家庭こそは、子どもを守る砦。 安冨歩さんに聞く 「選択的夫婦別姓」のはなし【2】

家族の形や女性の活躍、少子化問題や憲法改正など、様々なテーマにもつながる「選択的夫婦別姓」の是非について、インタビュー形式で、さまざまな立ち位置の方の声を紹介する当連載。

2回目となる今回は、昨年の参院選でれいわ新選組から出馬し、馬に乗った選挙戦で話題を呼んだ東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩(やすとみ・あゆみ)さんです。女性のパートナーと長年連れ添い、女性の服装に身を包む安冨氏は、男女の性について、家族の姓について、どう考えているのでしょうか?聞きました。

*関連記事
女性の活躍で日本の風景を変える! 稲田朋美・衆議院議員に聞く「選択的夫婦別姓」のはなし【1】

選挙ドットコム編集部(以下、選コム):まずは日本での夫婦別姓の議論について、反対派で「家族破壊につながり、社会が混乱する」ことが主な理由とするひとがいますが、それについてどう思われますか?

安冨歩さん(以下、敬称略):こういうことを言う人は、その方の家庭が既に形骸化していて、夫婦関係の外形的継続を強制する圧力がなければ、たちまち崩壊してしまうことを肌身で感じているのでしょう。

そういう形骸化された家庭の中では、実際のところ愛情など存在せず、隠蔽された暴力が横行しているはずであり、その方の周囲の社会は、既に混乱しているのだと考えられます。こういう状況を放置することこそが、社会の基礎である家庭を崩壊させ、社会的混乱を引き起こします。

選コム:「夫婦別姓が法的に認められないなら、結婚しないで事実婚を選ぶ」カップルについてはどう思いますか?

安冨:私自身かつては、普通に結婚するのは当たり前のことだと思い込んでいました。当たり前だと思い込んでいると、まぁこんなもんだろう、みたいな感じで、ズルズルっとトコロテンみたいに『結婚』へとなだれ込んでしまい、子どもを作ってしまう。私自身、そういうことをしたのですが、今思えばそれは、とても恐ろしいことでした。

こんな恐ろしい失敗を犯さないために、どうしても結婚するという学生や若い人におすすめしているのは、結婚する時に、離婚届にも一枚ずつサインして交換しておくことです。そういう提案をして、嫌だと言われたなら、その相手はヤバいから結婚しないほうがいいと思います。

政治が真剣に考えないといけないのは、現在の婚姻という制度が、どれほど時代の要請から外れ、社会的混乱を生む原因になっているかを認識し、新しい制度を設計することです。なぜなら、家庭こそは子どもを守る砦であり、社会の基礎だからです。そこが、本当の愛情によって形成されていない限り、わたしたちは子どもを守り、未来を切り開くことなどできないのです。

選コム:結婚したいというLGBTのカップルたちの婚姻を認める法律も整備するべきでしょうか?

安冨:私は、「LGBT」などいうものは存在せず、あるのは「性的指向を口実にした暴力だけだ」と考えています。性的少数者を「LGBT」という特別な人種と認定した上で権利を認めるのは、差別なのです。そのような差別の残存する社会に生きることは、全ての人にとって苦痛です。

2015年には、アメリカの全州で同性婚が認められるようになりました。この運動のきっかけとなったのが、カリフォルニア州における同性婚の非合法化の撤廃を求める訴訟です。この訴訟を指導したのは、ブッシュとゴアとの大統領選挙を決着させた裁判の、民主党側と共和党側との双方の弁護士でした。

特に、ゴリゴリの保守主義者であることを自他共認める共和党派の弁護士が、「結婚という制度を保守するために、同性婚を認めるべきだ」と考えて、この裁判に立ち上がった、という事実に目を向けてほしい。同性婚を拒否する保守主義者には、「真の保守主義」とは何かについてよく考えてほしい。

選コム:現在、アメリカのオハイオ州でアーミッシュ(※同州やカナダ・オンタリオ州などに居住するドイツ系移民の再洗礼派キリスト教の集団で、自動車や電気を使わず、馬車で暮らしていることで知られる)の方々の暮らしを調査されているとのことですが、アーミッシュの方々の結婚制度や男女の役割はどのようなものでしょう?

安冨:ものすごく保守的で、離婚は許されないし、男性のみが Gmay(教会共同体)の代表者などになれます。男は稼いで、女は子供を産んで育てる、という非常に伝統的な家庭観です。

選コム: アーミッシュの人たちの社会で、もし同性愛を自認した人がカミングアウトしたら、周囲はどう反応するのでしょう?

安冨:確実に破門されます。

選コム: また、女性たちがフェミニズムの影響を受けたりして、男性しかできないとされている権力を要求したり、ということはないのですか?

安冨:それも、確実に破門されますね。

選コム:破門されるのが怖いから、内在する不満を出せずにいる人も多いのでしょうか。こうしたアーミッシュの制度がオワコンにならないのは、宗教的な信仰心が支えになっているからということでしょうか?

だとすると、日本の天皇信仰の保守派もある意味同じということでしょうか?

安冨:破門されるのは怖いでしょうが、それを恐れているという感じでもないです。「罪」を犯しても、「ごめんなさい」と言って悔い改めれば、原理的には許されるので。

アーミッシュの制度は、あらゆる決まりごとの文字化を拒否し、口頭で全てが決められるような構造を維持するために、20〜40家族程度を上限にGmay を作っています。

それ以上大きくなったら、分割するのです。このやり方が柔軟性を維持して崩壊しないポイントだと思います。それを現代のアメリカで維持しているというのがすごいです。

男女の区別は極めて明確な社会ですが、不思議なことですが、アーミッシュの男女関係を外から眺めていると、上下関係をあまり感じません。これはこの柔軟性の維持と関係があるかもしれません。

日本の保守派の方々が抱いている「伝統」は、アーミッシュのような現実の伝統ではなく、近代になって生み出された観念的産物に他なりません。

選コム:あえてお聞きしますが、今のオワコンな日本の結婚制度を維持する利点があるとしたら何でしょう?

安冨:ないです。家制度を守るため、とか言っても、結婚するたびに、女性側の姓が一つ消えています。少子化時代に、夫婦同姓を強制すると、家の姓が猛烈な速度で消滅している、という事実ひとつを考えても、無意味です。

選コム:日本の社会で、これから家族制度を維持しながら、個人の「性」も尊重できる社会にするには何が必要でしょうか?

安冨子供を守るために、大人が力を合わせることが必要です。そのために家族を設計せねばなりません。二人では、足りないなら、もっと多くの人が、「家族」として関われるようにする必要があります

選コム:まだまだいろいろ伺いたいですが、ひとまずのところ、今日はありがとうございました!

© 選挙ドットコム株式会社