リアルサカつく!沖縄SVと高原直泰が「沖縄産コーヒー」をネスレ日本と共につくる理由

いわゆる黄金世代の一人として日本代表で数々のゴールを奪ってきた高原直泰。40歳となったストライカーは今、沖縄の地で新たなチャレンジを行っている。

Qoly×サカつくによる「リアルサカつく」紹介企画第4弾は、高原が2015年に創設し、自らクラブの代表と選手を務める沖縄SVを特集。

高原へのインタビュー後編では、注目を集めている沖縄SVの“ピッチ外での活動”について、『サカつく』のプロデューサーである宮崎伸周氏が聞いた(前編はこちら)。

(取材日:2020年2月26日)

「ボランティア」の先へ

宮崎P――沖縄SVは地元の伝統工芸など地域と組んで様々なプロジェクトを進めています。まずはその考え方やビジョンを教えてください。

地域にどうやって貢献し、地方創生に携わっていくのか。クラブとしてはそこがメインと言えばメインなんです。だから常に「どうやったら実現できるのか」というスタンスで考えています。

何でもそうですけど、ボランティアだと続きません。日本のスポーツってこれまではそういうイメージじゃないですか。だいぶ変わってきましたけど、「スポーツでお金を稼いではいけない」といったアマチュアに近い考え方が残っています。

そこがヨーロッパやアメリカと決定的に違う部分です。ヨーロッパやアメリカではやはりスポーツは一大産業ですから。

日本でも同じようにしていく必要があります。ボランティアだと結局その人がいなくなってしまえば終わってしまうので、それではダメだろうと。沖縄に来た時からそこはしっかりやらなければいけないという思いがありました。

しかし当然自分だけではできませんし、地域に密着し、ともに成長していくような形を作っていかなければなりません。

治療するための施設、飲食できるお店、何でもいいんですが、とにかくサッカーだけではないクラブとの共存関係、地域に根ざした自然な関係性を持つことが大事だと思っています。

ビジョンとしてはそこが根本にあって、とはいえ自分たちが現状できることは限られているので、まずは伝統工芸。沖縄の伝統的な工芸品や地域資源などの魅力をいろいろな人に伝えていきたいと考えています。

また、地域が抱えている問題を解決するため、会社として農業への取り組みも進めています。それが「コーヒーづくり」です。

「そこはもう、ネスレしかいないと(笑)」

宮崎P――コーヒーづくりの話は今回、ぜひお聞きしたいと思っていました。沖縄でコーヒーが作れるんだ!と。

コーヒーづくりに適した地域、コーヒーベルトぎりぎりの沖縄で、以前はコーヒーが農業として一部成り立っていたと調べて把握はしたのですが、高原さんは最初からコーヒーを作ろうという考えを持っていたのですか?

いや、全然です。ただ、クラブを立ち上げた段階で事業の一つとして農業はやりたいと考えていました。将来的な選手のセカンドキャリアや、もちろんクラブとして稼ぐことにもつながりますし、すぐにお金になるものではないとはいえ、数年後を見据えればむしろやっていかなければいけない。

そこで自分も含めて農業をやったことがある人間がクラブにいなかったので、まずは体験しみようと。“農福”(農業と福祉)の連携で自然栽培をやられているソルファコミュニティさんを紹介してもらい、ニンジンの間引きや収穫、あるいは耕作放棄地を改めて切り開くといったことを選手たちとやりました。

それらをやっていくうちに、沖縄の1次産業が抱える問題、高齢化や担い手不足のことを知り、クラブがかかわることでなんとか解決できないかと考えるようになりました。

沖縄でコーヒーを作っていたことがあると聞いたのはちょうどその頃でした。

僕も同じで「あ、沖縄でコーヒー作れるんだ」と驚いたのですが、同時に「沖縄でコーヒーができたら面白いんじゃないか」と感じました。ハワイのコナコーヒーのようになれば沖縄の新しい特産物になりますし、耕作放棄地をうまく活用できるようになるかもしれません。産業として成り立たせられれば担い手不足の解消にもつながり、かつクラブの収入源にもなります。

いろいろなプラス面が見えてきて面白いなと思う一方、コーヒーのつくり方はまったく知らなかったので、そこはもう、ネスレしかいないと(笑)(※ネスレは高原がジュビロ磐田に在籍していた当時チームの胸スポンサーだった)。

まずはコンタクトを取ってダメもとで話を聞いてもらうことになりました。

ネスレ日本の高岡浩三社長(当時)に相談したところ、世界でもっとも多くのコーヒーを製造・販売するネスレは高品質のコーヒーを確保し、継続して安定した供給を行っていくため「ネスカフェ プラン」というプログラムに取り組み、世界中でコーヒー農家を支援していることが分かりました。

「ネスカフェ プラン」とは、収穫量が多く品質の良い苗木のコーヒー農家への配布、コーヒー豆を栽培する上での技術支援、コーヒー農家からのコーヒー豆買い付け、環境面に配慮したコーヒー製品の製造・流通など、コーヒー豆の栽培から製品の製造・流通・消費まですべての工程に関与する取り組みです。

日本ではまだネスカフェ プランの取り組みは実施されていなかったので、「ではやってみましょう」と。プロジェクトを立ち上げて、一緒にやっていこうということになりました。

ただ、実際の農業となると簡単ではありません。そこで、琉球大学の農学部にも相談して協力を仰ぎ、ネスレ日本と沖縄SVと琉球大学、そして名護市とともに産学官連携の「沖縄コーヒープロジェクト」として2019年にスタートしました。

スポーツの持つチカラ

土地に関しては、沖縄の北部が土壌などを含めコーヒー生産に適していたので、名護市に相談して提供してもらいました。そこに自治体の協力も得ながらコーヒーノキ(コーヒーの木)を植えています。ちなみに琉球大学は「沖縄にどんなコーヒーが合うのか」という研究も行っています。

実はプロジェクト自体は2017年から動いていたんです。ある程度形になるまでは公表できなかったので、2年くらい地道にやって、昨年4月、コーヒーの苗木を畑に移し替えたタイミングでようやく発表できました。

僕らとしては早く発表したくて仕方がなかったです(笑)。クラブとしてのアピールになりますし、この取り組みによって今後、自治体とスポーツのかかわり方が変わってくる可能性もあります。

スポーツクラブが自分たちで稼ぎ、スポーツを通して地域の創生にうまくかかわっていく。僕らがその点をいくらアピールしても自治体側が理解してくれなければなかなかうまくいきません。

スポーツの持っているチカラを使うことで、先につながっていくことを今回の取り組みで証明できればと思っています。

※bouncyさんが昨年4月に公開した「沖縄コーヒープロジェクト」の動画。

宮崎P――名護の畑は海沿いの場所ですよね。塩害とかは大丈夫ですか?

塩害もありますが一番は風ですね。沖縄は台風がやはり多いので。ただ、名護の畑は環境的にかなり厳しい場所でやっているので、逆にそこで育てば基本的にどこでも大丈夫かなと思います。

名護だけでなく、もう少し奥の大宜味村の畑にも植えていて、そこはもう間違いなくいけると思います。周りに山があって何かで囲わなくてもいいですし、日の光もほどよく当たる。コーヒーの場合日が当たりすぎるのも良くないんです。

コーヒープロジェクトは特に北部の地域振興につなげていきたいと思っています。将来的には観光農園みたいな形で、生産(1次)・加工(2次)・流通販売(3次)をすべて行う「6次産業化」を目指しています。

スポーツはただスポーツというだけではなく、様々なモノ・コトに合わせられる唯一のものだと個人的には考えています。あとは組み合わせ方。

コーヒーで言えば現在、沖縄SVとネスレ日本、琉球大学、自治体の4つがあって、さらにそこにかかわってくれる人たちがいます。そうした中から新しいものを生み出したり、あるいは今あるものをより良くしたりしていくことが、これからの時代は特に大事じゃないかと思います。

自分たちだけで一生懸命やるのではなく、自分たちに足りない部分を持っているところとつながって、一緒に取り組んでいく。そのあたりは「SDGs(エスディージーズ/持続可能な開発目標)」の考え方にもつながりますね。もともとSDGsに基づいて進めていたわけではなかったのですが、うまくかみ合いました。

とにかく、根本にあるのは自分たちが何をしたら地域貢献や地方創生につながり、それが自分たちにどう返ってくるのか、という考えです。先ほども言ったようにボランティアで終わっては意味がないですから。

そこをまさに、自分たちで作り上げているということはやりがいがありますし、楽しいですね。しかも最終的にそれがサッカーにも返ってきて、一緒にやっている選手やスタッフたちに還元されていきます。

とはいえ、まだ実際に結果を出したわけではありません。2017年に描いた「絵」が徐々に形になってきたことを実感しつつ、プロジェクトとして結果を出したいです。

木が育って実をつけて、コーヒー豆を収穫して焙煎し、売る。おそらく2年後に初めてできるんじゃないかと思っています。

“沖縄だから”できること

宮崎P――スタジアムでそのコーヒーを飲めたらいいですよね。

いろいろな可能性を感じています。スタジアムで提供することもそうですし、たとえばセブンイレブンさんが現在スポンサーについてくれているので、全国は難しいにしても沖縄県内の店舗だけでも飲むことができるとか。可能性はいくらでもあります。

収穫量としては最初どうしても限られます。ただ、今一緒にやっている又吉コーヒー園さんは、沖縄産コーヒーを1杯1,400円で提供しているんです。

宮崎P――1,400円!スペシャリティコーヒーですね。

そうです(笑)。メイドイン沖縄の国産のコーヒー豆はこれまでなかったので、ネスレ日本の高岡前社長もそういうプレミアムなコーヒーがあってもいいんじゃないかと言ってくれて。

沖縄だからできる部分もあると思うんですよ。リゾート感というか、ここだからこそ!というものにつながっていくかなと。

すごく楽しみですし、こういう取り組みにスポーツクラブがかかわることは意義深いと思っています。だからこそ、良いモデルケースにしたいですね。

もちろんこれは沖縄だからできることで、他の場所であればまた違う形になりますけど。

宮崎P――コーヒー豆にはブランド名をつけるんですか?「エスファウ」とか(笑)。

当然何かつけると思います。名前って大事ですからね。

宮崎P――雇用としてはどのくらい生み出せるイメージですか?

「6次化」までできればかなりの規模になると思います。町興しにつながるレベルですね。

だからこそかかわる人を増やしていきたいと思っています。自分たちだけでは限られてしまいますし、現状すでに畑などはこれ以上大きくするのが難しいところでやっているので。

今年も琉球大学で種を植えるところからスタートしますが、およそ1万粒。当然1万株くらいに育ちますが、自分たちだけで全部を植えることはできないので、他の農家の人たちに苗を提供して広げていってもらう。そういうことをやりながら仲間を増やしていきたいです。

今はだいたい10年を一つの目安にしています。10年でどのくらいまでできるか。ネスレさんもそこまではサポートしてくれるとのことなので、10年後に沖縄のコーヒー生産がどこまで広がっているか楽しみです。

もちろんその間、クラブとしてはコーヒー以外の取り組みも増やしていき、より地域に根ざした存在になっていければと思います。

大きく変化するこれからの時代。多様な立場の人や団体が新しい価値を“共”に“創”り上げる「共創」という考え方は、より重要な要素となってくるだろう。

そうしたなか、高原直泰と沖縄SVはある意味で一歩先を行く取り組みを進めている。

サッカークラブあるいはスポーツクラブが、地域とともにどのように生き、発展的な良い関係性を築いていくのか。

「サカつく」的な観点からも今後の彼らの歩みに大いに注目していきたい。

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プレイヤーは自分だけのオリジナルクラブの全権監督となり、クラブを育て、選手をスカウト。そして、育てた選手とともに世界の頂点を目指します。

■公式サイト:https://sakatsuku-rtw.sega.com/
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