高原直泰の「リアルサカつく」!沖縄SVの現在地と、監督を辞めた理由

いわゆる黄金世代の一人、高原直泰は現在、沖縄にいる。

日本代表で57試合に出場、23ゴールを決めたストライカーは、2015年に新たなサッカークラブ「沖縄SV(エスファウ)」を創設。しかも自らがクラブの代表を務めつつ、監督としてチームを率い、さらに選手としてプレーもする、驚きの“一人三役”で話題となった。

それから時が経ち、沖縄SVは2019シーズン、九州リーグを圧倒的な強さで優勝。アマチュアサッカーの最高峰、JFL昇格にあと一歩と迫ったが、地域チャンピオンズリーグでは惜しくも敗退を余儀なくされた。

地縁もない遠い南の島で、高原はいま何を考え、どこを目指しているのか。

Qoly×サカつくによる「リアルサカつく」紹介企画。『サカつくRTW』リリース2周年を記念した第4弾は、沖縄県全域をホームタウンとして活動する沖縄SVを特集。

『サカつく』のプロデューサーである宮崎伸周氏とともに、今年から監督を退き、クラブ代表と選手の“二役”となった高原に話を聞いた。

(取材日:2020年2月26日)

ここ2年で一番変わったのは「選手」

――お久しぶりです(※Qolyは2年前にも高原にインタビューを行っている)。

今回は「リアルサカつく」の紹介企画ということで、まずは改めて、高原さんが沖縄になぜサッカークラブを作ったのか教えてください。

もともとは、沖縄県が観光とITに次ぐ第3の産業を創出したいと考えていて、それがスポーツ産業でした。そこで僕に「沖縄に来てモデルケースとなるものを作ってほしい」と声がかかりました。それが最初のきっかけですね。

サッカーチームを作り、Jリーグ入りを目指す。そこが出発点のクラブではありません。

スポーツクラブ(Sport-Verein)という名称にも意味があって、ただサッカーだけをやって上を目指すのではなく、スポーツを通して地域貢献や地方創生にしっかりかかわっていく。そういうことができれば、スポーツが産業として成り立っていけるのではないかなと。自分がハンブルガーSVにいたからというだけではないんです。

ただ、現状でいろいろ手を出すことは難しいので、サッカーで軸をしっかり作ってそれから違うスポーツなどに派生させていきたいと考えています。

現在もすでに一人、プロゴルファーに帯同させたりしています。ほかにも学校のクラブなども含めて連携し、質の良いトレーニングや体のケアの仕方などを広めていければ競技力の向上にもつながります。今はそのあたりの“走り”をやっている段階ですね。

――前回お話を伺ったのが九州リーグへ昇格したばかりの2年前でした。そこから「JFLへ昇格できなかった2シーズン」が過ぎたわけですが、この2年間での変化は?

変化はありましたね。現場で言えば、選手の部分はかなり変化したと思います。

1年目からいる選手はもう2人になりました。これは自分自身が抱えていたジレンマの一つで、戦う舞台が変わるなかでその変化に追いつかない選手が当然出てきます。また、プロでやっていた選手とそうではない選手のギャップが大きければ大きいほどチーム作りも難しいです。

どちらかに合わせる必要がある一方、実際にはそれがなかなか合わせられず。となると「最低限ここまで」といった形である種の妥協を強いられます。

その結果、一つのチームとして勝負がかかった大事なゲームを勝ち切ることが難しかったです。昨年、最後のところ(※地域チャンピオンズリーグ)で勝てずそれを実感しました。

ただ、チームとして初めてあの舞台を経験し、今年は大半の選手が残ってくれたので、2年前と比べるとそこは大きく変わってきています。

――地域チャンピオンズリーグという特殊な短期決戦。高原選手としても初めての経験だったと思うのですが、実際に参加してみてどんな印象を持ちましたか?

3日連続で試合を行い、しかも基本的にすべて落とせない。難しさがかなりある大会だと正直感じました。

ずっと試合に出ていた選手が大事な時に2人ほどいなくなってしまって。そうなると、スタートは大丈夫かもしれませんが、途中から流れを変えたりすることが難しくなります。そういった駒不足な面はありました。

3日間連続で試合があるので、マネジメントは簡単ではありません。そこまで試合にほとんど出ていなかった選手が先発することもありました。

その結果が2勝1敗、グループ2位での敗退。2日目、1-6で敗れた福井ユナイテッドSC戦は、自分も含め選手の経験不足が出てしまったかなと思います。

山本浩正監督を招聘したワケ

――これまではクラブの代表兼監督兼選手という立場でしたが、今年から山本浩正監督が新たに就任しました。地域CLでの敗退も受けて監督を迎えた感じでしょうか?

自分だけではどうしても全部を見きれない部分があったので、監督がそろそろ欲しいなと以前から考えていました。

ただ誰でもいいかと言うと当然そうではありません。自分がこれまでやってきたことを理解してくれた上で、方向性として継続しながらチームを向上させられる指導者に来てほしかったんです。

2019年のシーズン前から動いていて、何人かに声をかけたんですが話がまとまらなかったり、逆にクラブとして迎える体制が十分に整っていなかった部分もあったりで結局昨シーズンは実現しませんでした。

そうしたなか、山本が昨年夏くらいに一回来た時に、いいかもしれないと。当時は全然関係ないことで沖縄に来ていたんですけど、彼のことは昔からよく知っていますし、自分がやろうとすることもおそらく分かってくれる。

一番適任じゃないかと感じたのでそこから具体的な話をさせてもらいました。本人もまんざらではなさそうでしたし(笑)、彼が当時勤めていた常葉大学サッカー部へ選手を見に行ったりしながら何度も話をして決まった形です。

山本が来てくれたおかげで負担が減りました。今までは自分だけが選手たちに言っていましたけど、彼は何も打ち合わせをしていなくても同じことを言ってくれる。

昨年から在籍する選手たちからすると、別の人間から同じことを言われるので、僕が言うから特別なのではなく当たり前のことなんだと感じますよね。これはすごく大事です。

彼とは高校時代(清水東)からプロになってジュビロ磐田まで一緒だったので、基本的には昔のジュビロがやっていたようなサッカーを共通のイメージとして持っています。

当時のジュビロは選手が日本代表クラスばかりでしたけど、「代表選手だからできる」ではなく、あのチームの根本は全員がハードワークをすることでした。チームでやろうとしていることを全員が理解し、実行するからあのようなサッカーができたわけです。

沖縄SVでもそういった“根っ子”の共有を練習からしっかりやっています。選手により伝わりやすくなったと思いますし、僕自身も負担が減った分これまで目が行き届かなかったところを見られるようになりました。

今年は分かってほしいことを選手たちに伝え、理解してもらうところまでが非常にスムーズにできています。

――現役時代ゴールキーパーだった山本監督だけに、GKコーチができることも大きいですよね。

そこは間違いないです。一番大きいですね。キーパーは本当に大事だと昨年痛感しました。

キーパーが安定しているかどうかでゲームは全然変わってくるので、そこの指導もしっかりしてくれることは、個人個人の成長という意味でもチームにとって大きなプラスです。フィールドプレイヤーだけが成長していくのではやはり意味がないですから。

昨年までは自分がフィールドのほうを見ざるをえず、キーパーはプロでやっていた選手にある程度任せる形になっていました。キーパーがどれだけのトレーニングをしているのか把握できない部分があったので、そこをきっちりと山本がやってくれることはチーム作りの面も含めて大きいです。

本当だった!「ヴェルファイア伝説」

――ユニフォームサプライヤーのXF(エグゼフ)とはどういった流れで契約したんですか?

紹介していただいた形ですね。クラブがクラウドファンディングをした際、自分と食事をする権利を購入していただいた方がいて、その時のつながりです。クラブとしてもサプライヤーを探している時期だったのでちょうどうまく話が進みました。

――そう言えばすでにお話を伺った妙摩雅彦COOから、クラブを立ち上げた際、自ら運転する車で東京から沖縄へ行った話を伺いました。しかも車はトヨタのヴェルファイアで、「最高」と仰っていたとか!

そうです。家や車などを全部売って、あとはもう沖縄へ行くだけ!となって。

そう、ヴェルファイアでしたね。国産っていいんだなぁと(笑)。生意気ですけど、それまで国産車に乗ったことがなかったので。ウインカーとワイパーをいまだに間違えます(笑)。

東京から車で鹿児島まで行って、26時間フェリーに乗って沖縄へ来ました。船酔いとかは大丈夫でしたけど、めちゃくちゃつらかったです…。もう絶対、二度と乗ることはないなと思いました(苦笑)。

――沖縄に来て何年が経ちました?

もう4年。今年で5年目ですね。

――その中で感じた「沖縄のサッカーカルチャー」とはどんなものですか?

子供の競技人口は一番多くなっていると思います。男子だけではなく女子も盛んなので、その両方を合わせると沖縄県の中で一番やられているのはおそらくサッカー。プレーする環境も良くなってきています。

さらに近年、多くのJクラブが沖縄でプレシーズンのキャンプを行うようになりました。これにより、今までなかなか見られなかった選手、トレーニングマッチや練習を子供はもちろん大人も間近で見られるようになりました。

やはり同じ「見る」でも、実際に目の前で見るのとテレビで見るのでは全然違います。サッカーを見る環境は僕が来て以降でも相当変わりましたし、これを続けていけばサッカーに対する意識も変わり、子供たちの競技力向上などにもつながるのではないかと思います。

沖縄でこれだけ野球人気が高いのも、プロ野球のキャンプが沖縄で定着したことの影響が少なからずあるはずです。キャンプを見た子供たちが野球をやり、沖縄出身の選手たちがプロになっていく。

プロが間近で見られる環境という意味で、すぐに野球のようにはならないとしてもサッカーも一年一年積み重ねていくことが大事ですね。

――アカデミーで大会に出場したりすると、「沖縄の子供たちはプレーのリズムが違う」と他の地域の人に言われると聞きました。

Jクラブのアカデミー担当者が来るとだいたいそういったことを言いますね。リズムが違ったり、身体能力が高い子供はたしかに多いです。

ただやっぱり、それ以外の部分ですよね。ボールを扱うスキルだけではなく、ポジショニングなどたくさんありますが、それ以外の部分ではちょっと弱いかなと思うところがあります。

そういった意味で、プロクラブがキャンプをやってくれると沖縄の指導者たちは見て学ぶことができますし、それを子供たちに落とし込むことが地域全体のレベル向上につながります。

プロだからできる部分は当然ありますけど、基本的にサッカーはサッカーです。高校生でもやっているトレーニングをプロでもやっていて、ただパスのスピードなど“意識”をどう持つかで効果は全然変わってきます。

「どういう意図でこのトレーニングが行われているか」が重要なので、そこを理解すれば子供たちに落とし込むことは可能ですし、良い循環が生まれてくることを期待しています。

外に出ていかなくても、年に1回、必ずこういう機会が訪れる。沖縄のサッカーキャンプが定着してきたのはここ数年なので、まずは続けていくことが大事です。

――キャンプだと試合だけでなく練習もしっかり見られるのがいいですね。

試合だけだとやっぱり分からないじゃないですか。しかも、シーズン前のキャンプってちょうどチームを作る段階なんですよ。監督が選手たちにやってほしいことをトレーニングの中で伝えていく。まさにチームに落とし込む時期なので、ある意味一番いい時期の練習を見ることができます。

シーズンが始まると選手たちはもうある程度意図を理解した状態で、より発展的な内容になっていきます。

キャンプはチームを作ろうとしている段階でのフィジカル面や戦術面のトレーニングが見られますし、一つのチームに絞って見ていればトレーニングしたものが試合のどの場面で出ているかもチェックできます。本当に貴重な機会です。

監督、そして選手としての「今後」

――監督・高原直泰としてチームを指導しながら成長してきた部分はどの辺りですか?

難しいですよね、監督って。選手たちにやってもらいたいことを当然自分は分かっていますが、自分だけが分かっていても仕方ありません。それを理解してもらうためにメニューを考えてトレーニングするわけですが、トレーニングの中でもいろいろなことを伝えていかなくてはいけないので、すごく大変だなと正直思いました。

自分たちのチームはプロでやっていた選手とそうではない選手がいて、後者の選手たちには伝える内容が10あればやはり10に近いところまできっちり伝える必要があります。もちろん全員がプロとなればまた違うと思いますが…監督、やっぱり大変だなと。

正直あまり向いてないなと思いました(笑)。面白いは面白いんですけどね。将来的にこちらではないのかなという感じがしています。

ヨーロッパはだいたい監督とコーチがセットで動きます。「自分が監督になったら、誰がコーチ、誰がGKコーチ、誰がフィジコ」といった感じで。実際に監督をやってみてその意味がよく分かりました。

ドイツにいた時も結構多かったです。監督も現場にいるけど、練習は基本的に全部コーチがやって、監督はただ見ているだけ。

もちろん言うことは言うのですが、信頼するスタッフに現場を任せながらチームを作っていく。今後やるとすればそういうスタイルがいいかなと思っています。

――逆に、選手としてピッチに立ち続ける一番のモチベーションは何ですか?

それはもう、サッカーが好きだからです。サッカーはやはりプレーするものだと思っていますし、それがあるからそれ以外のことも頑張ることができる。

今は基本的に午前中トレーニングをして、午後はミーティングをしたり、営業に行ったりしています。これまで自由に使えていた時間をクラブのために使っているわけですが、別に苦痛ではないですし、むしろ楽しんでやっています。それも結局全部、プレーヤーとしてまだやっていて最後そこにつながるからという部分があります。

ただ、自分がプレーヤーとして実際どこまでやるかに関してはしっかりと見極めていかないといけません。自分ができるのか、それともできないのか。結局はそこですね。

昨年40歳になり、当然これからも年齢を重ねていきます。だからと言って、練習メニューを自分だけコントロールするようになってはダメですね。特に自分の場合は。

クラブの代表だからこそ他の選手と同じか、それ以上のものを見せないといけない。当たり前のようにやっているからこそ周りが納得するわけで、そこを調整して、試合だけ出るようでは示しがつきません。

自分自身の引き際じゃないですけど、どこまでやるかの目安としてはそこですね。できなくなれば引退でしょうし、逆にやれているうちは続けるかもしれない。そういう感じです。

――同い年の小野伸二選手らが現役でプレーされていることは刺激になりますか?

そうですね。同年代の選手がまだ何人か続けていて(※小野伸二、稲本潤一、遠藤保仁など)、小野は昨年FC琉球に来ましたけど、遠藤なんかもキャンプの時期は沖縄に来ているのでトレーニングマッチの時に会いました。

やっぱりいい刺激になりますし、楽しみの一つです。

高原 直泰

1979年6月4日生まれ(40歳)
沖縄SV所属
日本代表57試合出場23得点

>>サカつく宮崎Pが「コーヒーづくり」について聞きまくるインタビュー後編はこちら!

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