長崎くんち中止

 ほぼ毎日お届けしている新聞は、大ニュースを日替わりで報じることもあれば、胸に重い話と明るい話題が隣り合う時もある。1988(昭和63)年9月は、連日そうだった▲当時の紙面を繰れば、9月18日にソウル五輪の開幕を華々しく伝えたが、翌々日の1面トップは、昭和天皇の「容体急変か」。発熱で静養されていたが、悪化したらしいと報じている▲その5日後、深刻なご容体を知らせる横に、競泳の背泳ぎで「鈴木大地選手が金メダル」。列島を覆っていたのは、心配と、選手への称賛と、それに自粛ムードだったろうか。9月26日の紙面には「長崎くんち中止」とある▲開幕を前に「ご病状を憂慮して」、踊町の演(だ)し物の辞退を決めた。その時以来、32年ぶりになる。今年の長崎くんちの奉納踊りが中止される▲夏に長崎大水害が起きた82年でさえ、演し物は奉納された。いま列島を覆うコロナ禍の脅威を、またも思い知らされる。伝統文化をつなぐ思いに満ちた人、見るのを心待ちにしていた人、観光業の人-と、肩を落とす人は数知れない▲32年前と同じく、踊町の出番は来年に繰り越される。89年、2年ぶりに開かれたとき、「前の年、なかった分も」と気迫に満ちた演し物の写真が紙面を飾った。気が早いと分かった上で、来年の澄んだ秋空を心に描く。(徹)

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