新型コロナでプラゴミ問題が再燃する 感染対策で商品手渡し減り、ニュージーランド【世界から】

新型コロナウイルス感染症の流行以前には、人々は熱心にごみの分別に努めていた(C)Kristina D.C. Hoeppner(CC BY-SA 2.0)

 ニュージーランドで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されてから約2カ月がたつ。感染拡大の防止を目的に3月25日には「国家非常事態」が宣言され、買い物などを除くいわゆる「不要不急の外出」が厳しく制限されることになった。感染の可能性がある人を含めた感染者数200人あまりで導入した迅速な対応が奏功し、同国は感染拡大の抑え込みに成功しつつある。アーダン首相は4月20日の記者会見で国民に課してきた厳しい外出制限を27日午後11時59分から緩和すると発表。建設業や製造業など一部の経済活動や学校再開も認めた。

 しかし、宣言後に食料品を買いに出かけた筆者は自分の目を疑う光景に出くわしてしまった。あれほどプラスチックからの脱却に熱心だったスーパーマーケットでプラスチック包装が増えていたのだ。逆行してしまったニュージーランドのプラスチックごみ問題について考えたい。(ニュージーランド在住ジャーナリスト、 共同通信特約=クローディアー真理)

 ▽きれいになる空気

 ニュージーランド政府はコロナウイルスへの警戒度を4段階で定めている。国家非常事態宣言に伴い、最も厳しいレベル4に引き上げられた。これを受け、世帯単位で行う自宅での「自主隔離」が原則となった。企業の社員らは在宅勤務となり、全ての学校も休校となった。引き上げ前の「レベル3」から実施されてきた①飲食店や映画館、スポーツジムなどの閉鎖②室内外を問わず集会の禁止③公共交通機関は必要不可欠な業種に携わる人らの利用に限る―は継続された。一方、病院や薬局、スーパー、銀行などは縮小営業に切り替わった。

 レベル4になったことを受けて、全国の街が閑散としている。国内最大の都市で経済の中心であるオークランド市に限らず、どの街でも目抜き通りに並ぶ店舗は軒並み閉店しており、人影もほとんどない。一日を通して車の数は激減し、恒例となっていた朝夕の交通渋滞はなくなった。27日深夜からは一段階引き下げた「レベル3」になった。

 ニュージーランド国立水圏大気圏研究所で、大気汚染を専門に研究するイアン・ロングリー博士によれば、オークランド市の大気環境は劇的に改善されているという。同市内の一部エリアでは窒素酸化物(NOx)がゼロを記録する時間帯もあるそうだ。最も汚染がひどいとされるオークランド市中心部を南北に貫くクイーン・ストリートでもNOxは半減している。

記者会見で話すニュージーランドのアーダン首相=20日、ウェリントン(AP=共同)

 ▽増加するプラごみ

 新型コロナウイルス感染拡大の意外な副産物として環境負荷が軽減していることが明らかになった。その一方でプラスチックごみによる汚染は深刻化の様相を見せている。

  ニュージーランド国内におけるプラごみ問題への取り組みは国民と民間企業がリードする形で始まった。2018年末にスーパーマーケットの大手チェーンが使い捨てレジ袋を撤廃した。その動きに政府も追随した。19年7月1日にスーパーなど全ての小売店で買い物客に使い捨てレジ袋の提供を禁止する法律が発効。これにより、持ち手の付いた厚さ0・07ミリ未満のプラスチック製の袋を配布することが禁じられることになった。違反した小売店には最高で10万ニュージーランド・ドル(約647万円)の罰金が科される。同年末にはプラスチック容器などの廃止をはじめとする、プラごみ削減に向けた次のステップとなる政策を発表していた。

 スーパーマーケットで筆者が驚いたのは、総菜類がプラスチック容器と食品ラップフィルムで包装されて販売されていたからだ。これまで総菜は冷蔵ショーケース内に盛られていた。客は総菜と量をスタッフに伝えて、購入する。包装は半年以上前にプラスチック容器からリサイクルや生分解が可能な紙製のものに代わっていた。それがプラスチックに逆戻りしている。新型コロナウイルス感染拡大のリスクを少しでも減らすために、スタッフが手渡しする販売方法から客が自分で取れるプラスチック容器入りに変更されていたのだ。

 人々が購入する食料品の種類にも変化が見られる。瓶詰めや缶詰、冷凍食品、インスタント食品といったものを多く買うようになっているのだ。食料品を買いに出かけることは許されるが頻度は最低限に抑えるよう政府は指導していた。これが買い求める食品の内容に反映され、長期保存できる食品に人気が集中している。これらもほとんどがプラスチックの素材で包装されている。密閉できるので長持ちするからだ。プラごみが増えるのは当然のことだろう。

 新型コロナウイルスを予防するために、アルコールを使用した除菌作業が頻繁に行われている。その際には手袋や拭き取り用のシートが必要となる。手袋は塩化ビニールやポリエチレン製で、シートの主原料はポリエステル。いずれもプラスチックの一種だ。これまでと比べ、作業の頻度は高く入念に行われる。結果、大量のプラスチックがごみとなって廃棄されることになる。

スーパーマーケットの総菜コーナー。これまでの紙ではなく、プラスチック容器と食品ラップフィルムが多用されていた=クローディアー真理撮影

 ▽リサイクルができない

 プラごみが再びあふれ始めている原因は人々の消費傾向が変化したからだけではない。リサイクル施設の多くが感染予防の観点から閉鎖し、処理できなくなってしまっているのだ。

 レベル4になって以来、通常通り仕事をすることが許されているのは「必要不可欠な職」に就く人たちに限られている。通常通りとはいっても、所属する組織や企業が携わる人をウイルス感染から守る態勢を整えた上でのことだ。どの職種が「必要不可欠な職」に該当するかは政府により決められている。医療従事者を筆頭に、スーパーのスタッフのほか、ごみ処理とリサイクルに関わる職種で働く人も含まれている。

 国内にあるリサイクル施設のうち、予防対策を万全にできているのはオークランド市とクライストチャーチ市の2カ所だけ。これらの施設では回収してきたリサイクルごみの分別が機械化されている。他都市の施設ではスタッフが手作業で対応している。だがスペースが限られているため、スタッフ同士の間隔を2メートル以上取って作業をするのは難しい。予防策を徹底できないのであれば、閉鎖せざるを得ない。そして、処理できないプラごみは一般ごみと一緒に埋め立て処理されることになる。

 新型コロナウイルス感染拡大を防ぐことが最重要課題であることは十分に理解している。それでも、プラごみ削減に向け、熱心に取り組んできたニュージーランド国民の多くは失望を隠せないでいる。本来ならリサイクルされるごみが一般ごみとして処理されてしまうという現状を「裏切られた」と感じているからだ。

 意見はさまざまある。例えば、「リサイクル処理の再開を待つべき」に対しては、再開までの保管場所をどうするのかという問題が出されるなど方針はなかなか一致していない。混乱の渦中にいる住民の中には、自治体に期待するのは無理とガレージなど自宅にプラスチックごみを保管する人も出てきた。

 レベル3になったとはいえ、新型コロナウイルスが終息した訳ではない。このまま、うまくいくかもまだ分からない。それでも、問題が落ち着いた後には以前より状況が悪化したプラごみ問題が私たちニュージーランド国民を待ち受けていることは確かなようだ。

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