志村けんの音楽愛、ドリフターズのコントにはいつもソウルが溢れていた♪ 1980年 12月21日 ザ・ドリフターズのシングル「ドリフの早口ことば」がリリースされた日

お化け番組「8時だョ!全員集合」大人になって見返すと驚くことばかり

志村けんが旅立ってしまった――
最近では笑いの神様、喜劇王のように表現されるけれど、テレビの前で笑い転げて育ってきた私たちにとって、志村けんという存在はそんなに神々しい存在ではない。もっと身近な「親戚の面白いおじさん」、「ふざけてばかりいる人気のクラスメート」という感じ。

だからこそ今、志村けんの旅立ちが寂しくて寂しくてたまらない。いまだに心の穴が埋められず、最近は YouTube などで『8時だョ!全員集合』ばかり観ている。これがまた、大人になって見返すと驚くことばかりだった。

スピード、テンポ、リズム… ドリフターズのコントはまさに音楽!

ザ・ドリフターズのコントの魅力は、圧倒的なスピードと流れるようなテンポ、気持ちよいほど爽快なリズムにあると思う。それはまさに音楽だ。コントの中で、いたずらっ子な瞳の加藤茶と志村けんが歌い始める「♪ ピカピカの一年生~!ビシッ!」も、思わず吹き出してしまう白鳥姿の「東村山音頭」も、歌っては散々大人たちに叱られた「♪ カ~ラ~ス~ なぜなくの~ カラスの勝手でしょ~」も、絶妙なタイミングで登場。

リズミカルな歌い方と動きに合わせて、会場やテレビの前の人たちが一緒になって歌いだすのだから本当にすごい。会場に響く子供達の笑い声や掛け声すら、もはやコントの効果音のようだ。もともとザ・ドリフターズといえば音楽バンドなのだから、音楽で培われた抜群のリズム感がコントの中にも色濃く反映されていたのだろう。

今思えばゴスペル? 少年少女合唱隊と「ドリフの早口ことば」

『8時だヨ!全員集合』を振り返って、一番心に響いたのが「少年少女合唱隊」。ドリフのメンバーとゲスト歌手が白いベレー帽と衣装に身を包み、教会を舞台に早口ことばなどを歌い上げていくあのコーナーだ。今思えば、これはゴスペルだ。

「Ladies and Gentlemen!! ワン、ツー、スリー、フォー」の掛け声で、生バンドが演奏をスタート。「♪ 生麦 生米 生たまご 生麦 生米 生たまご~ イエーィ」と怒涛の早口ことばが展開されていく。この文字を読んだだけで、自然と “あの曲” が再生されないだろうか? 一度聴いたら忘れない、このリズミカルな曲の原曲は、ウィルソン・ピケットの「Don't Knock My Love」だ。

波のようにうねる重めのグルーヴ感に変えて、過剰なまでにループさせるアレンジが本当にカッコいい。長身のいかりや長介がバンドの隣で踊り狂い、絶妙なところで、「イェーーィ!」とか「ハッ!」と声を上げる姿は、とてもソウルフルでファンキーだ。ギターのうねり、ごりごりのベース、太鼓のリズム。身をゆだねて踊りまくる出演者たちの高揚感。聖子ちゃんだって踊りだす。

なにこれ、かっこよすぎでしょ!? そして最後にすべてをもっていくのはもちろん我らが志村けん。変声で早口ことばを歌いながらコミカルにダンスを始めると、出演者全員が志村に合わせて踊りだす。これがもう本当に、最高!! というくらいにカッコよくてしびれる!!

コントを通して音楽を伝え続けたドリフターズ、そして志村けん

この番組で演奏を担当していたのは、日本を代表するビッグバンド、岡本章生とゲイスターズだ。がっちり固まったスウィングジャズはもう素晴らしすぎて、これを聴くだけでも価値のある番組だと思えてくる。まだ幼い子どもたちに、知らぬ間に生バンドの確かな音を聴かせ、グルーヴ感溢れるブラックミュージックに触れさせて、高揚感までも覚えさせたドリフターズ、そして志村けん… おそるべし!!

ちなみに「ヒゲダンス」の原曲はテディ・ペンダーグラスの「Do Me」というのは有名な話。この原曲たちを選んだこと、原曲をさらにファンクにアレンジした音楽センスが、おそろしくすごい。志村けんのブラックミュージック愛と、音楽センスを感じずにはいられない。

高校時代、ビートルズの来日ライブにも足を運び、プライベートではレコードを買い漁り、雑誌でCDレヴューの連載を持ち、気に入った音楽に触れるたび「涙した」という志村けん。その音楽愛を、コントを通して、大人になって改めて痛感させられている今日この頃だ。

それだけではない。2016年に公開された “キリン氷結” のテレビCMでは、真剣なまなざしで三味線を弾く、ミューミュージシャン志村けんの姿と演奏力に、多くの人が魅了されたはずだ(KIRINさん、ぜひ地上波でオンエアしてください!!)。

送る言葉は「志村~!うしろ、うしろ~!」

筆者が幼稚園時代のこと。『8時だョ!全員集合』の舞台に上がり、メンバーに花束を渡す役目を仰せつかったことがある。大好きな加藤茶に差し出すと、手を伸ばし受け取ってくれたのは隣にいた “変なおじさん”… じゃなくて、志村けんさんだった。

あの時、花束を受け取ってニッコリ微笑んでくれた優しい笑顔は、これからもずっと忘れない。寂しくなるので、ありがとうは言いません。あなたに送る言葉があるとしたら、「志村~!、うしろ、うしろ~!」という言葉だけだから。

カタリベ: 村上あやの

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