「学校は地域で話し合って柔軟な対応を」「要請と補償はセットで」 公衆衛生の専門家が捉える緊急事態宣言

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安倍晋三首相は4月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に対し、緊急事態宣言を出した。期間は5月6日までで、警戒度はさらに上がっている。

私たちの生活はどう変わるのか、先の見通しはどうなのか。

厚生労働省で対策作りにも関わり、公衆衛生や産業保健、感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに再び聞いた。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed 緊急事態宣言が出るのを前に、私たちはどのように行動すべきなのか提案する和田耕治さん

※インタビューは4月7日昼にスカイプで、7日夜と8日の朝にメールで行い、この時点の情報に基づいている。

緊急事態宣言が出て、どう対応すべきか?

ーーいよいよ緊急事態宣言です。これで私たちの生活は大きく変わるのでしょうか?

緊急事態宣言は、手段であって、目的ではありません。新たなスタートを切ると捉える必要があります。それに向けた準備が大事でしたし、なによりこれから市民が行動を変えていくことが求められます。

緊急事態宣言が対象となった地域で特に市民に求められるのは、人と人との接触をこれまで以上に減らすことです。

和田耕治さん提供 和田さんが望ましい距離を示すために作ったロゴ

人と人との接触とは、手を伸ばしてふれあう距離、具体的には2m内の距離に人がいるという状況を指します。これまでの海外の対応からも、人と人との接触の機会を大きく減らすことで感染拡大が抑えられることが明らかとなっています。

北海道大学の西浦博教授は平時での接触を100%とすると、緊急事態宣言の下では、社会全体で20%まで下げる必要があるという試算を出しています。

緊急事態宣言の対象地域からその他の地域への移動には、感染拡大のリスクがあるため避けてください。地域内でも人との接触を最小限にしてください。手洗いも引き続きしっかりと続けてください。

また、緊急事態宣言がでていない地域でも、いずれ出る可能性があるので、出ている地域での課題や教訓を学ぶ必要があります。

ーーこれまでも外出などの自粛要請はありました。さらに何が求められているのですか?

個人レベルでは、医療と社会機能の維持に関わる人は今後も外出が必要です。一般の人でも食品の買い物や通院、近所での散歩はできます。

ただ、その中でも最大限の努力や工夫をして、さらに他人と2m以内で接する機会を減らすことが必要です。

医療と社会機能の維持に関連が直接ない業種でも、事業の継続のために優先すべき業務を洗い出し、それができる職員を特定しなくてはいけません。

すべての事業者は、職員が感染や不安で出勤できなくなることを想定し、早急に職員が1割減、2割減、5割減などの状況を想定して、事業が継続できるかを確認しなければなりません。

今後の影響と見通しは? みんなの行動にかかっている

ーー今後の影響や見通しについて教えてください。

人と人との接触や行動を8割減らすことが目標となっています。そのなかでも、基本的に、医療とインフラなどの社会機能は回してもらう。ゴミも集めてもらうし、病院も開くし、スーパーもガソリンスタンドも開いていただきます。

一方で、緊急事態宣言の間は業務の継続が難しい業態があります。

例えば、会食する場や夜の繁華街のお店です。

そうした場所は、中長期的にも感染リスクの高い場として通常営業が難しい状況が続きます。宅配をとりいれたり、距離をあけたお店にしたりするなどの工夫を考えないといけません。

和田耕治さん提供

みんなの行動変容が早ければ早いほど、流行は早く収まることになります。しかし、2割や5割減など、中途半端な行動変容なら、流行が収まるまでに時間がかかってしまい、GW以降も続くかもしれません。

今回の宣言は、5月6日まで出すということですが、感染者が減らない場合は延長もあるかもしれません。もし、かなり制御できれば、いったん終わりになるかもしれません。

また、他の地域で流行すれば、5月6日までの間に新たな地域を対象に宣言が出る可能性もあります。

今後、さらに流行が拡大するような状況があったとしたら、宣言の対象地域を全国に広げて、また期限も長めにするような日が来るかもしれません。そうした場合には知事権限に基づき、それぞれの地域で対応することになるでしょう。

多くのニュースでは、対象になった地域にだけ焦点が当てられていますが他の地域も、同じような状況に置かれるのだということを考えておかなければいけません。

東京都の例がよく報道されており参考にはなるでしょうが、対象の都府県はそれぞれで知事のもとで対応について検討することになります。段階的に制限の要請を強化するなどの権限もあります。

今後、感染拡大が収まったとしても、結局、ある程度の人が免疫を持つようになるまで、様々な対策を続ける必要があります。

この新型コロナの対策は、年単位で続くことを考えておく必要があります。

打撃を受ける職種の人はどうしたらいいのか?

ーー年単位と言われ、政府からの休業補償もしっかりなされない場合は、打撃を受ける職種の人は生活できなくなります。

昨日、夜遅くにタクシーに乗りました。運転手さんに「今日は何人めのお客さんですか?」と聞いたら、「5人目の客です」と言うのです。普段は、その時間までに15〜16人のお客がいるはずなのが、5人だけだということでした。

それでは生活できませんよね。「仕事を今後変えたりすることも考えているのですか?」と聞いたら、「変えないといけないのかなぁ」とおっしゃってました。お子さんもおられるとのことでした。

中長期的な見通しを示すのは難しいですが、ある程度、示さないと生活が守れないと思います。このウイルスとの戦いの影響の大きさが本当に身にしみました。

新型コロナの影響が長引く中で、政府や自治体からの補償もあるでしょう。もちろん、補償と要請はセットであるべきだと思います。

大きな財政出動は今後も必要です。中長期の対策を見据えていただく必要があります。今が底ではなくて、これから底を迎える可能性があるからです。状況はさらに悪くなることも考えられます。

宣言のタイミングは適切だったか?

ーーそもそもこのタイミングでの緊急事態宣言は適切だったのでしょうか? 4月1日の政府の専門家会議の提言と同じタイミングで出すべきだったのではないかという意見がありましたし、出すべきではないという意見もありました。

緊急事態宣言により、人々の行動をこれまで以上に急激に変えることが期待されます。

4月1日の段階で宣言して、2日か3日からスタートということだと、社会の側の準備ができていなくて、混乱が生じた可能性もあったように思います。

最後の調整に時間がかかった印象がありますが、「出るぞ」とある程度、報道されてきたことで、都道府県の準備も市民の心の準備や緊急事態宣言の内容の理解も含めて、遅まきながらも進んだところはあると思います。

補償の話もでてきたこともあり、社会が混乱することを避けるという意味ではこのタイミングで出すのは致し方なかったと考えています。

ーー緊急事態宣言を出しても、知事による要請や指示に強制力はありません。今までも行動の自粛が要請されてきたことと比べ、人々の行動は変わりそうでしょうか?

より具体的に出すことで、変わり得ると思います。安倍首相が会見でどこまで具体的なメッセージを示せるかによるでしょう。首相のスピーチはかなり具体的な内容であったと思います。

イギリスのボリス・ジョンソン首相のメッセージもすごくわかりやすかったですね。医療と社会機能だけはこれまで通り続けてもらう。あとの人は、外に散歩には行ってもいい。運動もいい。だけど人と接触しないで、と語りかけました。

AFP=時事 ジョンソン首相のテレビ演説を見る市民

補償、不十分ではないか?

ーー補償ですが、受給の要件のハードルが高過ぎると批判が噴出しています。対象となる人の所得レベルもとても低いのでほとんどの人が受け取れず、手続きも煩雑ではないかと言われています。逆に不安になっている人が増えています。

私は医療の専門家で詳しくはわからないので、経済の専門家にもぜひご意見をお聞きしたいと思います。

ただ、公衆衛生の専門家としては、自粛要請は補償とセットでないと実効性がないということは指摘しておきたい。

どういう制度を作り、どういう補償をすれば、国民に納得感が得られるのかは、大変難しいと思います。

しかし、感染症とは違う理由で亡くなる人が増えてしまったら、意味がありません。仕事を失ったり、住んでいた寮を追われたりした話もすでにあります。家のローンなどが今後滞るなどもあるかもしれません。

そこをどう救済するかは、国民が声をあげて、それを政治が柔軟にすくい上げ、経済の専門家と相談しながら決めていくしかない。

その際、すぐの救済も大事ですが、中長期的な問題になるということも全ての人に意識してもらいたいです。

今回対象となっていなくてもいずれ皆さんの地域でも緊急事態宣言の対象となる可能性があります。事業者も、自分の地域で同じことが起きることを考えておかないといけません。

学校はどうするか? 教育の機会と感染予防との天秤

ーー学校の休校対処についてはどのように考えたらいいでしょうか?

政府の専門家会議が4月1日に出した提言では、このように書かれています。

「現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられている。したがって、学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である。また、子どもに関する新たな知見が得られた場合には、適宜、学校に関する対応を見直していくものとする」

小中学校をどうするかは、専門家の中でも判断がついていません。

時事通信 学校を休校すべきかどうかという議論は分かれている

ーー3月いっぱいの休校措置が効果があったかどうかについてもあまり触れていないですが、「子どもは感染拡大の役割を果たしていない」とは書いてありますね。

あの措置をやったことによって、流行を遅らせることにどれほどのインパクトがあったかどうかの評価は難しいです

それによって子どもたちの教育機会が失われたり、親が仕事に行けないことがあったり、負のインパクトもあったわけです。

命はなによりも優先しますが、様々な負担も含めて感染拡大予防効果と天秤にかけないといけない。

緊急事態宣言が出て、例えば千葉県で、県内全域の全ての小中学校を閉める必要があるかどうかと言えば、必ずしもそうではない。

千葉県内でも、千葉市と銚子市では全然状況が違いますね。全然感染者が出ていない生活圏でも閉めるのですか?という話になります。

一方で、安易に一斉に県内を休校としたら、今後も厳しい状況が続きますので、場合によっては1年ぐらい学校が開けない可能性もあります。

高校や大学については、やや生活圏を大きく考える必要はありますが、このくらいの年代なら自立した学習もある程度は期待できそうです。

一律休校ではなく、生活圏で話し合いを

ーー生活圏によって、個別の判断をした方がいいということでしょうか?

小学校、中学校で、直前の1〜2週間、「生活圏」の中で新規感染者が出ていない場合、市町村や教育委員会など意思決定をする人は、地域住民と議論するという考え方もあると思います。

休校に伴う様々な利点と欠点をあげて、教育や地域への影響も含めて考える。

それでも、地域住民が「不安だ、休校しろ」と主張すれば、休校する選択肢もあるでしょう。ただ、今の段階で休校するなら、年単位で学校は再開できない可能性があると考えた方がいい。しばらくは厳しい状況が続くでしょう。

私個人は、感染対策を十分にしながら、小中学校は続けてもらった方がいいと思っています。

確かに、東京23区の様な人口過密地域は、人の動きも大きく、生活圏が広く、今後も再開はかなり厳しい可能性があります。

でも、新規感染者の少ない地域は、通学する人数を減らしてでも続けることを考えた方がいい。皆で知恵をしぼってほしい。

思いつき程度ですが、クラスにくる子どもを半分にして、学級番号が奇数の子どもは奇数の日、偶数の子どもは偶数の日に来させるなど、3密をさけてどう運営するか考えてもらうこともできるでしょう。

ーーどこまでリスクを社会が許容できるかですね。

ゼロリスクでない以上は、地域で考えていただくしかないのです。

「緊急事態宣言が出たので、都道府県で一律に休校です」ではなくて、各自治体、各市町村は、小中学校は少なくとも、なんとか知恵を絞って続けることを考えてほしい。

都道府県一律に閉めないと不公平という議論も出るでしょうね。また、我が子に教育を受けさせるために、引っ越す人も出てくるかもしれません。

それも含めて教育の専門家と学校も交えて議論しないといけません。安易に休校にしたら、再開する方も大変です。

公衆衛生の専門家として強調したいのは、今、開けられる地域ではあけておかないと、今後1年間は難しい状況が続き得るということです。

リスクはある中で、学校を続けることを考えて

ーーそれは子どもの教育を受ける権利を考えてのことですね。

教育を受ける権利もですが、子どもにとっては学校は生活の一部です。学校は大事なんです。子供にとっての社会ですから。

行き場所がなくなったら地域に作らないといけません。でも、学校という指示系統がある程度、機能する場所で、工夫した方がいいと思います。体調確認もできるし、地域で子どもがどういう状況かも把握できます。

責任を取るのは市町村長や親ですから、そこは、当事者の意見をよく聞いて、決めないといけません。学校の運営については、当事者の意見を聞かずに決めている例が多い気がします。

閉めろという声は大きいです。SNSでも「#命を守るために一斉休校」というハッシュタグができているようです。

これまでも自治体に対しインフルエンザのシーズンに「なぜ、いま、学級閉鎖をしないんだ」というクレームはあっても、「なぜ、いま、学級閉鎖したんだ」というクレームは少なかったと聞きます。休校をしない場合には、色々な人から批判の声が届くと思います。

それでも、市町村は「こういう対応をして学校を続ける」という理由をきちんと示して、かつ毅然と対応すべきだと思います。また、学校の先生やそのほかの職員の感染対策は徹底的にやる。感染者が出たら、すぐに対応する。

リスクがあるから学校を閉めろというのは簡単です。

でも、リスクはあるけれども開けることを考えてほしいと、あえて申し上げたい。それほど学校は、子どものために大事な場です。批判があればそれも含めて今後、議論ができればと思います。

夜の街、飲食店などは安全に開くことはできないか?

ーー学校についてお話いただいたことを考えると、リスクが高いと名指しされている夜の街や飲食店なども、まだ新規感染者がいない地域なら、安全に開く方法があるのではないですか? 一律に閉めることを決めるのはどうなんでしょう?

感染対策の観点から安全な夜の街を作ることはできるかもしれません。でも公衆衛生の専門家が考える夜の街と、一般の人が考える夜の街が一致しているかどうかわかりませんが、少しお話してみます。

Julian Elliott Photography / Getty Images 夜の街は緊急事態宣言の対象地域では休業を求められそうだが...

ーー確かに猥雑さも夜の街の魅力の一つですから、クリーンな夜の街というのが想像つかないですね。

例えば、夜の街でも3密を避け、緊急事態宣言が出ていないような地域の店なら、可能かもしれません。

でも、店の接客をする人がお客さんの近くでお酒を一緒に飲んだり、お話したり、また、手を握ったりするようなこともあるようなお店では感染対策は難しいでしょう。

今後も、3密(密閉、密集、密接)にならないような工夫が求められます。

例えば、接客の距離を2m開ける、または接客でも透明なアクリル板で仕切って会話するなどならできるかもしれません。

ICT(情報通信技術)を活用して接客するなど、あらゆる工夫を検討してみていただきたいです。

終わりの見えない規制 出口戦略をどうするか?

ーーとりあえず、1ヶ月の緊急事態宣言となりそうですが、みんな終わりが見えないことに疲れています。出口戦略を示すべきではないでしょうか?

今後も、例えば人口の多い愛知で感染者が増えたら、追加の宣言の対象になるかもしれません。全国で感染状況はまだらになっていくことが考えられます。

この1ヶ月間は在宅や休業の方もいるかもしれません。ただ休むのではなく、新たな業態への転換やご自身の生活をどう守るかといったことも考える時間をとることが必要です。

ーー都道府県知事がいつ制限の要請を解除するのか、基準が示されないと、いつまでも続くのかということで疲れてしまう。「こうなったらいったん解除します」というのを市民にも共有した方がいいのではないでしょうか?

都道府県でのそれぞれの流行状況を自分たちで評価しながら、示すべきでしょうね。

もう一つ今、問題なのは保健所や医療機関が既にかなり疲弊しているということです。感染者がどこで感染したのか、誰に感染した可能性があるか聞き取り調査をする「積極的疫学調査」にも答えてくれないことが多いようです。

でもそれに答えてくれないと、地域に流行が起きていると仮定せざるを得ず、制限は長引くことになります。感染した方が協力してくださることが必要なんです。

一般の人へ 「距離を取りながらも支え合おう」

Naoko Iwanaga / BuzzFeed Japan 「距離を取りながら支え合おう」と呼びかける和田さん

ーー最後に一般の方へのメッセージをお願いします。

この感染症は、中長期戦が続きます。医療従事者も感染の恐れを飲み込みながら、歯を食いしばって医療現場に留まっています。

私たちが感染しないことは、コロナだけでなく、他の病気や怪我でも医療を受け続けられるようにしていくためにも、医療者の頑張りを応援するためにも、大事なことです。

タレントさんも含めて、医療従事者への応援の言葉を送ってくださっていることに心から感謝しています。地域の医療機関に市民が不織布製の使い捨てマスクを寄付してくれる運動があることにも医療従事者は勇気付けられています。

それぞれがみんな大変な中、頑張っています。

今以上にお互いに距離を開けながら支え合う姿勢を見せていくことが、ウイルスとの年単位の戦いを支えていくと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

新型コロナウイルスの発生と「指定感染症」への指定を受けて、編集に関わった『新型インフルエンザ(A/H1N1)わが国における対応と今後の課題』(中央法規出版)を期間限定で公開している。

和田さんがデザイナーの下部純子さんと組んで、個人で行なっているプロジェクト「stay home to save lives 新型コロナウイルス感染爆発防止のために私ができること」はこちら