諫干閉め切り14日で23年 事態打開へ転機なるか 公共事業、地域づくり 研究者が検証

現地調査する日本環境会議の諫早湾干拓問題検証委のメンバーら=諫早市、潮受け堤防中央展望所

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の閉め切りから14日で23年を迎える。2010年12月の開門確定判決後、「非開門」の司法判断が相次ぎ、開門派漁業者は審理中の訴訟で和解協議を求めるが、「非開門による漁業振興基金での和解」を譲らない国との溝は深いままだ。そんな中、司法による解決に限界を感じ、公共事業や地域づくりの観点から同事業を再検証する複数の研究者グループが動きだした。事態打開への転機となるか、注目される。
 3月中旬、強風が吹き付ける潮受け堤防中央部にある展望所。研究者らでつくる日本環境会議の会員12人が、堤防内側の調整池と外側に広がる諫早湾の色を見比べた。
 「主力だったタイラギは休漁となり、アサリやカニ、クルマエビも捕れなくなった。後継者もいなくなり、地域の祭りも途絶えた」。佐賀県太良町の漁業者、平方宣清さん(67)は、堤防閉め切り後の苦境を訴えた。
 同会議は4月、諫早湾干拓問題検証委員会を発足。公共事業が地域にもたらした影響について、法学や経済学、財政学などの専門家が調査し、年内をめどに解決に向けた提言をまとめる。
 同検証委委員長の寺西俊一・一橋大名誉教授(環境経済学)は「何のための事業なのか、社会科学の目で検証し、有明海沿岸4県の自治体、住民に向けたビジョンを示す必要がある」と述べ、地元市民との意見交換にも期待を寄せる。
 地元諫早、雲仙両市の市民意識を探ろうとする動きがある。立命館大の加藤雅俊教授(政治学)らのグループは5~6月、両市民1500人を対象にした調査を計画。同事業を巡る状況認識や地域の将来像に対する考えを明らかにした上で、市民とともに望ましい地域づくりを模索する。
 森から里、海までの自然の循環を取り戻すことで、有明海再生につなげようと、小長井町でクヌギの植樹活動を始めたのは、京都大の田中克(まさる)名誉教授(水産学・森里海連環学)ら。「森に育った木の滋養が川を通して田畑や海に流れることで、農作物や海の生物の栄養となり、豊かな生態系がはぐくまれる」。3月20日の植樹活動は地元住民ら約50人が集まり、「100年の森づくり」への一歩を踏み出した。
 このほか、3月下旬には環境法政策学会(理事長・大塚直早稲田大教授)の現地調査もあり、第三者の視点で同事業を捉え直す動きが出てきた。
 堤防閉め切り後の漁業不振をはじめ、干拓農地の営農も、営農者の一部による訴訟提起など明暗が分かれつつある。調整池の水質悪化を懸念する一方、堤防の防災効果を実感する市民など、多様な声が混在する。望ましい解決策とは何か、市民自身にも問い掛けられている。

© 株式会社長崎新聞社