夢と希望のキャッチボール プロ野球オリックスの若手と支援学校の交流

みなみのかぜ支援学校の児童と笑顔で記念撮影するオリックスの榊原翼投手=2月10日、宮崎市内のみなみのかぜ支援学校体育館

 夢や希望を与えたい。スポーツ選手がよく口にする言葉だ。どうしたらそれがかなうのか、考えることがある。

 一つの答えではないかという場面に取材で立ち会った。球春が近づく2月。オリックスのキャンプ地、宮崎市でのことだった。

 練習の休日を利用しての「みなみのかぜ支援学校」への訪問。参加したのは榊原翼、山崎颯一郎の両投手と、根本薫外野手の若手3人だ。

 小学部の1年から6年まで、さまざまな障害を抱えた児童約80人とテニスボールを使った的当てなどで遊び、あちこちで笑みがはじけていた。

 球団が参加選手を募ったところ、榊原がすぐに手を上げたという。それも「ほかの二人は僕がそろえますよ」という頼もしい言葉つきで。

 今季が4年目の榊原は、過去2年もこの活動に携わっている。

 基本的にプロ野球のキャンプに連休はない。貴重な休日は体を休めたいという考えもあるだろうが「毎年、元気をもらっている。笑顔が好きだし、いろんな人の笑っている顔が見たい」と迷わず3年連続で参加した。

 2年ぶりに顔を出した根本も「疲れているけど笑顔を見られて、明日からも頑張れる」と充実した表情で振り返った。

 児童それぞれに事情が異なり、反応もさまざま。それでも榊原は一人一人に目線を合わせ、自然に盛り上げていた。

 活動を重ねて慣れもあるのか「子どもが好きなんで。自分が楽しめれば、向こうも楽しいでしょ」とさらり。

 山崎颯は、昨年8月に右肘のトミー・ジョン手術と呼ばれる靱帯(じんたい)再建術を受け、昨オフに育成契約となったばかりだ。

 どうするのかと思って見ていたら、利き腕とは逆の左で球を投げていた。

 普段見ることのないような立派な体格の選手たちが、自分たちと遊んでくれる。得がたい経験に違いない。

 「かっこいいな」「ああいうふうになりたいな」と思ってもらうことは、夢や希望を与えるという言葉そのものではないだろうかと感じた。

 最後は子どもたちが「パプリカ」のダンスを披露。3人も見よう見まねで懸命に体を動かしていたが、それもまた子どもたちには好評のようで、会場は笑い声が絶えなかった。

 「いいでしょ、こういう活動」とうれしそうにしていた球団広報に、大いに賛同した。

 「プロ野球選手」という特別な存在だからこそ、一般人がするよりも与える影響力は大きく、またできる活動だと思う。

 社会貢献活動のあり方には他にも寄付など多くの方法がある。今回参加した3人には申し訳ない表現だが、誰もが知るばりばりのスター選手というわけでもない。

 それでも、子どもたちの輝いた表情を見ていると、顔を合わせて時間をともにする地道な活動の効果はとりわけ大きいと実感した。

 新型コロナウイルスの感染拡大に収束の兆しが見えず、4月7日には政府の「緊急事態宣言」が出された。

 プロ野球の開幕時期も見通せない状況が続いているが、育成選手から2018年に支配下契約を勝ち取り、昨季はプロ初勝利を含む3勝を挙げた榊原は「ニュースで見て『あの人だ!』と思ってもらえたら」と躍進を期していた。

 「遊びに来てくれたお兄ちゃんたち」のいいところを見てもらうためにも、シーズンの開幕が待ち遠しい。

長井 行幸(ながい・みゆき)プロフィル

2007年に共同通信入社。大阪運動部でプロ野球阪神、高校野球、ラグビーをカバー。その後、本社運動部でロッテを担当するなどし、19年12月から大阪運動部でプロ野球、大相撲などを取材している。千葉県出身。

みなみのかぜ支援学校の児童とハイタッチする榊原翼投手(61)、山崎颯一郎投手(135)、根本薫外野手(59)=2月10日、宮崎市内のみなみのかぜ支援学校体育館

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