「二番底回避」で年末に向け相場回復へ?コロナ収束後の標準シナリオ

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、足元の株式市場は堅調な推移を辿っています。日米をはじめとした主要市場で株価は騒動後の値下がり分の4~5割程度を回復し、いったんは落ち着きを取り戻したように見受けられます。米国や欧州で感染拡大のピークアウトを示唆する兆候が見え始めていることなどが好感されているもようです。

当面の相場見通しを考えたときに、大きな関心事として浮かび上がるのは、再び株価が調整し、二番底を形成しにいくかどうかという点です。すべては感染拡大の状況次第ともいえますが、各国が取り組む外出制限や店舗閉鎖などの感染封じ込めのための取り組みが、いずれ事態の収拾に奏功すると期待されます。

一方、そうした対応策がもたらす負の側面、すなわち経済的なダメージに関しては、各国が積極的に打ち出した金融緩和策や資金繰り支援等の財政政策によって、最悪の事態は回避されると見ています。十分な対応策や支援体制が取られていなかった時期につけた安値まで、株価が逆戻りすることは現時点では考えにくい状況です。

さらに、その次に焦点となるのは、二番底を回避した後の相場の行方でしょう。この点については一様に回答を導くことも難しく、いくつかの場合分けによってシナリオを整理することが必要と考えます。


シナリオ別、年末までの株価推移イメージ

【標準シナリオ】
もっとも有力視されるのは、年央頃までの感染拡大収束と、その後の緩やかな景気回復シナリオです。家計や企業のマインドが徐々に改善に向かい、多少時間をかけながらも経済が元の状態を取り戻していくとの見方が前提となります。

景気の戻りよりも株価の戻りの方が早いと想定されるため、年末には日米共に今回の急落前の水準近辺まで株価は水準を切り上げるとの見通しが標準シナリオです。具体的には日経平均株価2万4,000円、NYダウ2万9,000ドルが年末の予想値となります。

【強気シナリオ】
これに対して、経済の正常化に加えて、金融緩和によるカネ余りに後押しされ、さらなる株価上昇を予想するのが強気シナリオです。

今回のコロナショックへの対応として米連邦準備理事会(FRB)を筆頭に各国中銀は強力な金融緩和を打ち出しましたが、仮にV字的な景気回復を遂げる一方で、金融緩和にブレーキをかけるのが遅れ、カネ余り状態になった場合、株価は急落前の水準を上回って推移する可能性もあります。特に米国株は高PERが許容され、再び最高値更新の機会が訪れることも考えられます。

【弱気シナリオ】
それとは対照的に、経済の回復に悲観的な視点に立った場合には、今後の株価上昇を限定的と見る弱気シナリオが現実味を帯びてくるでしょう。感染拡大が一服しない、あるいは感染の第2波、第3波に襲われることで、新型コロナとの戦いが続き、力強い景気の回復が阻まれる可能性は否定できません。

原油安からくる米エネルギー企業の破綻懸念も重しとなります。その結果、株価は二番底を形成するには至らないまでも、現在の水準から抜け出せないというのがこのシナリオでの株価イメージです。

現段階ではあくまでも標準シナリオの実現が有力と見ていますが、収束時期はもちろんのこと、その後の景気回復のスピードについては流動的な面も多いといえます。引き続き、状況に応じた機動的な判断が求められるでしょう。

<写真:ロイター/アフロ>

米国は雇用の急速悪化で株価底打ち

新型コロナウイルスの感染が世界最大となった米国ですが、株価の方は順調な回復を見せています。4月に入って、NYダウは一時2万4,000ドル台を回復し、3月の安値からは30%の上昇を遂げました。

今のところ米国株式市場からは、投資家の不安心理が後退しつつあるように見受けられますが、感染ピークアウト後の米経済の回復が十分でなければ、安定的な株高軌道に回帰するのも容易ではないでしょう。

先の標準シナリオ、および強気シナリオのもとでは、年後半に向けての株価回復を想定していますが、本格反転の時期が具体的にいつごろとなりそうなのか、以下で簡単な考察を加えてみたいと思います。

注目するのは米経済の歯車を回す原動力ともいえる雇用情勢です。外出規制や店舗閉鎖で経済封鎖状態にある米国は未曾有の雇用喪失に見舞われています。3月の非農業部門の雇用者数はおよそ70万人減少しました。減少幅はリーマンショック後の2009年3月以来の大きさでしたが、これはあくまでも氷山の一角にすぎないと考えられます。

3月第3週から4月第3週にかけての新規失業保険の申請件数は、4週間の合計で2,600万人を超えました。リーマンショック時の雇用者数の減少幅は870万人(2008年1月:1億3,840万人→2010年2月:1億2,970万人)だったので、わずか1ヵ月でその2倍以上の雇用の悪化が現実のものになったといえます。4月の雇用統計では3月の水準をはるかに上回る雇用の減少を覚悟しておくべきでしょう。

リーマンショック時の雇用は2008年1月をピークに、2010年2月のボトムまで約2年減少が続き、その後もとの水準に戻るまで6年以上かかりました。ただ、当時、株価が底を打ったのは2009年3月であり、雇用の減少が始まった2008年2月から数えておよそ1年後です。そのときに何が起きたかを振り返ると、月間で見た雇用の減少幅が最大を記録したポイントであることに気づきます。

雇用者数の減少が収まるのに先駆けて、株価の方は底打ちし、反転へと向かった当時の経験は重要な視点です。雇用の減少が止まった2年後や、失われた雇用が取り戻された6年後というタイミングは、一つの節目ではあるものの、株価の方向性を占うという点の重要性は低そうです。

足元の米国では、雇用の悪化が急速に進んでいますが、短期間のうちに最悪期を迎えるようなら、すでに反発に向かっている株価のボトムアウトは確固たるものになるかもしれません。米国の雇用情勢が相場の二番底の有無を判断するうえでは重要なカギを握りそうです。毎月の雇用統計はもちろんのこと、毎週の新規失業保険申請件数の推移にも注意を払いたいところです。

そして、思惑通り米雇用の悪化の底打ちが確認されれば、米国株は再び急落前の水準を目指して、着実に水準を切り上げていくことが期待できます。

日本株は目先、業績下方修正に要注意

日本国内では自粛ムードが強まるものの、株価の推移は至って堅調です。日本では4月7日に7都府県に対して緊急事態宣言が発令され、16日には対象地域が全国に広げられました。そうした中で日経平均株価は7日の最初の発令時の水準を超えて推移しています。

最大の要因はやはり米国株の上昇でしょう。感染の規模でいえば日本を大きく上回る米国ですが、感染一服の兆しが見え始めていることと、それによって経済活動の再開が視野に入ってきていることで、米国株の反発は顕著になっています。日本株の上昇はあくまでもそうした米国株の上昇に牽引された姿と解釈されます。

今後の日本株の方向性を占ううえで、カギを握るのは業績見通しの下方修正の有無や大きさだと考えられます。日米欧のリビジョン・インデックス(アナリストによる業績予想の修正を指数化したもの)について見ると、米国や欧州では直近で数値が大きく落ち込んでいるのに対して、日本の値はそれほど悪化していません。

日本企業の業績が相対的に良好であるということを意味しているなら、素直にポジティブに捉えられますが、必ずしもそうとは限らないでしょう。

欧米ではアグレッシブな業績見通しの修正によって、ある程度、業績の下方修正が進んだ状態にあると推察されます。しかし、日本では企業が業績見通しの開示を見送るなどして、アナリストが業績の悪化を十分に織り込み切れていない可能性があります。

その分、目先の株価には下振れリスクがあることを否定できません。これから決算発表が本格化していきますが、十分注意しておきたいポイントです。

ただ、中期的な観点からすれば、日本株の方向性はあくまでも上向きであると考えられます。IMFの世界経済見通しに基づけば、2020年の日本経済はマイナス成長を免れそうにありませんが、2021年には顕著な回復を遂げる予想となっています。

これはおおむね、冒頭で示した標準シナリオに沿う前提であり、年末の日経平均株価が2万4,000円程度まで回復することを正当化するものと考えられます。

最後に新興国については、今後、遅れて感染が拡大する可能性もあります。今や先進国の製造業を支える新興国で経済不安が強まれば、資金流出懸念を通じた通貨安が世界の金融市場を不安定化させるリスクもあることから、その動向には注視していきたいところです。

さらに、足元で生じた原油価格の急落がもたらすリスクを付け加えておくと、歴史的な低水準まで切り下がった原油相場が、仮に長期化した場合にはデメリットは決して小さくないと考えられます。

ダイレクトに影響を受ける米エネルギー企業の破綻懸念に加え、金融商品として原油に投資する主体の損失拡大、円高進行、産油国が運用するオイルマネーの株式市場からの引き揚げなどが懸念されます。

ただ、株式の見通しと同様に、年央頃までの感染拡大収束を前提とすれば、その後の緩やかな景気回復と、年末にかけての原油価格の切り上げが予想され、現時点でのリスクは限定的と考えます。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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