ネットで騒がれる「不正選挙」本当にできるのか? 選挙ドットコムが徹底追及(前編)

(※2018年1月29日に公開した記事を再掲載したものです)

選挙結果は大きな権力によって操作されている」「投票用紙が書き換えられている」「1人で何枚も用紙を偽造して、票数を水増ししている」「投票結果はあらかじめ決められている出来レースだ」などなど…

選挙についてインターネットで検索してみた経験がある方なら一度はこういった不正選挙陰謀論を目にしたことがあるのではないでしょうか。

実際に投票や開票結果を意図的に操作することは可能なのでしょうか?
選挙の管理執行の実務に44年、開票事務の現場を最もよく知る人物の一人、選挙ドットコム顧問の一般社団法人 選挙制度実務研究会代表理事で選挙管理アドバイザーの小島勇人氏(以下、選挙管理アドバイザー 小島)に選挙ドットコム株式会社 取締役で選挙プランナーの松田馨(以下、選挙プランナー 松田)と一緒にお話をお伺いしました。

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「不正選挙」は実在するのか?

-選挙ドットコムライター 宮原ジェフリー(以下、選挙ドットコム 宮原)
過去に開票(投票後に投票用紙を集計し、投票結果を集計する作業)にあたって不正が行われた例というのはあるのでしょうか?

-選挙管理アドバイザー 小島
「意図的に選挙結果を変えよう」という不正選挙が行われたことはありませんが、開票にあたっての不正集計はこれまでに数回、例があります。

2013年にあった参院選の際、四国地方のA市で開票の不正集計がありました。比例代表で立候補していた候補者の票が0票とカウントされていて、6年前には400票以上あった上に、その候補者に実際に投票したという有権者が複数いたのにおかしいとして支持団体らがA市の選挙管理委員会(選管)に再点検を依頼したものの聞き入れられず、管轄の地検に告発しました。結論から言うと、その候補者の票の束が開票作業中に行方不明になっており、「投票した人の数と票の数が300票近く合わない」ということで、一度計算した白票(何も書かれていなかった投票用紙)を水増しして処理をしていたんです。

翌2014年の衆院選の東北地方のB市でも比例代表で同じように白票を1000票水増ししてカウントして問題になりました。これは小選挙区の票と比例代表の票が1000票近く開きがあってつじつまを合わせるために行われた不正ですが、実は小選挙区の票の方を間違えてカウントしていたようです。

さらにその翌年の2015年の統一地方選では関東地方のC市議選では、当選の効力の異議の申出を受けて、開票の再点検したところ、最下位当選者と0.6票差で次点に終わった候補者のものとカウントできる票が1票見つかり、結果として0.3票差で逆転当選し、当選人が入れ替わるという事件もありましたが、その過程で白票を8票操作していたことが発覚した事案です。

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-選挙ドットコム宮原
今あげていただいた過去の不正な開票集計の例は、「意図的に選挙結果を変えよう」というものではなく、職員のミスの隠蔽によるものかと思います。こうした場合も、「不正開票」として違反になりますよね?

-選挙管理アドバイザー 小島
はい、もちろん違反となります。
白票であってもそれを水増しすると公職選挙法237条第3項目で規定されている投票増減罪に該当して3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金となります。また、A市の事例では封印して保管されていた開票済みの票を開けているので(※1)刑法代96条の封印等破棄罪は2年以下の懲役又は20万円以下の罰金となります。

それだけではなく選挙事務に従事するのは公務員ですので、ほとんどの場合、懲戒免職などの重処分となります。事件中に定年退職となった不正を行った元職員には退職金の返還請求がされた例もあります。
※1:開票作業後の投票用紙は封印して厳重に保管されている。これを開けることも刑法違反となる

-選挙プランナー松田
違反を1つでも職員が犯して懲戒免職にでもなれば退職金ももらえませんし、懲戒処分という公務員にとっては一番避けたい状況に陥ってしまうわけですね。

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-選挙管理アドバイザー 小島
そうです。開票業務にあたる市町村の公務員はこうした法律によって強く律せられています。様々な厳しい法律によって、選挙の公正さが担保されています

-選挙プランナー松田
例にあげていただいた事件ではいずれも白票を操作して、投票した人の数と投票数のつじつまを合わせたかった、というのが動機のようですね。「特定の候補者を勝たせるために不正が行われた」という事例はありますか?

-選挙管理アドバイザー 小島
職員がそういった動機で不正を犯した、という事例は私が知る限りはありませんね。

投票用紙を偽造して、選挙結果を変えることはできるのか

-選挙ドットコム宮原
過去の不正選挙は、投票の後の集計の際のミスだったことは分かりましたが、例えば「投票用紙を偽造して投票箱に入れる」といった不正は可能なのでしょうか?

毎回の投票用紙はほぼ同じように見えますし、紙幣のような「透かし」もなく、持ち帰って大量にコピーして、他の人が投票する際に何十枚も投票してしまう、といったこともできそうです。

-選挙管理アドバイザー 小島
よく言われるのですが、まずできないですね。

投票用紙は印刷会社において私の現役時代の例では「証券印刷部門」といって切手や株券と同じ扱いで厳重に作られています。選挙管理委員は印刷工場に視察に行って、その際に上がる試し刷りも鍵のかかる保管庫に格納して、絶対に流失しないようにしています。選挙が終わった後、元版も私たち立会いのもとで崩すようにしているんです。

A市の事件では地検の捜査にあたって「過去の選挙で余った白票」を混入させて隠蔽をはかっていましたが、実は毎回の投票用紙は少しずつ違っているので、すぐにバレてしまいました。投票用紙は選挙ごとに作り直しているんですよ。

また、過去に北九州方面の選挙で偽造された投票用紙が混入されたことがありましたが、やはりこの場合もすぐに発覚しています。

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投票箱から投票用紙を抜き出し、書き換えることはできるのか?

-選挙ドットコム宮原
それでは、投票箱から投票用紙を抜き出し、書き換えるなどは可能なのでしょうか?

-選挙管理アドバイザー 小島
それも絶対に無理ですね。投票箱は皆さんが想像するよりもずっと厳重に管理されており、その投票所の投票管理者など複数の職員が複数のカギで管理しているんです。

まずは投票の前に、印刷所から投票用紙が届くところからお話ししましょう。投票用紙の入った段ボール箱には封緘紙が貼ってあって、途中で開けられないようになっています。それを各投票所に分けたり、期日前、不在者投票に使用する際にも複数の担当者が厳格に管理します。投票用紙は鍵のかかる部屋で鍵のかかるロッカーに入れて保管します。それぞれ鍵は別々の職員が保管します。

公示日や告示日翌日の朝8:30、期日前投票に訪れた最初の投票者には投票箱の中がカラである確認をしてもらって、「一の鍵」「他の鍵」というのをかけるんです。「一の鍵」は投票立会人、「他の鍵」は投票管理者が持ちます。投票中は投票箱を立会人と管理者が監視します。

投票が終わると投票投入口のフタにまた鍵をかけるんです。投票箱は鍵のかかるロッカー、鍵のかかる部屋で保管します。そういう場所がなければ選挙管理委員会のある市役所に運んで鍵のかかる場所で厳重に保管するんです。

-選挙プランナー松田
そうすると、期日前投票が終わった夜は鍵が3つかかってることになるんですね。

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-選挙管理アドバイザー 小島
そして、その鍵も毎日封筒に入れて封印するんです。そしてそれも厳重に保管する。翌日また封印を確認して解いて開けるんです。

たまに、「職員を買収して、自分が当選するようにしている候補者がいるのではないか」と想像される方がいるのですが、そうなるといったい何人を買収すればいいのでしょうか。選挙にはとても多くの職員が関わっていますので、そんな大勢を買収することは不可能でしょうし、職員のコンプライアンスは徹底されていますので、そんなことをしようとすれば絶対にどこかで告発が出るでしょう。

また、開票の際には各候補者の陣営から、開票作業に不正が無いか公益的立場で「開票立会人」が監視することになっています。敵陣営の監視役を買収することはできないでしょう。

このように投票用紙は印刷の段階から投票を経て開票作業の段階まで、厳格に定められた法令の規定に従って複数の職員によって厳重に管理されています。意図的に当選者を変えるようなことは不可能と言い切れます。

後編はこちら>>「ネットで騒がれる「不正選挙」本当にできるのか? 選挙ドットコムが徹底追及」(後編)

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