「りんご飴専門店ブーム」火付け役が“映え”消費に冷ややかな理由

屋台の定番菓子をスイーツに昇華したりんご飴が今、静かなブームとなっています。りんご飴専門店として、日本で初めて菓子製造業許可を取得したという「ポムダムールトーキョー」がオープンしてから約6年経ち、類似店が多数登場しています。

今のりんご飴ブームを牽引するトップランナーでありながら、ポムダムールのりんご飴は発売当初と同様に愛され続けています。りんご飴製造へのこだわりについて、代表取締役社長の池田喬俊さんにお話を伺いました。


屋台のりんご飴に違和感

「りんご飴は新たに開発したものではなく、すでにあったものです。長く愛されてきたものを、僕たちがより良い解釈をしただけ、と言った方が正しい表現かもしれません」

ビジュアル志向の屋台のりんご飴に違和感を持ち、2014年にりんご飴専門店を東京・新宿にオープン。初めて来る人は迷いがちな隠れ家のような店には、リピーターが多くいます。

リンゴを丸々一個使用して、カリッとした食感の飴をコーティングするスイーツとしてのりんご飴のルーツは、日本のお祭りで並んでいるものではなく、アメリカで発祥しフランス文化で育まれた、カラフルにデコレーションされたりんご飴。

ポムダムールはフランスのりんご飴を、日本向けにバージョンアップしています。過剰な装飾をせず、果汁たっぷりの日本のリンゴを厳選した素材でシンプルに加工します。

「日本人が持つ美意識というのは、とても簡素でシンプルなものです。西洋では美しいものや権威あるものに対して、装飾を足して派手にしていく傾向がありますが、日本では引き算的な発想です。海外にある教会などが豪華なものが多いのに対して、日本の神社仏閣は簡素ですよね。

加工食品であるりんご飴は、要するに飴をかけているだけのものです。そこが僕の思う日本人の美意識と親和性が高かった。僕にとってりんご飴は子どものおやつではなく、シンプルで無駄がない美しい何かでした。ポムダムールが、飴の上にいろいろなトッピングをしたりカラフルにしたり(装飾)する方向にいかなかったのは、すでに美しいものだったからだと思います」

絶妙な厚みでコーティングされた飴とジューシーなリンゴのハーモニーが楽しめるりんご飴は、1個600円(税込み)から。初めて手にする人は丸ごと一個のボリュームに圧倒されますが、契約を結んだ農家から届く旬のリンゴを使って、果肉本来のおいしさを活かす加工をしているので、女性でもぺろっと完食できてしまいます。手の込んだデザートとは一線を画した、芯の強い魅力を放っています。

りんご飴を「流行らせない努力」

「りんご飴は、初めて体験する人でも、『懐かしい』と誰もが思うストーリーがすでに織り込まれている食品なんです」

流行らせてしまうとそのメッセージ性も薄まってしまう、と池田さんは言います。

「ブームというのは、僕は文化的なものだと解釈しています。文化は時代で価値が変わってしまうものなので、普遍価値ではありません。一過性の流行にとどまらず、長く愛されるものになったのは、売り方を選び、流行らせない努力をしてきたからです。テレビの取材も断ったものは結構ありますし、影響力のあるタレントさんが出ている番組は断ります」

起業して6年、会社をおこして2年。年商も右肩上がりのポムダムールは3店舗を展開しています。しかし、宣伝広告費はゼロ。「新規獲得にも、あまり興味がない」とのこと。

「ファンを置いてきぼりにしてしまう売り方は避けてきました。ポムダムールはポムダムールでい続けてほしいという、お客さんの期待に応えたいんです。僕はりんご飴がブームだということについて、あまり興味がありません。(類似店、競合店と)会社として戦う手段が違えば目的も違います。僕の事業の目的は、一発当てて儲けたいということではないんです。経営にも困っていないので、流行らせる必要もありません」

とは言え大きな波には逆らえないとも。インスタ映えするビジュアルが後押しとなり、SNSを見て訪れる一見さんは少なくないと言います。

ブームを冷ややかに見る視線の先

「りんご飴ブームには関心がないのですが、大枠で見れば、リンゴを消費する場が増えるのは喜ばしいことだと思っています」

池田さんが目標の一つとしているのは、リンゴの売価の見直し。りんご飴には「小径小玉」と言われる玉のサイズが小さいものを使用しています。日本でこの小さいリンゴが生鮮食品として商品価値が低いのです。

「サイズにこだわらない海外と違い日本のリンゴの消費のされ方は特殊で、大きく傷がなくて赤い方が良いという基準なので、小玉には値段がつきません。たとえば木箱一つで7,000円と言われているものが、サイズが小さいだけで3,000円の値がついたりする。需要がないからです。それらは加工品やジュースにするか、袋詰めにして出荷されています」

農家さんたちにとっては、狙って小さいものを作っているのではなく、そうなってしまうものなので、大きいものも小さいものもかけている手間は一緒です。農家さんの願いはとにかく生産したりんごを食べてもらうことですから、消費される現場が増えた点は良かったと思います」

池田喬俊さん

過剰在庫を抱えず食品ロスをゼロに

リンゴは、農家が生産する品目の中でもとくに手間がかかるものだと言います。ポムダムールはそんな農家へのリスペクトを込め、食品ロスゼロを一貫しています。

「そのためには過剰在庫を抱えない、などといった日頃の努力が必要です。毎日1日の販売予想を立てて過剰に仕入れすぎない、といった工夫をしています。仕入れ過ぎてしまうと、使い切るまでに時間がかかって味も落ちてしまいます。毎日行うのはとても大変ですが、楽をしようとするからロスが出るんだと思います。

また、面倒くさがってつくり置きをしたりすると余りが出てしまうので、りんご飴はその日その日につくっています。その方が管理もしやすいんです」

新宿店では、リンゴのカクテルを出しています。これはつくり過ぎたりんご飴を再利用したり、搬送の途中で傷やくぼみができて使えないリンゴの救済のためのメニューでもあるのだとか。

「僕はりんご飴と出会って始まったストーリーというものがあって、それを伝えたいんです。りんご飴の見た目とか売り方の面白さとかで利益を上げるというのは、場所を変えているだけのお祭りと一緒です。僕は屋台で見たりんご飴に違和感を感じてこの店を始めたので、衝動的な商売のやり方に戻す必要はありません。一日でも長く、一個でも多くつくりたいですね」

そんな池田さんの3号店目となる新店舗が2月29日にオープンしました。店名は「十三月の林檎飴【アンディシンバー】」。現段階では店舗情報はほとんど出されていません。13月とは、現実にはない「誰も経験したことがない日々」を表しているのだとか。

※新型コロナウイルス感染拡大防止による緊急事態宣言の発令を受け、新宿本店と3号店は当面の間、臨時休業となっており(新宿本店は数量を限定しオンラインストアで販売)、2号店POMME L’IMINAL osakaは営業を継続しています。(2020年4月15日現在)

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