「コロナうつ」という言葉も…体調を崩すメンタルヘルスの当事者が急増

我々の生活を一変させた新型コロナウイルスの脅威によって、調子を崩すメンタルヘルスの当事者も急増しています。

認定NPO法人コンボの理事で、自らも当事者である佐々木理恵さんは、こうした人たちに向けて声明を発表。この状況に対応するための心のあり方について訴えました。


「コロナうつ」「コロナスリップ」の不安も

終わりの見えない新型コロナウイルスの蔓延は、世界中で人々の生活を激変させました。外出の自粛や、会合・イベントの中止が相次ぎ、経済的に困窮する人が現れるなか、不安感から心身の調子を崩す人も多くなっています。

「コロナうつ」という言葉も生まれ、精神科や心療内科では、精神状態の悪化を訴える人も増えています。精神的な疾患や依存症を抱えた人が通うデイケアも閉鎖されるところが出て、デイケアに通うことで再発を抑えていた人の状態が悪化したりもしています。

依存症の世界では依存が再発することをスリップといいますが、アルコールや薬物などの依存症が再発して、「コロナスリップ」という言葉も生まれているそうです。

戦争や地震など、これまでも人間の歴史にはさまざまな危機がありましたし、戦争のほうがもっと悲惨だったというのはその通りなのですが、人が集まったり、直接会うことがそのままリスクにつながるといういまの事態は、戦争や地震といった物理的な脅威とはまた別種の閉塞感を、人びとに与えていると言ってもいいでしょう。

コンボが声明を発表

メンタルヘルスの当事者向けに出版や情報提供などの活動をしている、認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)では、3月5日に、「昨今の新型コロナウィルス感染症で不安を感じている皆様へ」という声明を出しています。

この声明では、新型コロナウイルス感染症に関してとても多く情報が飛び交う今の状況下で、精神障害を持つ人もそうでない人も、先の見通しがたたないことに疲れや不安が増しているのではないか、と気にかけた上でこのように綴っています。

「私自身、たくさんの情報が毎日飛び交うと、流れてくる情報量に圧倒されてしまい情報の取捨選択がいつも以上に難しくなってしまいます。そしてそれにより強いストレスや不安を感じ、この所いつも以上に疲れを感じています。結果、いつも通りの生活をおくることが難しくなり、日々の生活に影響が出てしまっています。

こういうときだからこそ『できる範囲でのいつも通り』な生活を意識してみることが状況に振り回されないために役に立つかもしれないと思い始めています。けれど、それが難しいから困っている・不安なんだ、という方もおられるかもしれません。

私たちは自分自身に困難なことが起きたとき、きっとその時その時に精一杯の工夫をして生活をおくっていると思います。今回もその工夫にプラスして、『できる範囲でのいつも通り』を意識してみることに一緒に取り組んでみませんか。」

普段通りの生活は得られるか

この声明を書いたコンボの理事の佐々木理恵さんは、メンタルヘルスの当事者としての経験をいかし、医療機関でピアスタッフ(病の経験を活かし働くスタッフ)をしています。

佐々木さんは、「外に出ることも難しい状況なので、ついテレビを長時間見てしまいがちですが、ニュースやワイドショーを長時間見ていると同じ内容が繰り返されて余計に不安になり、情報量が受け入れられるキャパシティを超えてしまいがちです。

そういうときはテレビを消して、普段はなかなかできない部屋の片付けに取り組んだり、読もうとしても読めなかった本や資料に手を伸ばしてみるのも、時間を過ごすひとつのやり方かもしれません」と話します。

心理学やメンタルヘルスの世界で、近年広まった言葉にレジリエンスというものがあります。レジリエンスとは、困難な状況下にあっても心が折れることなく、柔軟に生き延びようとする心のありようを指しています。

レジリエンスは、ものの見方を変えることによって、後天的に高めることができるとされていますが、このレジリエンスこそ、この状況下で生きるすべての人が必要としている能力なのかもしれません。

コンボが声明を出してからすでに1ヶ月あまりが経過し、新型コロナウイルスをめぐる世界の状況はますます緊迫度を増しています。

緊急事態宣言も出されたいまは、普段通りの生活をすることがさらに難しくなっている状況ではありますが、こんな時だからこそ、状況の変化に慌てず対応する心のしなやかさが求められていると言えそうです。

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