心の「障害」向き合うべき

 相模原市の知的障害者施設で入所者ら45人を殺傷した罪に問われた植松聖被告に、横浜地裁は死刑を言い渡した。その後、被告が控訴を取り下げ、死刑が確定。重度障害者への偏見や差別的な言動を、公判でも悔い改めることはなかった。
 「重度障害者は不幸しか生まない」という浅薄でゆがんだ思考に、記事で反論したい気持ちがあった。2月の紙面で、東彼川棚町の県立桜が丘特別支援学校で活躍するヒーロー、さくらンダーの誕生秘話を紹介した。体が不自由な生徒4人が「頭を動かそう」と結成した右脳クラブ。メンバーには脳性まひで意思の疎通すら難しい生徒がいた。だが、彼を笑顔にしようという素朴な願いが、愉快なヒーローを生み出していく。
 取材や執筆を進めながら、「この物語をクエンティン・タランティーノ監督が映画化したら…」と妄想していた。タランティーノ監督の作品は、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺や米国の黒人奴隷制度など歴史上の「罪」に復讐を果たす物語が多い。いくら映画の中で、ナチス高官や黒人奴隷主を懲らしめたところで、悲惨で残酷な史実は変わらない。それでも、少しは観客の留飲を下げることができるし、現実の不正義に立ち向かう勇気だってくれる。
 監督にならってシナリオを書くなら、生徒たちのユーモアと優しさが生んだヒーロー「さくらンダー」が時空を超えて、被告を退治する。いや、「退治する」では、さくらンダーの信条に反するから、奇妙な動きで笑わせて犯行を阻止するといったところか。もちろん、亡くなった被害者や遺族には、こんな妄想は慰めにもならない。それでも、さくらンダーをめぐる現実の物語には、ゆがんだ差別意識に打ち勝つだけの強さがある、と思った。
 取材で出会った人々は、いずれも知性とユーモアにあふれ、「不幸」とは縁遠い。「障害者」と呼ばれる人たちと接するとき、最初に取り除くべき「障害」は自分の心にある、と気づいた。そして被告は、自らの心の「障害」から目をそらし続けている。
 記事を書きながら、もう一つ念頭にあったのは、故マイケル・ジャクソンさんの代表曲「マン・イン・ザ・ミラー」だ。「鏡の中の男から始めるんだ。世界をよりよくしたいなら、自分を見つめて、変わるんだ」。まずは自分が変わろう。それが世界を変える一歩になる。

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