軟弱地盤と東海道新幹線の建設史、辰巳駅前の奇妙な小屋の前で専門家の記述を読む

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東京都江東区辰巳。東京メトロ有楽町線1番出入口からすぐの場所に、奇妙な平屋の建屋が3棟。

シンプルでスクエアな建物の広さは10畳ほどで、A・B・C棟ともドアが1枚、金網で覆われた窓が1枚。どこかの収容所のようにも見える。ここはいったい……!?

ここは、東京都港湾局 辰巳地盤沈下観測所。

東京港エリアの地盤沈下を観測し、埋立地の開発・維持・保全、防災対策のための基礎資料を得ることを目的とし、各地盤の沈下及び地下水位の観測を1970(昭和45)年から継続して実施。

東京港エリアには、この辰巳のほか、砂町、15号地、新有明、大井その1、大井その2と、6か所ある。その最近のデータが↓↓↓の資料画像。

辰巳地盤沈下観測所は、辰巳駅前ロータリー、都営辰巳一丁目アパート、区立辰巳児童館に囲まれた敷地にあり、一般の立ち入りを禁止したエリアに3棟が立つ。その背後にそびえる豊洲のタワーマンションとのギャップが、ふしぎな組み合わせ。

この観測所の前で、長岡技術科学大学 池田俊雄 名誉教授「地盤地質と鉄道土木の50年」を読むと、東海道新幹線建設と軟弱地盤との戦いがよりリアルに感じられる。以下、原文をそのまま引用。

「東海道新幹線ではこのような軟弱地盤箇所が50か所余りあり,その全延長は70kmにも達する.これは東海道在来線のおおよそ3倍近い延長である.このような地盤に高さ7~8mの盛土を造るためには,地盤を含む基底破壊と圧密沈下に対しての調査,試験,計算,施工設計ならびに必要とする対策工事を行わなければならない.このため標準的な設計・施工の手引書が作られた.最も標準的な施工法は段階式に盛土を行う緩速段階式盛土工法である.さらに必要に応じてサンドドレーン,サンドコンパクションパイルあるいは押さえ盛土工法等が行われた.大部分の箇所でほぼ設計どおりの施工が行われたが,二,三の箇所
において,施工中地盤の破壊を生じ押さえ盛土やタイロッド付きのシートパイル締め切り工による応急対策工事が行われた.また,盛土による地盤の全沈下量が2mを越えるような超軟弱地盤では盛土に代えて高架橋や橋梁に設計変更された箇所も総計約10kmに及んでいる.

軟弱地盤上の盛土工事は緩速施工となるので工期がかかる.しかしながら新幹線で用地交渉,設計協議などで工程が遅れがちになり,このため軟弱地盤盛土で開業後の継続沈下をなくすため必要とされるプレロードを行う時間的な余裕が現場で取れず,盛土立上りと同時に軌道工事を行わざるを得なかった.この結果,多くの箇所において開業後継続沈下が残留し,橋台裏などにおける軌道の保守工事が間に合わず,徐行を余儀なくされ東京~新大阪4時間運転となったのは遺憾であった.引き続き建設された山陽新幹線では東海道での経験に鑑み軟弱地盤上の盛土は極めて少なく,また東北新幹線,上越新幹線では盛土そのものがほとんど建設されていないので軟弱地盤盛土の問題はない.」(原文引用終わり)