ドバイ万博延期が日本に教えてくれるもの 先手の危機対応に感じる大きな差【世界から】

ドバイ万博の会場予想図(ドバイ万博事務局提供・共同)

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、東京五輪の1年延期が決まった。五輪に限らず、世界各地で予定されていた大規模イベントは次々と実施時期を先延べしている。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでの国際博覧会(万博)も同様だ。しかし、決定に至るまでの過程ではドタバタした印象が残る東京五輪と大きな差があった。(ジャーナリスト、共同通信特約=伊勢本ゆかり)

 ▽中東では初めて

 ドバイ万博は当初、今年10月から21年4月までの開催予定だった。アジアと欧州、アフリカの中継地ドバイを舞台に「心をつなぎ、未来を創る」をテーマとして約190カ国・地域が出展、約2500万人の入場を見込んでいた。また、パレスチナ問題を抱えるイスラエルやUAEと対立するイランも出展を予定している。UAEなどと17年に断交したカタールにも出展を呼び掛けており、中東の政治対立を超えた画期的なイベントとなることが予想されている。

アラブ首長国連邦・ドバイ

 博覧会国際事務局(BIE)が承認した大規模な「登録博」としては中東・アフリカで初の開催となる。20年の五輪開催地で東京が選ばれたのと同じ13年に、立候補した4都市の中から決まった。ちなみに、次の登録博は25年の大阪・関西万博だ。

 2年にわたる招致キャンペーンが成功したときには、世界一の高層ビル「ブルジュ・ハリファ」から花火が打ち上げられるなど、ドバイ国内は祝福ムード一色となった。さらに、決定した当日は祝日として学校などの教育機関が休みとなった。国を挙げて盛り上がる街の様子は、五輪開催地が決定した時の東京をそっくりだった。

 ドバイにとって記念すべき万博は3月30日、開幕の1年延期を検討することになった。正式決定はBIEの総会を待たなければならないが、同事務局長が「決定を支持する」と発言しているので大きな変更はないだろう。

夜間消毒作業の様子。ドローンを使って行っている(ドバイ政府 Media Office 提供)

 ▽手際の良さ

 新型コロナウイルス感染防止策として、ドバイ政府は先月24日から年間8600万人以上もの利用客があるドバイ国際空港を完全封鎖した。同時に、厳しい外出制限と徹底した消毒作業も実施。最悪の事態に備えて、仮設病院の建設準備や医療従事ボランティアの募集などにも着手している。一時的な危機的状況を住民が一丸となって乗り越えれば、経済活動も早期に回復すると考えている。外出禁止令の敷かれた夜間の街を皇太子が自ら視察に出かけるなど、積極的かつ厳格に対処している。

 ドバイ万博運営委員会も手際が良かった。開催に関する臆測が飛び交う前に延期の可能性があることを表明。これにより、混乱は起きなかった。さらに、延期決定後には準備に携わってきた人々の姿をドキュメンタリー風に紹介するメッセージビデオを公開。最後を「今は世界中から人を集めるよりも、世界中の人々それぞれが家族と一緒に家にいることが大事な時」と締めくくった。関わる人たちの気持ちに寄り添ったメッセージに不満を漏らす人はいないという。

 同じように延期となった東京五輪はどうだろう。「すったもんだした揚げ句」と表現した識者がいたように大混乱した。原因は大会組織員会など関係する人々が新型コロナウイルスによってそれまでと一変してしまった状況を踏まえているとは到底思えない対応を取ってしまったことにある。開催に反対する世界中からの声に押されて、最後は開催延期を受け入れざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

13年11月27日、万博開催が決まり喜ぶドバイの人たち(ロイター=共同)

 ▽何度も乗り越え

 観光立国でもあるドバイは、旅行客による消費が経済に大きく寄与している。国内総生産(GDP)に占める割合は約5%で、日本の0・6%と比べても大きい。ドバイ国際空港の閉鎖や渡航制限は航空会社や旅行会社だけでなく、観光客に依存しているホテルや飲食店にも大きなダメージを与えている。例えば、政府系のホテルグループは3月中旬から8月いっぱいのホテル閉館を思い切って決定した。従業員は有給休暇の消化と、無給休暇の利用要請をして、雇用をつなぎとめている。近い将来必ず復活期が訪れ、その時に人員が必要になると考えているからだ。

 日本でも今、インバウンド客が激減したことによる経営破綻や業績の悪化が深刻だ。いや、日本だけではない。世界中でイベントが延期や中止となり、観光業が壊滅的なダメージを被ると予測される20年。ドバイはこれまでも01年に起きた米中枢同時テロや09年のリーマン・ショックによる金融危機などの難局に打ち勝ち、高い経済成長率を維持してきた。今回の危機的状況を乗り越えるに当たって日本が参考にできる点はきっとあるはずだ。

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