最新決算から見えてきた「新型コロナ」の経済的インパクト

新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時1万6,000円台半ばまで下落した日経平均株価ですが、4月13日時点で1万9,043円と、安値からは2,500円ほど値を戻しました。

中国がいったん感染拡大の封じ込めに成功したように見えることや、欧州でもロックダウンなどの処置により徐々に感染拡大ペースが鈍化してきていることが、リバウンドを誘ったのだとみられます。

もちろん、このまま世界的に感染が収束することが望まれるものの、東京や大阪、福岡などで感染者数が増加したことで、緊急事態宣言が出されるなど予断を許さない状況です。

今回の問題がいつどのような形で収束するのか、最終的に経済にどの程度影響するのか予想するのは非常に困難ですが、企業の決算発表などから見えてきた現段階の影響を紹介します。


苦戦するワタミや鳥貴族

まず、速報値として小売企業を中心に3月の月次売上高(前年同月比)が発表されていますので、主要企業の動向をご紹介します。まずは飲食業界です。

やはり各社とも非常に厳しい状況です。イタリアン料理「カフェ・ラ・ボエム」やエスニック料理「モンスーンカフェ」などを展開するグローバルダイニング(証券コード:7625)は51.4と前年の半分近くに落ち込んでしまいました。

イタリアン料理「カプリチョーザ」などを展開するWDI(3068)も55.0と同様の厳しさです。居酒屋大手のワタミ(7522)も59.6と4割以上売り上げが減少したほか、鳥貴族(3193)も2割近く減少しています。

すかいらーくホールディングス(3197)やサイゼリヤ(7581)といった大手ファミリーレストランも売り上げが2割以上減少しています。高い知名度を持ち多数の店舗をチェーン展開する上場企業でこの状況ですから、個人運営の料理店などが壊滅的な状況にあることは容易に想像できます。

「持ち帰り需要」でマックやモスは健闘

一方で表の下部にあるモスフードサービス(8153)は100.9と前年を上回る売り上げを達成しているほか、日本マクドナルドホールディングス(2702)、吉野家ホールディングス(9861)、松屋フーズホールディングス(9887)はいずれも若干の売上減にとどまり健闘しています。

これはやはり大きな「持ち帰り需要」が発生しているからでしょう。企業が進めるテレワークや一斉休校による在宅勤務が増加しているなどの影響で、持ち帰り業態に対するニーズが大きく増加していることが推測されます。

ユニクロも厳しいファッション業界

飲食業界だけでなく、ファッション業界も非常に大きな影響を受けています。以下の表をご覧ください。

多くの企業が2割~4割程度前年に比べて売り上げが減少しています。アンタイトルやタケオキクチなどを展開するワールド(3612)は58.1、カジュアル衣料チェーンのライトオン(7445)も60.9と非常に厳しい状況です。

ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)も、国内ユニクロの売り上げが72.2と非常に厳しい状況だったことを発表しています。

一方でワークマン(7564)と西松屋チェーン(7545)はいずれも前年売上を大きく上回る好調な業績を発表しました。ワークマンの発表によれば平年より気温が高かった影響で、靴下やTシャツ、ズボンなどの各種衣料の販売が好調に推移したということです。

また、西松屋チェーンは一斉休校に伴い、家で過ごす子供が増えたことでおもちゃなどの販売が好調だったようです。

このように一部の企業で例外はあるものの、各社とも非常に厳しい状況に追い込まれています。3月でこの状況ですから、緊急事態宣言が出された4月の業績はより厳しいものになると覚悟したほうが良さそうです。

<写真:ロイター/アフロ>

コロナ影響下でもかすかな希望

月次業績からすると、小売企業の今後の決算は非常に厳しいものになると予想されます。一方でかすかな希望を見出だせる発表もありました。前述のファーストリテイリングの業績予想をご覧ください。

上記の表の通り、ファーストリテイリングは2020年3~8月の業績予想を売上高が8814.8億円、本業の儲けを示す営業利益を82.6億円と発表しました。これは従来の業績予想からすると大きく下方修正されたもので、メディアではどちらかというと悲観的な論調が目に付きましたが、筆者にはそうは思えませんでした。

同社は日本のみならず、中国や米国、アジアで多数の店舗を展開しており、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を特に大きく受けるであろう企業です。その企業が影響を踏まえたうえでも下半期に営業黒字を達成できる見込みだと発表したのです。

これは経済や株式市場を非常に勇気づける発表だと筆者には感じられました(もちろんファーストリテイリングが今後業績予想を下方修正し営業赤字になる可能性はあります)。

また、イオン(8267)は2021年2月期(2020年3月~2021年2月)の業績予想を発表しました。それは売上高が8兆円~8.4兆円、営業利益が500億円~1,000億円と前期から大きく減るものの、こちらも営業黒字を確保できる見込みであると発表しました。

イオンは前提として「新型コロナウイルス感染症による当社事業への影響は、2021年2月期の年度末まで継続すると想定。消費マインドの冷え込みによる影響は年度末まで継続と想定」と、今後も影響が残ることを組み込んで予想を発表しています。

新型コロナウイルスの影響は甚大で日本経済に大きなダメージを残すことは避けられそうにありません。そうした中でも、一部の企業はそれを乗り越えて今後も黒字を確保できる見込みを発表しています。

ニュースや新聞報道を見ていると、どうしても悲観的なポイントにばかりに目が行きがちです。経済や市場にとって明るいニュースが一部で出てきていることもしっかりと頭に入れて、バランスを取りながら市場に向き合っていくのが大切なのではないでしょうか。

<文:マーケット・アナリスト 益嶋裕>

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