日常とプログラミングをつなぐ習慣「デイリーコーディング」とは? 第一人者に聞く

プログラミングでつくるアートや表現に興味のある人々の間で広がりを見せている「デイリーコーディング」。第一人者でもあり、自らも実践している甲南女子大学講師の高尾俊介さんにお話をうかがいました。

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甲南女子大学講師の高尾俊介さんにインタビュー

この連載ではこれまで、忙しい社会人や非理科系の学生さんなどプログラミングを集中的に学ぶ環境から少し距離のある人たちが、はじめてプログラミングに挑戦し楽しく継続的に学んでいくためのアプローチを紹介してきました。

今回は、プログラミングでつくるアートや表現に興味のある人々の間で広がりを見せている「デイリーコーディング」を紹介します。デイリーコーディングは、直訳すれば「毎日、コードを書く」こと。毎日コードを書くのはちょっとハードルが高そうな感じがしますが、実際はどうなのでしょうか。

デイリーコーディングを実践し、Twitterやプログラミング作品の共有サービスである でほぼ毎日作品を公開している、甲南女子大学講師の高尾俊介さんにお話を
うかがいました。

高尾俊介さんプロフィール

1981年生まれ,熊本県出身.クリエイティブコーダー.詩を書くように自由にコードで自己表現するデイリーコーディングを提唱,実践している.情報科学芸術大学院大学修了.甲南女子大学メディア表現学科講師.

http://cenkhor.org/

プログラミングで表現することを日常に取り入れる

─大学では、どのようなことを教えていますか?

高尾:この学科は表現に関するさまざまな領域を学べることが特色です。私の研究室のテーマは「ニューメディア」と名づけて、テクノロジーを使った新しい表現を対象とします。プログラミングもそうですし、3Dプリンタや、センサー、マイクロチップなどハードウェアを組み合わせた表現の探求も行っています。入学した時点ではほとんどこうしたものに触れたことがない学生も、手法を学びながら興味を深めて制作しています。一例としては、映像や音楽、アクセサリーなどをつくっている学生もいます。

高尾さんが京都造形芸術大学で行ったハードウェアを使う演習。プロッターにプログラミングで絵を描かせている。講座はYouTubeで公開されている。https://www.youtube.com/watch?v=ZCO-8CubifI
高尾さんが公開している作品の一部。多くの美しい作品がデイリーコーディングから生まれている(OpenProcessingの高尾さんのアカウントから引用)。https://www.openprocessing.org/sketch/748527

─多くの作品を公開されていますが、高尾さんにとってデイリーコーディングとはどのような取り組みなのでしょうか?

高尾:デイリーコーディングは私以外にも多くの実践者がいて、スタイルや考え方はそれぞれですが、私の場合は、スキル上達のために毎日行うというよりも、プログラミングで何かを表現することを日常生活に取り入れてみようという思いで取り組んでいます。

どういうことかというと、プログラミングで何かをつくるというとき、ゲームやアプリケーションなど、複雑で大規模なものを想像しがちですが、そうではなくて、たとえばたまたま見かけたパッケージの柄をプログラムで表現してみようとか、以前つくったあのコードとこのコードを組み合わせるとどうなるかなど、何気なく思い浮かんだ興味をそのままにせず、簡単でもいいから実際にやってみようという気持ちを大切にしています。

表現を続けることで表現に「自分らしさ」が出てくる

─日々、続けることでどのような変化があるのでしょうか?

高尾:表現を続けることで、次第に表現に「自分らしさ」が出てくることに気がつきました。2015年ごろからはじめたのですが、そのころは技術を習得することやスキルを高めたいという意識が強かったのです。しかし、次第に技術を多く吸収することよりも、今の知識の範囲でもさまざまな表現を探求できることに気がつき、表現の幅を広げることが楽しくなりました。語学に例えると、文法や単語を覚える時間も大事ですが、会話や文章を書く機会を増やして楽しむことで表現を豊かにしていくことに似ていると思っています。

https://www.openprocessing.org/sketch/863439

とにかく楽しいと思えることをやること

─1日どれくらいの時間をかけるのですか?

高尾:長く時間が取れるときでも1時間以内ですね。15分くらいのときもあります。その日のコーディングを終えるときに、この先の展開についてのアイデアを少し考えておくと、翌日、スムーズにはじめられます。

─モチベーションを維持するには何が必要でしょうか?

高尾:とにかく楽しいと思えることをやることですね。最先端の技術を使うことが楽しければそれもいいと思いますし、そうでなくても構いません。「作品」と呼べるレベルのものが毎回つくれなくてもいいし、極端な話、動かなくてもいい(笑)。毎日少しだけでもアイデアをコードで表現することにトライできれば100点です。

─具体的には、どのような言語や環境を使って作られていますか?

高尾:言語としてはp5.jsを使っています。毎回、まっさらな状態のエディターに向き合って書きます。そして、できたものはOpenProcessingに投稿していますが、これは作品を公開するというより、過去に書いたものを振り返るときに、作品をサムネイルで一覧したいからです。たくさんのサムネイルが並んだ状態を眺めていると、それだけでもインスピレーションが湧きます。

─これからはじめてみようかな?と思っている人へのメッセージやアドバイスはありますか?

高尾:デイリーコーディングに限らずですが、最近ではコーディングで「自分らしさ」を探求している人たちが、Twitterをコミュニケーションの場所として緩やかにつながっています。そこではスキルの高い低いではなく、それぞれの作者のその人らしさが現れていておもしろいですね。自分が稚拙でつまらないと思っていたものでも、それが誰かにインスピレーションを与えたり、逆のこともよく起こります。そうした緩やかなつながりに参加してみるのも、コーディングを楽しむコツではないでしょうか。

日常の出来事とプログラミングを緩くつなぐ

プログラミングには興味があっても、何をしていいかわからないという方も少なくないと思います。今回、高尾さんのお話を聞いて、日常の出来事とプログラミングを緩くつなぐ取り組みには、プログラミング学習のハードルを下げ、仲間と楽しく続けていくためのヒントがたくさんあると感じました。

紹介いただいたProcessingのコミュニティのひとつ「Processing Community Day Tokyo」は以下からご覧いただけます。

Processing Community Day Tokyo

PCD @ Tokyo (@PCD_Tokyo) | Twitter

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