帰国後は戸惑いも。緊張感が走るファエンツァの暮らしを紹介/アルファタウリ日本人スタッフの現地報告(2)

 何とか無事にファエンツァに帰り着いた、スクーデリア・アルファタウリのマーケティングマネージャーを務める本村由希さんとスタッフたち。とはいえイタリアは全土ロックダウンが続き、アルファタウリのファクトリーも他チーム同様シャットダウン中で従業員は立ち入ることはできない。

 前回のインタビューでは、開幕戦オーストラリアGPへ出発した前後の状況や戻ってきた時の街の様子などを聞いたが、その後ファエンツァに戻った本村さんは、どんな暮らしを送っているのだろうか。

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──その後の生活について、詳しく教えてください。どんな日常を送っているのでしょう。

本村由希さん(以下、本村さん):イタリア全土が封鎖されてから、レースに帯同していない従業員の大半は在宅ワークを指示されていました。私達メルボルンからの帰国組は、チームから14日間の自主隔離を指示されました。その間に地域の保健所のようなところから帰国確認のための電話が来て、名前や会社名、メールアドレスの確認をされました。

 私は万が一に備え、メルボルンに出発する前に保存できるものを買っておいたので食料などもあまり問題はありませんでした。またラッキーなことに同僚のひとりが同じマンションに住んでいるので、親切にも足りない食料や飲み物を何度も買って来てくれて、ドアの前に届けてくれました。本当にありがたいです。

 まだまだゆるい状況だったメルボルンから一転、ゴーストタウンと化したファエンツァに戻ってきて、街にも緊張感が走っているのを感じました。最初の1週間は、今までいた場所とあまりにも違うので戸惑っていました。午前中に近所の子供の声が聞こえたりすると安心したり、同じマンションに住んでる同僚がギターと歌が上手いので、歌っているのが窓を伝って聞こえてくるのがうれしかったです。

──買い物などはどうしていますか?

本村さん:自主隔離が終わっても国家命令でロックダウンが下されているので、スーパーや薬局への買い物以外の不要不急の外出は禁止です。犬の散歩や個人が家の周囲を散歩することなどは許されているものの、いずれの場合も政府が発行している証明書をダウンロードし、住んでいる場所、行先、外出の理由を記入し、街を巡回中の警官が証明書の提示を求める場合は即座に従わなければなりません。

 4月14日から一部のお店で営業許可が出たようですが、まだ州により法令にばらつきがあります。自分が感染しないためだけでなく、万が一自分が菌を持っていて、自分が人に感染させないためにも、スーパーには1週間に1回程度しか行っていません。

 スーパーは入店できる人数に制限があるので、時間帯によっては20分から30分ほど、人との間隔を保ちつつ列に並びます。スーパーの中でも、お客さん同士がアイコンタクトを取りながらソーシャルディスタンスを保って買い物しています。お客さんもマスク、手袋を装着している人がほとんどです。

──イタリアでもロックダウン直後に買い占めなどがあったようですね。

本村さん:私たちはロックダウンが発令されてから1週間後くらいにイタリアに戻ったため、スーパーでの買い占め騒動などには遭遇しませんでした。今はハンドソープやトイレットペーパーも十分スーパーにありますし、そもそもロックダウン発令時から物流も完全には止まっていませんでしたので、イタリア全体で食料が尽きたということはなかったようです。

──外国人として暮らす上で、大変なことはありますか?

本村さん:アジア人差別などで嫌な思いをしたということは全くありません。それどころかいつも行くスーパーのお兄さんが奥の方からわざわざ出てきてくれて、少し遠くから「元気そうでよかったー!」と声をかけてくれました。これ、ついに私にもモテキが来たのでしょうかね(笑)。そのくらいのこと考えていないと、やっていられないですね。というか、ずっと人に会ってなかったのですれ違う人と「Ciao!」と挨拶するだけでも何か新鮮で感動しました。

──ファクトリーは、どんな様子ですか?

本村さん:メルボルンから帰国後はほぼ家から出ていないのでわかりません。

──イタリアおよびファエンツァで、収束の兆しは見えていますか?

本村さん:ロックダウンから1カ月以上たった今、徐々に感染者数が減ってきました。回復された方の数も増えてきました。やはりこれくらい徹底的に国を挙げてロックダウンしないと、成果は現れないものなんですよね。

──今はどんな思いで日々を過ごしてますか。

本村さん:自分はずっと家にいて人との交流を遮断しているので、安全といえば安全です。自分が感染しないだけではなく、自分が人に感染させないことを常に考えて行動しています。少なくとも私の同僚はみんなそうしています。

 逆に日本の方が心配です。数週間前の映像でしたが、まだ人が密集するイベントなど開催している様子をニュースで見て、本当に大丈夫なのかな、と。何か違う惑星の様子を見てるような気持ちにさえなりました。海外にいる人はみんな同じ思いです。日本はちょっとゆるいんじゃないかな、と。

 これはただのインフルエンザではないんです。確かに最初はアジア圏で感染が確認され、ヨーロッパではまだまだ他人事みたいな雰囲気でした。新型のインフルエンザみたいなものでしょう、と。でもそれがたった数日で、国を封鎖するほどの歴史的な大惨事になってしまいました。マスクをあれだけ不気味がり、嫌がっていた西洋人が自ら進んでマスクをする。それくらい、西洋の人の感覚や文化までひっくり返してしまったんです。このウイルスを甘く見てはいけません。

──チームの同僚の声があれば、紹介してください。

本村さん:チーム全員と話したわけではないのですが、みんな家でできることをそれなりに楽しんでやっているようです。お料理したり庭で筋トレしたり。オンライン環境がある限り、繋がることはできますので、頻繁にテキストを送って声を掛け合っています。今はソーシャルメディアがあるので、どんな感じで過ごしているか近況がわかるメンバーもいるので安心です。

 ビジネス的にはヴァーチャルグランプリなど、eスポーツの分野の伸びも期待できますし、すべてがマイナスなわけではないと思います。私もシャットダウンの間にイタリア語を勉強したり、F1に関する資料を読んだりしてます。ファンの皆さんも、もしお時間ありましたらぜひアルファタウリのホームページYouTubeでも覗いてみてください。英語やイタリア語の勉強になりますよ。

 まだいつロックダウンが解除になるかわからないので、いつみんなに会えるかもわからないけれど、またレースで再会できることを楽しみに毎日過ごしています。みんな元気がないわけでも下を向いているわけでもないです。レース再開が待ち遠しい気持ちは一緒です。レース再開時には素晴らしいレースをお届けできるよう、チームも今から気持ちを引き締めていることでしょう。今後もスクーデリア・アルファタウリ・ホンダをぜひ応援してください。よろしくお願いいたします。

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本村由希
 日本生まれの日本育ち。日本の大学を卒業後渡英、紆余曲折を経て、イングランド・プレミアリーグのふたつのチームで働く。どちらの仕事でも、スポンサーシップ・セールスに関わった。イギリス生活に疲れて退職、スペインで休養のつもりがなぜか気が変わり、Real Madridが経営するビジネススクールでMBAを取得。オリンピックの仕事に就く予定が、アルファタウリから声が掛かりF1の世界で働くことに。チームでは全レースに帯同し、現地広告代理店とスポンサーの調整や、ロゴや肖像権をきちんと使えているかの確認、そして新規スポンサーの開拓などに世界各地を飛び回っている。

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