メード・イン・ジャパンの矜持 婦人用の下着を生産 渡辺商店 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・17(完)

 わずか3%-。時代の流れにあらがうように「メード・イン・ジャパン」の灯を守り続けている。
 懐かしさを感じさせる木造平屋の建物。小佐々中の旧校舎では、女性たちがミシンを使って婦人用ブラジャーのパーツを縫い付けていた。別の部屋では、30枚積み重ねた生地をパーツの型に裁断。「海外産はもっと重ねるので、ずれが生じて製品が均一でなくなる」。渡邊敬一代表取締役CEO(56)は強調した。国内に工場があるため、サイズやカラーなど需要や流行に素早く対応できるという。

ミシンを使って夜用のブラジャーを縫う社員=佐世保市小佐々町、小佐々渡辺(山下哲嗣撮影)

 日本の女性が洋装下着をはく習慣がなかった1932年8月、祖父の渡邊又吉氏が名古屋市で創業した。「SUBROSA」(サブ・ローザ)のブランドで婦人用のキャミソールや肌着などを製造。大手スーパーマーケットの売り場に並んでいる。
 生活スタイルや意識の変化とともに、商品も多様化。山登りを楽しむ女性の増加に伴い、アウトドアブランドのスポーツ用ブラのOEM(相手先ブランドによる生産)を手掛ける。体形維持を目的に、寝る際に着ける夜用ブラも注目されている。ニット(編み物)ではなく、形崩れしにくい布帛(ふはく)(織物)で作ったタオル生地で開発。カタログハウスが発行する通信販売カタログ誌「通販生活」で4月から取り扱いが始まる予定だ。
 炭鉱閉山後の75年、旧北松小佐々町に進出した。91年には佐世保市柚木元町にも工場を建設。一方で繊維業界では、中国などに生産拠点を移す企業が相次いだ。渡邊CEOによると、婦人用下着は数量ベースで海外産が97%を占めるまでになった。「価格を重視する消費者の志向は変わらないが、低価格かつ丁寧なものづくりにこだわりたい」。従業員は基本的に正社員で外国人技能実習生もいないなど、現代の主流とは一線を画した経営を続ける。
 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、国内は深刻なマスク不足に陥った。取引先の依頼に応え、在庫として保管していた抗菌・防臭機能がある綿を使ってマスクを生産。3月中旬からは佐世保市内の二つの工場で頒布(1枚千円)している。立体裁断や立体縫製の技術を応用し、土砂崩れなどの災害復旧現場にかぶせるナイロン製シートの開発にも当たる。渡邊CEOは「これからも『縫う』という技術を通し社会に貢献したい」と語る。
 新型ウイルスの脅威は、製造業の生産拠点を海外に過度に依存するリスクを突きつけた。「日本のものづくりを守る」という矜持に、あらためて光が当たっている。

型に合わせて裁断された布製マスクのパーツ

◎渡辺商店  本社は名古屋市中区。縫製工場はローゼンエックワークス(佐世保市柚木元町)と小佐々渡辺(佐世保市小佐々町)。渡邊又吉氏が1932年に創業した。渡邊敬一代表取締役CEOは3代目。従業員は114人(うち佐世保市内89人)=3月現在。主な取引先はイオン、ユニー、イズミ、モンベル、メナード化粧品など。

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