行動歴見えず不安 客船内発症 聞き取りに時間と手間

623人が乗船しているクルーズ船コスタ・アトランチカ(中央)=長崎市香焼町、三菱重工業長崎造船所香焼工場

 三菱重工業長崎造船所香焼工場(長崎市香焼町)に停泊中のクルーズ船内で外国籍1人の新型コロナウイルス感染が確認された問題で、三菱重工はかねて工場での防疫対策を徹底しており、日本側関係者への感染拡大はないとみている。ただ県や市の確認手段はイタリアの船会社からの聞き取りが主体で、時間と手間を要する。感染者らの行動歴や感染経路が分からず、従業員や住民は不安を募らせている。
 県や三菱重工によると、コスタ・クロティエーレ社が運航するコスタ・アトランチカは1月31日、香焼工場に到着。3月25日に修繕が完了し、翌26日に市中心部の松が枝岸壁に移動し物資を補給。いったん出港し、今月1日から再び香焼工場に停泊した。
 この間、乗客はおらず、乗組員ら623人は船内に居住し外出は制限された。修繕中は乗組員が買い出しなどのためバスで市街地を訪れたが、その際は検温を実施。県が3月13日、感染拡大防止のため乗下船の自粛を要請し、船会社側は「以降、乗下船はない」と答えたという。さらに三菱重工はコスタ社と協議の上、同16日から香焼工場正門で入構者全員に健康状態チェック表の提出と検温を求め、管理を厳格化していた。
 しかし今月14日、コスタ社員が発熱。船医の指示でその日からウイルスが外部に漏れない「陰圧」管理された船内個室に隔離された。三菱によると、1日以降、ごみ搬出や物資補給の作業で三菱側関係者十数人が船内に入ったが、9日以降の接触はなく、体調にも異常はない。うち数人が2週間経過するまで自宅待機となっている。
 感染者はコスタ社の管理職とみられるが、県と市は21日の記者会見でも「コスタ社の了承が取れていない」との理由で情報公開を控えた。感染経路について県担当部長は「全体像をつかむのに時間がかかっている」と説明。記者から「乗下船は絶対にないか」と問われると、市担当部長は「市は船に入れないが、その可能性も含めて行動歴をコスタ社と三菱に確認したい」と述べるにとどめた。
 修繕を受注した三菱重工の子会社、三菱造船(横浜市)の椎葉邦男常務(長崎造船所長兼務)は20日の会見で「専門家の意見を聞き、県市と協力してしかるべき手を打つ」と強調した。
 発覚から一夜明けた21日朝、香焼工場に出勤した男性は「クルーズ船修繕の仕事があるのはうれしいが、感染が身近な問題になった。ダイヤモンド・プリンセスのようにならなければいいが…」と困惑気味。乗組員を見かけたという住民の男性(74)は「感染が広まると怖い」と話した。

 


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