「ベストを厳選する」 吉村真晴、大一番の強さの秘密とは<第3話>

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

吉村真晴の卓球についても掘り下げてみたい。
「大一番での強さ」の理由を尋ねた。
てっきり、自身の「技術の幅」を挙げるかと思ったら違った。

絶対に負けられない試合のときは“自分はこれができる”を厳選する

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

「自分は大舞台になったときに、何一つ試すとかはもう試合中にしなくなりますね。このボールに対しては今自分にとってこれがベストっていうところを厳選していく。その選び方ってところは優れていると思います」

吉村真晴といえば、サービスはもちろん、両ハンドドライブ攻撃やラリー展開など、多彩な技術で知られる選手。
意外な答えだった。

「自分も含めて選手は、普段の練習で取り組んでいる新しいことや、これをやってみたい、あれをやってみたいっていろいろあると思うんですけど、それをやりながら試合を組み立てて、歯車が合わなくて試合負けることもある」

「この試合には絶対負けられないってときには、そういうものを全て無くして、『自分はこれができる。だからこれをしていく』を厳選して、試合の前からイメージします。『この相手に対してはこれをやったら相手が得意。じゃあ、これをやらないように自分はこれをって』」

試合中も相手のイメージを覚える

写真:2019オーストリアOPの吉村真晴/提供:ittfworld

でも試合に入ると、相手の戦術がイメージと違うときもあるはずだ。

「違うときもありますけど、試合中の相手のプレーのイメージは覚えますね。相手の癖とか、1ゲーム目競った最後に相手は何をしたかとか。自分の頭にイメージでパッパッと入れとくんです。『確かにあの瞬間、こういう場面こういうのあったな』って。そして競った場面でそのイメージを思い出す」

語り継がれるTリーグセカンドシーズン最終戦のファイナル決定戦

吉村真晴(琉球アスティーダ)/提供:©T.LEAGUE

「1ゲーム目の1本目からイメージして試合に臨む」という吉村真晴。それを象徴する試合があった。

2020年2月16日、Tリーグレギュラーシーズンの最終戦だ。

この試合を勝ったチームがファイナルへの切符を手にする、琉球アスティーダとT.T彩たまの一戦は、“こんな試合が毎回なら必ずTリーグはこの国に根づく”とファンに思わせた、Tリーグ史に残る白熱した戦いとなった。

マッチカウント1−2でT.T彩たまがリードし、琉球アスティーダにとって後がない状態で迎えた吉村真晴–神巧也のキャプテン対決。

それまでの対戦成績でも決して分が良いわけではない神との大一番に吉村真晴は-3、-8、-4、ゲームカウント3-0で勝利する。

「ここ最近ではパーフェクトな試合の一つだったのかな、と思ってます。メンタリティーも、技術面も。その前に自分の地元でピッチフォードに勝ったことで自信も出てたし」

その試合、アップダウンサービスを封印した

この試合、吉村真晴は自身の代名詞であるアップダウンサービスをほとんど使わなかった。“イメージする”試合展開に持ち込むためだった。

「神さんのサービスに対して苦手意識が非常にあって、これまでも何回も試合をやってきて、レシーブが上手くいかずに、フォアでたたみこまれるっていうシーンが何回もあった。『じゃあそれをやられないために何をするか』ってところから考えて」

吉村が選んだのは、こうだ。
自らのサービスは、サービスエースを取れる確率の高い、複雑な回転のアップダウンサービスを捨てる。
代わりに、敢えて単純な回転のサービスを選択することで、神のレシーブの種類を絞らせて、3球目以降を冷静に展開する、という戦略だった。
結果、神はレシーブのリズムを崩し、終始吉村のペースで試合は運んだ。

いろいろできることが仇になるときもある

写真:吉村真晴(愛知ダイハツ)/撮影:伊藤圭

でも、だ。
でも、イメージだけで試合は勝てないはずだ。そう突っ込むと、悪戯っぽい笑顔で答えた。

「確かに自分、いろいろできるんですよ。でもいろいろできちゃうから、逆にそれが仇になっちゃうこともある。やりすぎちゃって、相手のボールもいろいろ来ちゃう。いろいろ来ちゃうと対応するのも大変じゃないですか。なので、あの神さんの試合は、ホントに究極にシンプルにやろうと。」

質問に対する答えも、実に厳選されて明快なのだった。

(第4話 「卓球男子って、めちゃくちゃ面白いんすよ」<特集・吉村真晴> に続く)

(取材:3月)
取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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