長崎停泊クルーズ船 新型コロナ確認1週間 乗員の健康管理 強化 市中感染 くすぶる不安

乗組員623人のうち148人の感染が確認されたクルーズ船コスタ・アトランチカ=長崎市香焼町、三菱重工業長崎造船所香焼工場

 長崎市香焼町の三菱重工業長崎造船所香焼工場に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカで乗組員の感染が確認されて27日で1週間。県は長崎大の協力を得て全乗組員623人の検査を終え、陰性者の帰国調整と陽性者の健康管理強化という次の段階に入った。一方、長崎市はホームページで専門家の見解を発信するなどして市中感染の不安払拭(ふっしょく)に努めるが、市民の懸念はくすぶり続けている。

  ■補給急ピッチ
 26日午前11時すぎ、香焼工場に停泊していた別のクルーズ船コスタ・ネオロマンチカの巨大な船体が離岸を始めた。運行会社コスタクルーズの日本支社によると、「乗組員の(感染からの)安全確保のため」出港を早め、急ピッチで物資や燃料を補給した。
 ただ県が国を通じて出港への協力を求めていたことも背景にありそうだ。アトランチカでクラスター(感染者集団)が発生。同船と同様に香焼工場内のネオロマンチカなど2隻の客船でも感染者が確認されて重症化すれば、都市部と比べ医療人材や病床が限られる県内の医療体制では耐えられない恐れもあった。同社がこうした事情をくみ取ったとみられる。
 アトランチカの乗組員のうち陰性の475人はコスタ社の管理の下、船の運営に必要な担当者を除き母国に帰国する予定。日本支社によると、乗組員の国籍は30カ国以上に及び、フィリピンなど人数が多い国はチャーター機で戻り、それ以外は民間機を利用する方向で調整中という。
 陽性のうち指定医療機関に入院中の重症1人を除く147人は無症状か軽症で引き続き船内の個室で隔離。これまでは船所属の医師と看護師ら計5人が健康観察に当たっていたが、「態勢は非常に厳しい状態」(中田勝己・県福祉保健部長)だった。26日にはネオロマンチカから看護師が乗り換え、コスタ社は医師をもう1人派遣できないか調整中。陸上自衛隊の医官ら4人も加わり、船外の仮設診療所で重症化の兆候を見逃さないよう万全を期しているという。
 一般的に感染者の最大2割が重症化するとされ、今回は単純計算で約30人となる。ただ高齢者ほど重症化しやすく、乗組員の年齢は比較的若いため、重症化率は一定下がるとみられる。

  ■「極めて低い」
 厚生労働省クラスター対策班の鈴木基(もとい)氏は25日、長崎市のホームページで「乗組員の一部が医療機関受診や空港への移動などで船外に出たことが分かっているが、(市民が)バスやタクシーなどで同席していたとしても感染した可能性は極めて低い」と説明。さらに「2週間前の11日以前に乗組員と接触したとしても、(ウイルス潜伏期間の)2週間がたっているので、体が元気であれば感染の心配はない」と述べた。だが市民の間には「客足が止まった」などと風評被害を訴える声もあり、コスタ社などが乗組員の乗下船の状況を速やかに明らかにすることが求められている。


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