「当たり前が怖くなった」ナショナルチーム辞退の真相<吉村真晴・第2話>

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

2020年1月6日、東京五輪日本代表発表で、自身の名前が呼ばれることはなかった。

その直後、吉村真晴はこうツイートした。

『ベストメンバーでの戦いを応援。2020年、おれも頑張れ。』

これから、吉村はどんな自分をイメージし、何を頑張るのだろうか。

「やっぱりこの3人でよかったな」

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

代表選考発表の瞬間は、どんな気持ちだったのだろう。

「正直難しいだろうなという気持ちはありました。でも周りの人は『いや、俺は真晴だと思うけどなぁ』とか、声かけてくれることも多かったので、半信半疑で『もしかしたら選ばれるのかな!?』って思って見てました。自分の名前じゃなくて水谷さんの名前が選ばれたときに『ホントに終わったんだな』という感覚になりました」。

2019年は吉村にとって、なかなか自分のパフォーマンスを発揮できなかった1年間であった。
もちろんアジア選手権やチームワールドカップを含めて、要所では吉村らしい、記憶に残る勝利もあったが、コンスタントに世界ランキングポイントを積み重ねることはできなかった。

「今の日本にとって、最も強い選手は誰だとなったときに、やっぱり張本智和選手、丹羽孝希選手と水谷隼選手だと思う。発表されてからの水谷さんの戦い方とか、他の選手がベストパフォーマンスを出して戦ってる姿を見ると、『やっぱりこの3人でよかったな』と」。

ナショナルチームから一度離れる

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

4月1日、日本卓球協会が発表したナショナルチーム選手・候補選手のなかに、吉村の名前がなかったことも話題を呼んだ。

一度ナショナルチームから離れるという決断も、実は吉村自身が決めた。

「『ちょっとNTの方からは外れます』というのは、代表発表の次の日、倉嶋監督にお電話して、その翌日直接お話させていただいて、了承を得ました。日の丸をつけることから一旦距離を置いて、フラットに卓球を楽しもうと」。

日の丸を背負うことが当たり前になっては成長がない

写真:日本代表としてチームワールドカップを闘う吉村真晴/撮影:ラリーズ編集部

「”日の丸背負うって、冷静にすごくね?(笑)”とめちゃくちゃ思います。でも選手としてやってるとき、それをあんまり考えなくなったと思った。日の丸背負って世界と戦うのが当たり前で、『負けても次の大会があるや』という考えが、どこかしらあったかもしれない。自分の成長を止めてる一つの要因なのかな、と感じたんです」。

成長のためには、環境を変えることに躊躇しない男だ。

「自分は、世界卓球、ワールドカップ、オリンピックのように、これで終わりという大会になると、めちゃくちゃ力が出てくる。トレセンという最高の施設で、食事、トレーニング施設、練習場もあるなかでやってることが当たり前になってることが怖くなった。一回、日の丸を離れて、そのありがたみを感じたい。やっぱり日の丸ってかっこいいなということを感じたい」。

なんか今めちゃくちゃ調子いいんすよ

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

ここまで聞くと、選手として一線を退くのかと思ってしまう。しかし、全くそうではないところが、吉村という人間の面白いところだ。

ナショナルチームから離れると、一日の過ごし方は変わるものなのだろうか。

「今めちゃくちゃ変わってます。ストレスがないです。練習も今まで以上に充実してます。もう楽しいから!卓球が!めちゃくちゃ面白い!」

卓球と自分との久しぶりの距離感に興奮している。

「もう楽しくて。うわ、卓球やってんだなって。今めちゃくちゃ調子いいんすよ!Tリーグの終盤あたりから、めちゃくちゃ調子よくて。この前もワールドツアーをyoutubeで見ながら『ワンチャンこいつに勝てんじゃね?』と思ったぐらい(笑)。卓球楽しいんすよ!」

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

なんでもできそうな器用な男なのに、やっぱり卓球が好きなのだ。今まで自分が応援されてきた分、恩返しをしたい気持ちが強いという。

「今、吉村真晴に会って喜んでくれる方に『卓球って楽しいよね』というのを一緒に共有したり、たくさんの方の笑顔を見て、自分がそういう風な気持ちになれれば、それも新しい自分のモチベーションになる。いろんなことに挑戦したいと思いますね」。

自身のyoutubeチャンネルも開設した。卓球に関する技術はもちろん、吉村真晴という人間をもっと伝えたいという思いもある。

「今はこれやっていきたい、あれやっていきたいとノートに書きながら、これは違うなとか、これはお金ないなとかやってます(笑)」

楽しんでる時は吸収しているとき

写真:編集部とのパター対決も真剣な吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

常に楽しい状況を自ら選び、やりたいことに向き合っていく。

「楽しんでるときって時間を忘れるじゃないですか。もう2時間、3時間経ったの?って。子ども見ててもそういうときは無意識にどんどん吸収していってる。自分もそうなりたいし、常にそうありたいと思う」。

部活引退した後の四年生みたいな感じですね。

そう伝えると、「ああ!その感じだ!」と快活に笑う。

写真:アップダウンサービスを出す吉村真晴/撮影:伊藤圭

案外近い将来、もう一度日の丸を背負うかもしれないし、全く別の活躍を見せるかもしれない。

彼のサービスのように、意外なアップがあろうとダウンがあろうと、本人がその状況を楽しんでいることだけは間違いないのだ。

(第3話 「ベストを厳選する」 吉村真晴、大一番の強さの秘密とは に続く)

(取材:3月)
取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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