球界の歴史を変えたフローレスの涙 MLB公式サイトが特集

メジャーリーグ公式サイトのアンソニー・カストロビンスは、関係者の証言を基にしながら2015年7月末のトレード・デッドラインにおけるウィルマー・フローレスのトレード騒動に関わる動きを振り返る特集記事を公開した。メッツからブリュワーズへ移籍することが決定的となり、グラウンドで涙を流したフローレス。結局フローレスはメッツにとどまることになったが、結果的にはこのフローレスの涙が球界の歴史を変えることになった。

カストロビンスの特集記事によると、ナショナル・リーグ東部地区において1ゲーム差で首位ナショナルズを追っていたメッツは、外野手、特に中堅手の補強を目指しており、ブリュワーズのカルロス・ゴメスに目を付けた。

ブリュワーズとの交渉の結果、メッツはゴメス獲得の対価としてフローレスとザック・ウィーラーの2選手を放出することを決断。「もしワールドシリーズへ進出して世界一になれなかったら、人々は打線の補強をしなかったことを責めるだろう。ファンに対して補強という形でメッセージを発信する必要があった」というサンディ・アルダーソンGMの判断が決め手となった。

しかし、試合中にトレード合意が報じられ、フローレスがトレードされることを知ったファンは、フローレスにスタンディング・オベーションを浴びせた。ファンからの温かい声援に困惑したフローレスだが、自身のトレードが報じられていることを知り、試合中であるにも関わらず、グラウンドで涙を流した。

ところが、メッツは身体検査の過程でゴメスに問題が見つかったことを理由に、このトレードを白紙に戻した。ゴメスは通常通りに試合に出場し続けており、ブリュワーズは困惑。ゴメスの健康状態に本当に問題があったかどうかは不明であり、ウィーラーの健康状態に問題が見つかった、ゴメスの年俸負担について合意できなかった、メッツのフロントがフローレスの涙に心を動かされたなど、様々な原因が推測されている。

しかし、結果としてメッツのゴメス獲得が白紙に戻ったことが、球界の歴史を大きく変えることになった。ブリュワーズは他球団と改めて交渉を行った結果、ゴメスとマイク・ファイアーズを放出してアストロズからジョシュ・ヘイダー、ドミンゴ・サンタナ、ブレット・フィリップス、エイドリアン・ハウザーの4選手を獲得。ヘイダーは球界最強クラスのリリーバーとして近年のブリュワーズの躍進を支え、アストロズに移籍したファイアーズはのちに不正なサイン盗みを暴露することになる。

また、メッツはゴメスの代わりにタイガースからヨエニス・セスペデスを獲得。タイガースのジム・リーランド監督にセスペデスがセンターを守れるかを確認し、「ウチのチームではレフトを守っているけど、彼がセンターを守れない理由はない。身体能力の高い選手だからね」とお墨付きをもらったうえで獲得を決めた。

セスペデスは、メッツ加入後の6週間で10二塁打、17本塁打、OPS1.048という驚異的な活躍を見せ、逆転での地区優勝に大きく貢献。また、セスペデスとのトレードでルイス・セッサとともにタイガースへ移籍したマイケル・フルマーは、翌2016年に新人王を受賞する活躍を見せた。

フローレスが流した涙がなければ、メッツはセスペデスでなくゴメスを獲得し、2015年のワールドシリーズに進出していなかったかもしれない。また、メッツとブリュワーズのトレードが無事に成立していれば、ヘイダーがブリュワーズに加入することもなく、ファイアーズがアストロズの不正なサイン盗みを暴露することもなかったかもしれない。フローレスのメッツへの愛情が球界の歴史を大きく変えたのだ。

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