自宅待機で連ドラ需要が高まる 再放送して欲しい作品は? 『一つ屋根の下』か『池袋ウェストゲートパーク』か いやいや『恋ノチカラ』でしょ|中川淳一郎

DVD「恋ノチカラ」より。

新型コロナウイルスの影響でテレビ局はロケや番組収録が軒並中止になっている。そんな中、TBSはドラマの再放送をすると4月2日に発表した。この時ツイッターでは「#再放送希望」のハッシュタグが盛り上がり、各人の見たいドラマが次々と書き込まれた。

この日、私はAbemaTVの報道番組『Abema Prime』に生出演していたのだが、話題がこの件になり、出演者が次々とドラマの名前を挙げていき、『池袋ウエストゲートパーク』(30代)『ひとつ屋根の下』(40代)といったメジャーなものが出てきた。私にも振られたのだが、『恋ノチカラ』と言った。

するとこの話を振ってきた森遥香アナ(29)は「えっ? どんなドラマですか?」と言った。私は出演者で最年長(46)なのだが、恐らく出演者だけでなくスタッフも含めスタジオ中がポカンとしていたと思う。番組を見ていた人々も若者が多いと思われるだけに、かなりの割合が分からなかったことだろう。

終了後にツイッター検索してみたところ、以下2つのツイートがあった。「え…恋ノチカラ通じないの…」「恋ノチカラ すごく好き!! はー、中川さんと同世代なんだよな…残念ながらw」だ。この2人は恐らく私と同世代だろう。2人目は明確にそれを言っている。というわけなので、ここでは自分史上最高のドラマである『恋ノチカラ』(フジテレビ系・2002年)について書いてみる。今の時代、自宅待機が要請されているだけに、過去のドラマや映画を観るのもいいだろう。

いや、正直なことを言うと、私は連ドラを全話観たことがあるのが同作と『29歳のクリスマス』(フジテレビ系・1994年)、『結婚できない男』(フジテレビ系・2006年)の3つだけなのだ。

『恋ノチカラ』はWikipediaによると「平均視聴率は16.9%、最高視聴率は初回の20.6%」とのことで相当見られていたとは思うのだが、伝説的ドラマとして名前は挙がらない。一体何がいいのかといえば、「自分事」化ができたからなのだ。

結局連ドラというものはいかに自分事化できるかが面白さの勝負なのだが、同作は大手広告代理店を辞めたクリエーター(堤真一)と、同社の窓際OLである深津絵里が主人公だ。上司と意見のぶつかり合いから独立した堤と、勘違いから堤の会社に入ることとなった深津、そして堤に憧れていた若手クリエーターの坂口憲二が営業担当の西村雅彦(現・西村まさ彦)と会社を作ることとなる。ここに深津のルームメイトである矢田亜希子も割って入る。この5人が主要キャラだ。

この配役を見ると、なんとなくキャラ設定は分かるだろう。

堤真一:男っぽくて朴訥で一本気
深津絵里:のほほんとしており、いじられキャラ。悩みはありつつもそこそこ幸せ
坂口憲二:モテ男で素直かつ情熱がある
西村雅彦:冷静で淡々と仕事をこなすが愛想が悪い
矢田亜希子:ひたすら心が美しく優しい

まぁ、こんな感じである。このドラマについては、「広告代理店を辞めた男」という点で共感できたのだ。私はこの前年に広告会社を27歳で退社していた。もちろん、堤は敏腕クリエーターで私はヘッポコプランナーという違いはある。堤は自らの事務所を複数名で立ち上げるが、私は一人ぼっちだった。そんな違いはあれど、随所に広告業界の細かい部分が描かれており、「あるあるww」などと楽しめたのだ。

ドロドロの恋愛は特になく、本作品は各人が回を経る度に変わっていく様が楽しい。最初はダメダメOLだった深津がけっこう積極的にアイディアを出していく様や、坂口が堤の立場を追い越しかねない状況になったり、堤が自信を喪失していく様などがリアリティがあり、自分事化できるのだ。

まさかの西村雅彦が……

そして、本当にイヤなヤツだと思っていた西村雅彦が途中からは実に頼りがいのある営業マンになり、妨害役から重大な支援者になるところもイイ!

だから私は「No.1ドラマを言え」と言われたら『恋ノチカラ』と言う。このドラマについては後日譚があり、2014年頃、行きつけのスナックのカウンターで何人かで飲んでいた。こちらは仲間内で来てワイワイやっていたため、L字型カウンターの短い方のカウンターに注意を払っていなかった。私は一番左側の椅子に座っていたため、右側ばかり見ていたというのもある。

同行者3人が帰り、私一人になった。左側のカウンターに最初からいた男性はまだ酒を飲んでいる。一人になったので左を向いてみたら、なんと西村雅彦だった。スナックのママは「西村雅彦さんよ♪」と言った。

いや、驚いたのなんの! 「西村雅彦と申します」と彼は言った。「いや、もちろん知っていますよ! というか、オレ、一番好きなドラマ『恋ノチカラ』ですよ! その中でも一番好きなキャラは西村さんですよ!」と言ったら西村さんは「フフッ」と片側の口だけを上げて笑い、こう言った。

「嬉しいですね。僕もあのドラマは好きです。でも、多くの人は僕の印象は『古畑任三郎』って言うんですよ。まさか『恋ノチカラ』を挙げてくださる方とお会いするとは嬉しいです」

そこからしばらく西村さんとは話したのだが、私が帰る時はママとともに外まで見送ってくれた。そんなこともあり、やっぱり『恋ノチカラ』こそNo.1であるっ! と力説しておく。(文◎中川淳一郎 連載『俺の平成史』)

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