告げられなかった“別れ” 「新型コロナ、終息したら会いに行く」 SNSで発信 亡き祖父の俳句にイラスト添えて

俳句にイラストを添えてツイートしたツイッター画面

 元相浦署長で俳人でもあった佐世保市の高田輝雄さんが14日、老衰のため94歳で亡くなった。1月から体調を崩し入院していたという。孫の男性(36)=埼玉県在住=は、生前からツイッターで高田さんの句に自作イラストを添えて発信。ツイートは25日現在109件、フォロワーは千人を超えた。男性は高田さんの全ての句を紹介するまで続けるつもりだ。「じいちゃんが生きた証しとして」
 高田さんの雅号は緑風(りょくふう)。佐世保文学賞や県文学特別賞などを受賞し、句集「天の鶴」「大銀河」を発刊するなど活躍した。死去した14日は男性の36回目の誕生日でもあった。「元警察官で昔は厳しい人柄だったと聞くが、私をとてもかわいがってくれた」

高田さんに抱かれる1歳の頃の孫の男性(男性提供)

 関東生まれの男性は、幼いころから正月やお盆に佐世保の祖父宅を訪れるたびに、俳句や警察官時代の話を聞かされてきた。俳句には興味を持てず、もらった2冊の句集もほとんど開くことがなかった。
 最後に会ったのは昨年の正月。今年1月に入院後、新型コロナウイルスの感染が拡大。首都圏から佐世保へ見舞いに行くことは断念せざるを得なかった。「じいちゃんに何かしてあげたい」。そう思ったとき、いつかもらった句集を思い出した。「読んでみよう」

<六月の水音が好き野良歩く>

 男性の長女が生まれた時も句を詠んでいた。

<幸せに育て藤古よ風薫る>

 「句を通してもっと対話したい」「多くの人に届けたい」。そんな思いが募り、男性は美術大でデザインを学んだ経験を生かし、句に合わせたイラストを描き、ツイッターで発信し始めた。ユーザー名は「ryokufu」。回復を祈りながら、1月19日からほぼ毎日ツイート。親族がツイッターの画面を病床の高田さんに示すと笑顔を見せたという。
 新型コロナの感染拡大が壁となり、男性や、男性の母=横浜市在住=らは見舞うことも葬儀に参列することも断念した。別れを告げられなかったため、亡くなったという実感が今も湧かないという。
 「新型コロナが終息したらすぐにじいちゃんに会いに行く」。男性はそう決めている。

 


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