喫茶店で会うことになりました。後から聞くと、この人物は先輩の所属する情報商材の1コミュニティーを取り仕切る立場だったそうです。

50万円に加え、セミナー参加費も

先輩たちはまず、「日本の景気と同時に(会社員の)給与も下がる」「年金がもらえなくなり、老後用にお金がどれくらい足りなくなる」などと、将来の不安をあおる話題を省庁のデータとともに説明してきました。豊田さんにとっては知らない情報ばかりだったそうです。

続いて先輩たちは「収入源は1カ所だけでなくたくさん持っておく方がいい」「(会社を)リストラされても、生活を支えられる」と、昔流行った自己啓発書を引用してきました。「投資をしたほうがいい」「それには『L』という商材がある」と、たくみに勧誘の話に誘導したそうです。

最後に運営幹部の人間が席を離れ、先輩と2人きりになった豊田さん。情報商材の購入には50万円もの大金が必要とのことでしたが、豊田さん自ら「興味本位だけどやりたい。僕には(50万円は無いので)どうすればいいですか?」などと聞いてしまったそうです。約半年間もはまり込んだ、情報商材活動の始まりでした。

まず、商材の運営側からのアドバイスで、消費者金融に借金して50万円を工面することに。当然、両親からは「詐欺だからやめなさい」と猛反対されましたが、結局内緒で借りてしまい、別のアルバイトをして何とか返済しました。ちなみに豊田さんによると、学内で別のマルチ系ビジネスにはまっていた知人も、同様に消費者金融に借金して料金を賄ったといいます。

他にも運営側が要求する月1万2,000円の“月謝”、そして週3回ほど開催するセミナーの参加料で計10万円が消えました。実家暮らしの大学生とは言え、決して安くはない金額です。

この情報商材、単に商品を売りつけるだけの仕組みではありません。参加者は誰か他の人を紹介して入会させると、“アフィリエイト”などと称する紹介料が5万円分入ります。紹介した相手がさらに別の人を入会させると、元の参加者には2万5,000円が入る――。典型的な「マルチ商法」です。

友人に声をかけたが

入会後、高校や大学の友人10数人に声を掛けたという豊田さん。誰からも「50万円も無いよ」「そんなにかかるんだったらやりたくない」ときっぱり断られ、紹介料を得ることはありませんでした。

肝心の「投資」も鳴かず飛ばず。一度、運営側のコミュニティーで勧められて「バイナリーオプション(為替レートを高いか低いか予測する投資)」に挑戦し、10万円ほどもうかったことがありましたが、それっきり。消費者金融から借金してまで運営側に支払った計約60万円の“授業料”の大半は、増えるどころか返ってはきませんでした。

豊田さん自身、18年初めごろまではセミナーにも通っていましたがその後疎遠になり、運営側からの連絡にもそのうち応じなくなって「今では足を洗った」そうです。

今は激しく後悔しているのかと思いきや、豊田さんは誘ってきた先輩や運営団体を、ほとんど恨んでいない様子なのです。今でも「やってみていいことと悪いことの半々だった」と感じているとか。

「自分が(仕組みを)分かっていないサービスを(他の学生に)売ろうとするのは無責任だった」(豊田さん)。一方で、「大金を払ったことで、自分の知らない領域に踏み込め、ビジネスというものを勉強できた。商材で稼ぐことができず50万円損はしたが、何か生み出せるものがあった。僕は悲観的になっていない」と強調します。

学生を標的にする情報商材ビジネス

情報商材にはまる前から、会社員になるよりも「内容は見当もつかないが、とにかく何か起業してみたい」と願っていた豊田さん。「自分は他の人と価値観がずれている」と話す彼ですが、実際は“ビジネス”“ベンチャー”といったキラキラした世界に無邪気にあこがれる、典型的な「意識高い系」の若者ように見えました。そういう学生が、情報商材ビジネスの餌食になっている構図が見えてきます。

大した収入や貯蓄を持たぬ学生を狙い、彼らのビジネスへの憧れと無知、何より将来への漠然とした不安に付け込む情報商材ビジネス。実際に多くの大学が入学生向けに注意喚起を呼び掛けています。被害拡大防止のため、社会からの厳しい指弾が求められています。

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