悪戦苦闘のドタバタ展開 “チャウ・シンチー ワールド”健在! 20年ぶりのリブート『新喜劇王』

『新喜劇王』©2019 The Star Overseas Limited All Rights Reserved.

悪戦苦闘のドタバタ展開が楽しい“シンチー・ワールド”健在!

チャウ・シンチーが、自身の監督・主演作『喜劇王』の続編(正確にはリブートか)を作った。その名も『新喜劇王』。1作目が1999年の映画だから、実に20年ぶりだ。

『新喜劇王』©2019 The Star Overseas Limited All Rights Reserved.

なぜ今? と思う人もいるかもしれない。しかし映画を見てみると、そのテーマ性はいつの時代であろうと変わらずに通じるものだ。加えて言うなら、日本公開が2020年4月という“こんなご時世”なのも運命的な気がする。

『新喜劇王』©2019 The Star Overseas Limited All Rights Reserved.

本作の主人公は女優志望の若者、モン。演じるのは実際にこれまで無名だったエ・ジンウェンだ。貧しさの中で決して努力を忘れず、悪戦苦闘する姿がドタバタたっぷり、笑い満載で描かれていく。『イップ・マン』シリーズ(2008年~)のハーマン・ヤウが共同監督に名を連ねており、またシンチー主演作でもないのだが、しかしこれは紛れもない、そして濃厚な“シンチーワールド”だ。

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シンチーが見出した実力派女優エ・ジンウェンに注目!

とにかく主人公のモンが素晴らしい。特殊メイクも駆使した変顔をはじめヒドい目にあいまくり、彼女の頑張りと天然っぷりがそれに拍車をかける。『少林サッカー』(2001年)のヴィッキー・チャオもそうだったが、シンチーは女優(女性キャラクター)の扱いが飛び抜けて“変”だ。だけど、その変さによって、他では見られないくらいに女優たちを輝かせてみせる。ヴィッキー・チャオも『人魚姫』(2016年)のリン・ユン(ジェリー・リン)もそうだった。

そしてこの『新喜劇王』でも、観客は老若男女関係なくモンに恋をするだろう。健気で隙だらけで、だけどタフでもある彼女は、まさにシンチー映画の主人公そのものだ。

『新喜劇王』©2019 The Star Overseas Limited All Rights Reserved.

モンのキャリアに転機をもたらす、落ちぶれたスターであるマー(ワン・バオチャン)がまたヒドい。いや、劇中で撮影されているマーの主演作は、冷静に考えると「正気か!?」という企画。彼が再ブレイクするきっかけも、かなりとんでもない。

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「今は“努力すればきっと成功する”と信じている」

その“とんでもなさ”があるからこそ、シンチーの映画はどん底の貧乏暮らしから“夢”への飛翔を可能にする。

「20年前の自分は“努力しても成功するとは限らない”と思っていた。でも今は違う。“努力すればきっと成功する”と信じている」

そうシンチーは言い切る。それでいて貧しさ、庶民の暮らしを“ダメな状態”としては描かない。アジア最大級のヒットメイカーになってなお、シンチーは庶民へのあたたかいまなざしを失っていない。

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そして、その庶民が夢をあきらめない限り、物語は続く。「降参しない限り負けではない」のだ。まるで今の人類すべてに対するメッセージのようではないか。チャウ・シンチーの映画は、見ると免疫力が上がる。これまでもずっとそうだったし、これからもだ。

『新喜劇王』©2019 The Star Overseas Limited All Rights Reserved.

文:橋本宗洋

『新喜劇王』は2020年4月10日(金)より新宿武蔵野館、シネマート心斎橋にて公開

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