2019年度 「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 2019年度に適時開示で、国内不動産の売却を公表した東証1部、同2部上場企業は59社(前年度58社)だった。3年ぶりに社数が前年度を超えたが、1993年度に調査を開始以来、3番目に少なかった。
 売却した不動産面積が合計1万平方メートルを超えたのは17社(前年度12社)で、前年度より約4割(41.6%増)増加し、売却土地は大型化した。特に、本社や事業所、工場、ホテル、事業施設など、事業拠点の物件売却が目立った。
 国土交通省が発表した2020年の公示地価(1月1日時点)は、オフィスビルや外国人観光客を当て込んだ飲食店や宿泊施設の需要の伸びに加え、工業の建設、拡張の動きもあって、全国の商業地が5年連続、工業地も4年連続で上昇した。実際に譲渡損益を公表した57社のうち、譲渡益の計上は54社(構成比94.7%)と9割を超え、不動産価格の上昇を裏付けた。
 ただ、不動産価格の高止まりで、不動産の売却は逆に難しくなってきている。
 2019年度中は、「新型コロナ」の影響による業績悪化で不動産を売却した上場企業は確認されなかった。だが、3月以降、「新型コロナ」感染拡大の影響で業績悪化が目立ち始め、今後はキャッシュを確保するための不動産売却が増える可能性も出てきた。

  • ※本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2019年度に国内不動産(固定資産)の売却契約、または引渡しを実施した企業を調査した(譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。
  • ※資料は、『会社情報に関する適時開示資料』(2020年4月13日公表分まで)に基づく。東証上場の企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合としている。

公表売却土地総面積、公表の51社で518万平方メートル

 2019年度に売却された土地総面積は、公表した51社合計で518万6,047平方メートルだった。
単純比較で前年度(公表50社合計:76万1,411平方メートル)から約7倍に急増。売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは17社(前年度12社)で、前年度より大型案件も増加した。

不動産売却企業数の推移

公表売却土地面積トップはオークワ

 公表売却土地面積トップは、スーパーマーケットを展開するオークワ(東証1部)の422万5,803平方メートル。
 2位はごみ焼却発電施設やプラントの設計、製作を手がける日立造船(東証1部)で、25万1,900平方メートルだった。2020年3月末に大阪府と千葉県(信託受益権)の工場地の譲渡及びリース契約を締結した。3位は三菱重工業(東証1部)の17万3,797平方メートル。4位は古河電気工業(東証1部)の16万2,739平方メートルで、事業とともに工場用地を譲渡した。

譲渡価額総額、公表22社合計で816億円

 譲渡価額の総額は、公表した22社合計で816億6,200万円(見込み額を含む)だった。
 トップは、レオパレス21(東証1部)で、譲渡価格は305億円。2位は発電施設を売却したタカラレーベン(東証1部)で138億5,800万円(関連会社保有分を含む)。3位はフィットネスクラブ、ホテルの運営、マンション開発を手掛ける東祥(東証1部)の98億円だった。なお、譲渡するフィットネスクラブとホテルは賃借予定としている。
 譲渡価額100億円以上はレオパレス21とタカラレーベンの2社(前年度1社)だった。

譲渡損益は公表57社合計で1,956億円

 譲渡損益の総額は、公表した57社合計で1,956億5,600万円(見込み額を含む)だった。内訳は、譲渡益計上が54社で合計1,985億9,100万円(前年度1,544億6,100万円)。
 譲渡益トップは、三菱重工業の300億円。次いで、古河電気工業が220億円、サトーホールディングス(東証1部)が115億円、日立造船110億円と続く。一方、譲渡損の公表は前年度同数の3社で、譲渡損の合計は29億3,500万円(前年度7億4,000万円)だった。

業種別は卸売業がトップ

 業種別では、卸売業が最も多く8社。次いで、小売業の7社、機械、情報・通信業の各5社だった。
 業種別の売却土地面積は、小売業の431万956平方メートルでトップ。企業別の売却土地面積トップのオークワが牽引した。次いで、機械の45万2,067平方メートル、非鉄金属の18万516平方メートル、卸売業の7万5,834平方メートルの順だった。

 2019年度の上場企業の不動産売却は、59社(前年度58社)だった。2019年12月末までは調査を開始以来、最少だった2011年度の50社を下回る可能性もあったが、2020年1-3月期に新たに22社が不動産を売却したこともあり、過去3番目に少ない社数にとどまった。なかでも、事業の集約や移転を理由とした本社や事業所、工場などの売却が目立った。
 不動産売却した59社のうち、直近の本決算で経常利益が赤字は15社(構成比25.4%)で、全体の4分の1を占めた。さらに、「新型コロナ」の影響で業績悪化が目立っており、今後は赤字企業の不動産売却が高まりそうだ。
 「新型コロナ」の事態収束が長引くほど、上場企業も例外なく経営が圧迫される。このため、資金繰りが悪化する上場企業も見込まれ、手元資金の確保を目的にした不動産売却がこれまで以上に増える可能性もある。2020年度も「新型コロナ」の影響が長引くことは必至で、今後はさらに上場企業の不動産売却が進む可能性が高い。

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