<いまを生きる 長崎コロナ禍> 五島「青色のハンカチ」活動 分断より連帯を

 不安に押しつぶされそうな日々が続いている。感染が広がる新型コロナウイルス。未知への恐怖は、ともすれば人々の相互不信を招き、分断を生みかねない。でも同時に、直接触れ合えずとも、互いを気遣い、いたわり合いながら過ごす人たちがいる。きっと長崎県内のどこにでもある風景。今こそ、そんなワンシーンを伝えたい。

◎見えない心遣い

 感染が広がる都市部から地方への「コロナ疎開」。今月、五島市ではこの言葉と共に、県外ナンバーの車への過度な警戒感が広がった。
 「見慣れない車だ」「怖い」。医療体制が本土より脆弱(ぜいじゃく)で、高齢化率が高い離島。不安になるのも無理はなかったが、そもそも疎開した人なのかすら定かではない。現に県外からの転勤者の中には、車に乗るのをためらう人もいた。多くの観光客や移住者を温かく受け入れてきた島は、不穏な空気に包まれつつあった。
 そんな中、市内で多目的スペース兼宿泊施設を営む芳澤瞳さん(41)が、フェイスブックなどで「青色のハンカチ」と名付けた活動への協力を呼び掛け始めた。店先や玄関先などに掲げて、手洗いやうがい、マスク着用など周囲への気配りをしていることを表明する。島外から来た人に感染防止への協力を求め、ひいては島民の安心感につなげたいと考えたのだった。

門原さんが青い布を結び付けた介護老人福祉施設「たまんなゆうゆう」の車両=五島市玉之浦町

 青い“輪”は徐々に広がりつつある。既に市内の福祉や宿泊、飲食など約10事業者が賛同。玉之浦町で介護老人福祉施設を運営する門原淳一さん(48)もその一人だ。移住推進に力を入れてきて、「(島民と島外から来た人の)溝が深まったまま五島に感染者が出れば、移住や観光など積み上げてきたものが全て崩れる」と感じていた。
 施設の車両10台ほどに青い小さな布を結び付けた。門原さんや職員も日々、施設の感染を防ぎ高齢者を守ろうと、ギリギリの状況で業務に当たる。「同じ思いの人が増えて信頼関係が生まれれば、勇気が出る」
 「青」は選別でも、分断でもなく、連帯のメッセージだ。芳澤さん自身、活動を始めてこう気付いた。
 「青い物を見るたびに、『今日ちゃんと気を付けて生活できたかな』と振り返るんです。気配りは自分のためだけではなく、何より他の誰かを守ることにつながるんだって」
 もちろん青色を掲げない人がいてもいい。芳澤さんが願うのは、他者への気配りが広がることだけ。そうすれば、もしこの島に感染者が出たとしても、島内が「攻撃」ではなく「いたわり」の気持ちで満たされるのではないか、とも思う。
 「見えないウイルスが、見えない分断を生んでいる。それに対抗できるのは、見えない心遣いなのかな」

◎家族思い、強まる絆

 スマートフォンの画面越しに呼び掛けた。
 「人混みに行かんようにね」。緊急事態宣言が全国に拡大された16日の夕方。五島市小泊町の平田耕一さん(79)、幸恵さん(72)夫妻は、東京に暮らす長男の一将(かずまさ)さん(50)とテレビ電話でつながっていた。
 「外で飲んだり食べたりしたら危ないよ」
 「マスクはあるね」
 耕一さんの心配はつきない。安心させるように「大丈夫だよ」と返す一将さん。「父さん母さんも気を付けな」。互いに手を振り、通話は終わった。
 次男と長女の家族も感染者が多い埼玉県在住。多くても週に1回ほどだった親子の電話は、新型コロナウイルス感染症の流行後、2回、3回と増えていった。耕一さんがかけたり、わが子からかかってきたり。
 だが、収束の気配が見えない新型コロナ禍。子や孫が帰省する予定はなくなり、今年は静かなお盆になりそうだ。耕一さんたちは「島に帰らんね」という言葉が何度も喉まで出かかったが、この小さな島への影響や移動中の感染リスクを考え、ぐっとのみ込んだ。
 「コロナが終われば、会えるから」。耕一さんは酒を酌み交わす時間を、幸恵さんは手料理を振る舞うことを-と再会の日を思い浮かべると、自然と笑顔になる。「会えない時間が長いと、楽しみが増えますね」

東京に暮らす息子とテレビ電話で会話し、体調を気遣う耕一さん(左)と幸恵さん=五島市小泊町

   ◆ ◆ ◆ 
 今は古里に帰らない。そう決めた若者だっている。
 県立大1年の川端涼太さん(18)=五島市出身=は3月下旬、佐世保市で新生活を始めた。ところが1週間後、同市で新型コロナの感染者が確認された。
 祖母や母は、島に一度戻って来てほしいと思っているようだった。川端さんの心は揺らいだが、「既に自分もウイルスを持っているかもしれない」。大好きな祖父母や両親、島の人々を危険にさらしたくはなかった。
 とはいえ、慣れない土地で初めての1人暮らし。不安や寂しさも当然あった。ある日、実家から大きな段ボールが2個届いた。肉、野菜、ジュース、マスク、ティッシュ…。温かい“エール”が身に染みた。
 あこがれのキャンパスライフは、もう少し先。今は家族との毎日の電話や、高校の友人らとのグループ通話が日々の支えだ。川端さんは、かみしめるように言う。「家族や友人との関係が、深まった気がします」

 

<この連載は随時更新します>


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