医療保険の見直し、プロが実際にかかったお金を元に必要かを考える

生命保険のなかで、もっとも売れているのが「医療保険」です。生命保険協会のデータによると、新規契約数では医療保険がトップになっています。

また、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2019年)によると、生活上で不安を感じていることのトップは、自分または家族が「病気や事故にあうこと」でした。多くの方が、突然、入院したときにかかる医療費を心配しているようです。

このように、みなさんが興味を持っていて、かつ一番売れている医療保険なのですが、それは本当に必要なのでしょうか?今回は、「医療保険は本当に必要なのか?」ということについて考えていきたいと思います。


治療費は114万円でも自己負担は約14万円

まず入院したら、どのくらいの医療費がかかるのかを考えてみましょう。私の体験談を例にしてみます。

2014年、私は扁平足の手術のため2週間の入院をしました。手術は足の筋の移植と外反の矯正です。そのときに病院に支払った金額は、総計で14万3720円です。

2週間の入院で14万円もかかるのか!と思った人は、ちょっと待ってください。

これは実話ですので、その内訳をリアルに解説していましょう。実際にかかった治療費というのは114万円です。健康保険がありますから、3割なので34万2000円が自己負担分です。高額療養費制度を使って「限度額認定書」を提出していたので、実質の負担額は8万9000円です。

それ以外の費用として、差額ベッド代は、1泊3240円×14日=4万5360円。食費1食260円で12日分=9360円(手術の日は絶食)。8万9000円+4万5360円+9360円=14万3720円です。

その他の費用として、パジャマ代、下着代など少しかかりました。テレビはぜんぜん観なかったので視聴代はありません。入院中は、編集者から「足は動かなくても手は動くから原稿は書けますよね!」と言われ、ずっと原稿を書いていました(泣)。

つまり、14日間の入院で3回の食事までついて、14万円です。1日1万円という計算ですね。そう考えると入院・手術というのは、それほどお金がかからないと思いませんか。

入院は1日で1万円、ほとんどが短期の入院

生命保険文化センター調べのデータをみても、入院1日あたりにかかる費用というのは、1万5000円未満というのが全体の半数以上です。私の1日約1万円というのは、平均的な金額というのがわかりますね。

ところで、私の2週間という入院日数は、じつは長い方になります。厚生労働省の「患者調査の概況(2017年)」を見てみると、平均入院日数は約29日になっていますが、これは全年齢の平均値です。高齢者の入院日数は長く、若年層は短いのです。

そして、1週間以内に退院というのが約半数近くあります。つまり私の14日間の入院は長い方になるのです。また、入院したら必ず手術があると言うわけでもありません。実際は入院しても約65%の人は手術をしていないのです。

「医療保険に入っていてよかった」は勘違い?

では次に、医療保険は必要なのか?というのを考えてみましょう。

Aさんは、保険料が月額2500円の医療保険に入っています。保障内容は、入院給付金日額5000円、手術給付金5万円です。病気で1週間の入院をして、治療費の自己負担額は7万円でした。

医療保険からは3万5000円の入院給付金を受け取りました(5000円×7日間=3万5000円)。それにより治療費の負担額が半分になったのです。Aさんは、「医療保険に入っていてよかった!」と喜びました。

しかし、医療保険に支払った保険料は、月額2500円ですので、年間3万円です。どうでしょうか? なんか得した気分が消えてしまいませんか?

治療費の自己負担額の7万円というのは、ある程度の貯蓄があれば対応できるはずです。これならば、わざわざ医療保険に入る必要はありませんね。

この医療保険に20年間入っていると、支払う保険料の総額は60万円になります。このお金を病気のときの予備費に取っておく方がずっといいと思いませんか。

医療保険は、長期の入院に対応していない?

「短期の入院では、医療保険は意味がないのはわかった。でも長期入院したときには、やっぱり医療保険って必要ではありませんか?」という声が聞こえてきそうです。

そうです。長期の入院にも備える必要はありますね。でも、残念ながら医療保険というのは長期の入院には対応できません。「えっ?」と驚く人もいますが、本当です。

販売されている医療保険は、入院限度日数が60日型というのが一般的です。そして、ちょっと長めなものには120日型というのがあります。つまり、入院限度日数が60日型の場合は、連続で60日超えて入院した分の入院給付金は出ません。入院が長期化する病気というのは、一般的にどういうのもがあるのかを見ていきましょう。

統合失調症の平均入院日数は約532日、アルツハイマー病は約252日、脳血管疾患は約78日、慢性閉塞性肺疾患は、約62日、高血圧性疾患34日、悪性新生物(がん)約16日などがあります(「患者調査の概況」2017年度)。こう見ると、精神及び行動の障害以外は、長期の入院は少ないのです。

長期の治療には「就業不能保険」が対応している

ところが入院で本当に困るのは、半年ぐらい長期入院をしたときや、そのあと退院しても働けなくなったときでしょう。

たとえば、何ヶ月も入院するようなことがあったら、退院してもすぐに仕事ができるとは限りません。ですので、本来は長期の入院や仕事ができなくなった時に備えたいのですが、医療保険を長期に設定すると保険料も高くなります。しかも、医療保険は、退院するとその後の保障はないことが多いのです。

医療保険とは別に、就業不能保険というのがあります。この保険は、働けない状態が60日や、180日続いた場合に、給料のように保険金を受け取ることができる保険です。こちらの方が長期の入院や働けなくなったときに対応できます。

医療費控除の計算は、給付金額を引く

1年間の医療費が10万円を超えると医療費控除が使えて、税金が戻ってきます。
そうは言っても10万円を超えることは、あまりないかなと思う人も多いでしょう。じつは家族全員の医療費を合算することができます。そう考えると、子どもの歯の治療費や、両親の医療費も合計すると10万円くらいになることはあります。

ところが、医療保険で受け取った給付金は医療費控除から引くことになっています。
たとえば、Bさんが入院と手術で14万円の治療費がかかったとします。家族の医療費も合算すると20万円になりました。そして、医療保険から7万円の給付金を受け取りました。

このときの医療費控除の計算は、次のようになります。20万円−7万円−10万円=3万円。

3万円が控除されます。所得税・住民税が10%ずつならば、6000円の税金が戻ります。ではもし、医療保険に入っていない場合は、給付金がないので下記の計算になります。20万円−10万円=10万円

10万円の控除になり、所得税・住民税が10%ずつならば、2万円の税金が戻ります。

どうですか? 最も売れていて人気の医療保険なのですが、じつは必要性の低い保障なのです。もし、保険の見直しを考えているときは、本当に医療保険が必要なのかを再検討してみてはいかがでしょうか。

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