【新型コロナ】歯科医院も「医療崩壊」 感染拡大で相次ぐキャンセル

患者が替わるごとに診察台周辺をアルコール消毒している竹下さん=藤沢市本町

 「患者が来院しなくなるという医療崩壊が現場で起こりつつある」。新型コロナウイルスの感染拡大で、歯科医院が経営危機に直面している。患者の検診控えなどによる予約のキャンセルが相次いでいるからだ。藤沢市内で歯科医院を開業する竹下義仁さん(60)は「歯科医になって35年になるが、かつてない事態」と深刻な状況を打ち明ける。

 竹下さんによると、定期健診を中心に予約のキャンセルが出始めたのは3月中旬ごろから。以前は1日平均25人が来院していたが、半数程度に激減。神奈川など7都府県に緊急事態宣言が発令された4月上旬以降も「キャンセルが続いている」という。

 「定期健診の場合、不要不急と判断してキャンセルするようだ。ただ、歯周病などを放置すると重症化してしまう」と竹下さん。「免疫力低下を防ぐためにもメンテナンスが必要だと説明しているが、来院を強要する訳にはいかない」と、もどかしさを口にする。

 歯科医院での治療は「飛沫(ひまつ)」と「接触」による感染リスクが高いといった風評も、来院者の減少に拍車を掛けているという。

 だが院内では、感染予防策を徹底している。医療用マスクやフェースガードを装着する一方、防護用のガウンが手に入らないことから、患者が替わるたびに白衣の表面をアルコールで消毒。診察台や周辺機器なども消毒し、治療で歯を削る際に細かな粉じんが飛散しないよう、強力な吸引力で吸い取る医療用具「フリーアーム」も使用している。 スタッフを含め毎朝検温し、37.5度以上の発熱やせきがあった場合は出勤しないよう取り決めてもいる。

 密閉、密集、密接の「3密」を回避する手だてにも腐心する。診察の時間帯には、入り口のドアや診察室の窓を定期的に開放。待合室に多くの患者が滞在しないよう予約の時間をずらすとともに、来院した際はアルコール消毒液による手指消毒や洗口液でのうがいをお願いしている。来院者にも2週間以内の発熱やせき、海外渡航歴を必ず申告するよう要請している。

 こうした工夫を重ねる中でも深刻化しているのが、診療に不可欠な医療用物資の不足だ。

 マスクにキャップ、ガウンや手袋、コップ、患者用エプロン、消毒用アルコール…。「長年取引している専門業者からも入手が困難な状況」だ。自らインターネット通販などをこまめにチェックしているが、「品切れのケースがほとんど」という。

 このままの状態で推移すると、収入が減り続け、人件費や材料費、機材の維持費などの負担が重くのしかかる。「特に中小の歯科医院は経営が成り立たなくなる」。竹下さんは事態の長期化に危機感を募らせている。

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