臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(245)

 解決しなければならない問題がいくつかあった。どうやって、競技場まで行くのか?
 便乗させてもらうにしても、自由市場の仲間はトラックしかもっていない。知人や友だちで自動車をもっている人がいないのだ。競技場のようなところに、トラックでいくわけにはいかない。
 陸軍将校、たとえ予備役将校でも、卒業式には軍人シンボルの剣がマドリーニァ(代母)から卒業生に渡されるという伝統がひき継がれている。代母をだれに引き受けてもらうか?
 剣が買えるぐらいの裕福な人がいい。自分たちと同じぐらいの貧乏な友だちに頼めば、剣を買ってもらうわけにはいかず、結局、保久原家に負担がかかりすぎる。その上、舞踏会にはいっしょに踊ってもらう代母がいなくてはならない。だれがいいのだろう?
 正輝とマサユキの頭にいいアイデアが浮かんだ。ベルナルディーノ・デ・カンポス街にある宝石店の岡田さんは、やもめだが4つドアのダッジ・コロネットの乗用車をもっている。娘さんをパーティーにさそってはどうだろうか? 
 もし、承諾してもらえれば、岡田氏は彼女をパカエンブまで車で連れて行かなくてはならない。車の後ろの席に三人乗れる。マサユキと両親、もしかしたら、ジュンジも連れて行けるかもしれない。結局、岡田氏は招待を受けてくれた。
 卒業式の代母にはマサユキの洗礼親、ヴァンべルト・ヂーアス・ダ・コスタ医師の娘ソランジェはどうだろうか。コスタ医師は20年前、房子の不妊を解決し、初めて子どもをもうけさせてくれた医師だ。サンパウロに引越し、悠々自適な生活をしている。彼にとって剣の価格など問題ではないはずだ。娘が若い陸軍の予備将校の代母を務める。それは剣を贈るに価するほど、名誉あることなのだ。ソランジェは即座に招待を受け入れ、剣の費用も負担してくれた。
 正輝夫婦は卒業式の日を指おりかぞえて待った。これまで出席したどんな式より素晴らしいに違いない。日本人といっしょに参加した数々の行事を思い返したが、CPORの卒業式については想像の限界を超えていた。パカエンブとは一体どんなところなのか? 自分たちが座っている場所から息子が剣をもらう姿が見えるのだろうか?
 7月が過ぎると、二人には時が過ぎるのが遅すぎたり、反対に早すぎたりした。卒業式がすぐそばまでせまっているように感じたり、あるいはまだまだ遠い先ののように感じられるのだ。

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