流水プールや流水浴槽の生産高日本一 ジャパンアクアテック 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・15

 試験場を兼ねたショールームには、北島康介さんや鈴木大地さんといった五輪金メダリストの写真が飾られている。彼らの笑顔は、日本水泳界の活躍を水面下で支えてきた会社の歴史を物語る。
 佐世保重工業(SSK)で船舶の設計・開発をしていた技術者らが1985年に設立した。水や空気の流れを解析する「流体力学」を応用。船舶に使うプロペラを活用して水を循環させる流水プールや流水浴槽などを手掛ける。ニーズに応じた設計から製造、保守点検まで担い、生産高は日本一を誇る。

水泳や歩行のトレーニングに使用できる流水プール=佐世保市小佐々町、ジャパンアクアテック

 ある水着の開発試験がきっかけだった。プロペラが起こす流れは均一のため、泳ぎやすいと評価を得た。流れに逆らって泳ぐため、限られたスペースで長距離の練習が可能に。流速の変更などアスリート向けにも対応できるため、名門の日本大などが導入。フォームの改善や泳力の強化、泳法の研究などに貢献している。
 2015年には、北島さんが主宰する東京のスイミングクラブに流水プールを含むトレーニング施設を納入。泳ぎを横から観察できる機能性や芸術性が評価され、16年のグッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)を設計会社も含めた3社で受賞した。今後は競合が激しいプロスポーツ界のリハビリ用への浸透をさらに図る。
 「水流」を、現代人のストレス増加や高齢化、水産資源の減少といった社会問題の解決につなげる取り組みも進める。大学などと共同で、プロペラ式流水浴槽に入った前後の脳波の変化を検証。ストレスが減少し、リラックス効果を得られ、認知症にも一定の効果があることが分かった。病院や福祉施設、スポーツ施設では、リハビリや健康維持を目的とした水中歩行に活用されている。中国にも輸出を進める。
 松尾重巳代表取締役(54)は「流水プールでの歩行は、高齢者の転倒を防ぐための筋力維持に有効だ。福祉の分野はさらに成長できる可能性がある」と見据える。
 1990年代には陸上養殖事業の研究・開発に進出。マハタやアワビなどの施設に採用された。「近大マグロ」のブランドで知られるツナドリーム五島(五島市)が進めるクロマグロの完全養殖では、受精卵やふ化仔魚(しぎょ)を稚魚まで育てる人工種苗施設を手掛けた。
 船舶のプロペラを源とする流れは、スポーツや医療、福祉、水産といった分野の進歩に“推進力”をもたらしている。

流水プールの底の部分を溶接で取り付ける従業員

◎ジャパンアクアテック
 佐世保市小佐々町黒石。1985年に設立した。2009年8月に代表取締役に就任した松尾重巳氏は4代目。従業員は28人(1月現在)。主な取引先は大学やスイミングクラブ、社会福祉法人、病院、地方自治体など。

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