都市部に広がる〝無人駅〟五輪会場の最寄りにも JR東「事前に要連絡」 車いす利用者ら「乗りたい時に…」

JR北戸田駅でカーテンが閉められた改札窓口=2月、埼玉県戸田市

 「インターホン対応についてのお知らせ」。JR東日本の駅でこんな掲示が増えている。都市部の駅で改札窓口の「無人化」が進み、インターホンによる接客対応が導入されているのだ。主に利用者の少ない早朝時間帯だが、日中や夜に及ぶ駅もある。この流れのあおりを受けているのが、介助の必要な車いす利用者など障害のある人たちだ。関東の都市部で進む駅の「無人化」の実態を取材した。(共同通信=沢田和樹)

 ▽「1時間待ち」

 「駅無人化によって、JRはさいたま市ノーマライゼーション条例に抵触している! ただちにさいたま市はJRに是正を求めよ!」

 2月上旬、さいたま市役所2階にある記者室の資料ボックスに、そう書かれた広報紙が入っていた。作ったのは、さいたま市の障害者支援団体「虹の会」。多くの車いす利用者は、電車に乗る際に車両とホームをつなぐスロープを出してもらう必要がある。ただ、駅員のいない時間のある駅が増え、乗車まで長時間待たされる例が増えているという。

 正直、驚いた。無人駅というと田舎町のイメージだったからだ。ICカードで改札を通る身としては、駅員がいるかどうかもほとんど気にしたことがない。実情はどうなっているのか。虹の会が「無人化」を議論するという集会を取材した。

JRの駅無人化に抗議する障害者支援団体「虹の会」の集会=2月、さいたま市

 「発端は昨年6月の正午ごろ、JR池袋駅で案内をお願いしたときでした」。2月8日、虹の会事務所で開かれた集会。筋ジストロフィーで車いす生活を送る羽富拓成さん(36)が自身の体験を語った。駅員からは「目的地の南与野駅(さいたま市)は駅員が不在なので、午後1時まで待ってください」と言われた。驚いたが1時間も待てず、駅員がいる別の駅で降りてバスで移動した。

 羽富さんたちが後日に調べると、駅員が不在になる駅を使う場合、車いす利用者は「前日まで」の連絡を求められていることが分かった。「電車に乗りたい時に乗せてほしい。望むのはそれだけなのに…」。各駅ではエレベーターやホームドアの整備が進むが、「人がいるだけで安心感が違う。駅員さんと設備のどちらかを選ぶ必要があるなら、駅員さんにいてほしい」と言う。

 そもそも、車いす利用者は駅員が常駐する駅でも待たざるを得ないことが多い。国土交通省の2018年の報告書によると、車いす利用者へのアンケートで「困りごと」として最も指摘が多かったのは「乗車までに時間を要する」だった。駅員が他の利用者対応をしていたり、降車駅の駅員に連絡がつかなかったりし、数十分待つこともあるという。

 事前連絡があれば、駅員は対応の準備ができ、スムーズに案内できるのは確かだろう。ただ、自分の身を振り返れば、電車に乗るタイミングは駅に着いてから決めることも多い。

 集会には車いす利用者や介助者ら約50人が参加した。「障害者だって、ふと出掛けたくなる」「障害者にだけ電車に乗るのを待てと言うのか」。さまざまな意見が交わされた。「民間企業にどこまでお願いできるのか」との声もあったが、「要望しないと、問題がなかったことになってしまう」との訴えもあり、JR東日本へ要望書を提出することが決まった。

 ▽拡大する「無人化」

 「無人化」はどこまで進んでいるのか。JR東日本は14年以降、一部の駅に改札機や券売機の遠隔操作システムを導入し、早朝を中心に改札窓口の「無人化」を進めてきた。問い合わせには改札近くのインターホンで、別の駅の駅員が応じる。どうしても人が向かう必要があれば、時間はかかるものの、窓口以外の業務に当たっている駅員らが駆け付けるという。

JR北与野駅の改札付近に掲示された「インターホン対応についてのお知らせ」=2月、さいたま市

 事前連絡なしで車いす利用者が訪れた場合も同様の対応を取るというが、現実には羽富さんのように駅員の不在時間中は待つように言われたケースも出ている。

 今年2月13日のJR東日本大宮支社の定例会見で、横尾武士総務部長は「サービスと効率的な執行体制のバランスをどう取るかだ。利用状況を勘案し、駅員が一部時間に窓口を閉め、別業務に当たるなどしている」と説明した。必ずしも無人ではなく、駅内で別の仕事をしたり、休憩したりしているようだ。

 JR東日本によると、19年4月時点の管内1655駅のうち完全無人駅は717。そこに加わる形で一部時間の無人駅があるが、駅数は非公表。国交省や自治体にも問い合わせたが、全体像は分からないままだった。

 JR東日本に「車いす利用者が事前に連絡をする場合、どこに連絡すれば良いか」と尋ねると、公共交通機関のバリアフリー情報を提供するサイト「らくらくおでかけネット」(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団運営)や駅の掲示で案内していると回答があった。試しにいくつかの駅をサイトで検索してみると、連絡先としてJR東日本お問い合わせセンターの番号が記載され、連絡が必要かどうかも記されていた。

 そこで、18年度に1日平均1万人以上が乗車した管内287駅を検索してみた。すると、東京都と埼玉、千葉、神奈川各県の少なくとも81駅(2月時点)で「不在時間がある」とし、車いす利用者には原則、前日連絡を求めていた。

1日平均5万人以上が乗車し、早朝に駅員が不在となるJR国立駅=2月、東京都国立市

 1日5万人以上が乗る国立駅(東京都国立市)のほか、3万人以上が乗る鴨居駅(横浜市)、南流山駅(千葉県流山市)、東大宮駅(さいたま市)でも早朝無人化が導入されている。

 さらに、ツイッターの検索機能で「駅 無人化」などと調べると、駅にある「インターホン対応についてのお知らせ」と書かれた掲示の写真を投稿している人が複数いた。それらを見ると、東京五輪のメインスタジアムとなる国立競技場に近い千駄ケ谷駅(渋谷区)や信濃町駅(新宿区)でも始発から午前6時半まで駅員が不在とされている。

 この2駅は「らくらくおでかけネット」で事前連絡が必要とされていない。それぞれの駅員に尋ねると「連絡なしで不在時間帯に来られた場合、対応までにかなりの時間が掛かる」「予定が分かっていれば、必ず連絡してほしい」とのことだった。JR東は2月時点で情報の更新漏れだとし「少しでも無人の時間があれば前日までの予約をお願いしている」と答えた。

 ただ、5月7日時点でらくらくおでかけネットを調べてみても「ご乗車の際に改札口にて係員にお伝えください」と書かれているだけだ。 どの駅で連絡が必要なのか分かりにくく、周知方法にも課題がある。

国立競技場に近く、早朝に駅員が不在となるJR千駄ケ谷駅=2月、東京都渋谷区

 千駄ケ谷、信濃町も加えた83駅の大半の掲示を確認すると、早朝時間の無人化が主だが、埼玉と東京を結ぶ埼京線の北与野駅や南与野駅(いずれもさいたま市)など、1日平均1万人以上が乗車する駅の中にも7~9時間、駅員が不在になる駅があった。

 そのうち北戸田駅(埼玉県戸田市)は最寄りに学校が複数あり、1日に2万人以上が乗車する。掲示によると、始発から午前6時半、午前9時半から11時半、午後12時半から1時、2時から5時までの計約7時間、改札窓口の駅員が不在になる。

 駅で様子を見ていると、窓口で作業をしていた駅員が午後2時ちょうどに窓口のカーテンを閉めた。窓口には「こども110番の駅」のステッカーが貼られていた。駅員が不在でこどもの見守りや緊急時の対応ができるのだろうか。

JR北戸田駅の窓口付近に設置された問い合わせ用のインターホン=2月、埼玉県戸田市

 滞在した約30分の間で、高齢男性が何かを聞きたそうに窓口近くを行き来し、2人乗りのベビーカーを使う母親が腰をかがめてインターホンでやりとりしていた。何食わぬ顔でICカードも切符も使わず、改札を突っ切って行く人もいた。

 ▽「わがまま」か?

 人口減による利用者と働き手の減少を見据えた鉄道事業の合理化は全国的な流れだ。JR東海や西日本も、遠隔で客に対応できるシステムの導入に伴い、駅の無人化を進める。JR九州が17年に大分市内8駅の無人化計画を明らかにすると、障害者団体が見直しを求める7万筆超の署名を提出し、訴訟を起こす動きも出ている。

 政府は来年に延期された東京五輪・パラリンピックの開催へ向けて共生社会の実現を目指し、バリアフリー化を進めている。「虹の会」で事務局長を務め、脳性まひで車いすを使う加納友恵さん(44)は「インターホンでは目や耳に障害がある人に対処できない。障害者に限らず、外国人や高齢者が増える多様化社会に対応するためにも駅員は必要ではないか」と訴える。

障害者支援団体「虹の会」の集会で話す事務局長の加納友恵さん(右)=2月、さいたま市

 3月18日の参院国交委員会では、れいわ新選組の木村英子議員の質問に対し、赤羽一嘉国交相が「都心の千駄ケ谷駅などまで無人の時間帯があるというのはいささか問題がある。やむを得ない駅と配置すべき駅をもう少し精査すべきだ」と指摘した。

 虹の会は3月3日付でJR東日本に無人化をやめるよう求める要望書を送り、さいたま市にも16日付で「市は黙認せず是正を求めるべきだ」とする要望書を提出した。

 JR東日本は4月7日付で回答。「ご意見承りセンター」名で、インターホン対応は「対面での案内と同等レベルのサービスが提供できるものと考えています」とし、「事前の連絡がない場合でも、お待ちいただくこともございますが、できる限りご案内させていただきます」「貴重なご意見ありがとうございました」という内容だった。

 車いす利用者が介助なしで電車に乗り降りできる駅は全国でもごく一部だ。多くの駅ではホームと車両の間に隙間があり、一般の利用客も落とし物や転落のリスクを抱えている。早朝無人の駅では、無人時間帯にエスカレーターが動いていない駅もあり、スーツケースを持つ観光客やベビーカーを押す人、足の不自由な高齢者などさまざまな人が不便を強いられる。線路に物を落としたら、事故や事件があったら―。影響が出るのは障害者だけではない。

 障害者が声を上げると「わがままだ」と言われることがある。本当にそうだろうか。最初に切実な不便さを感じたのが障害のある人たちだっただけではないか。声を受け止め、議論することでしかバリアフリー化は実現できない。

 4月、改めて「らくらくおでかけネット」を見ると、無人化を導入した駅について、当初の「事前連絡が必要です」との表現から「スムーズにご利用いただくために関係箇所との調整が必要な場合がありますので、事前の連絡にご協力をお願い致します」との表現に変わっていた。

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、これまで以上に企業活動の効率化が進む機運が高まっている。ただ、介助を必要とする人々にとって、無人では生活そのものが成り立たない。虹の会の加納さんは言う。「『人がいなくても案外やっていけるじゃん』っていう空気はとても怖い。私たちは人の手を借りないと本当に死ぬんです」 

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 共同通信が確認した駅員が一時不在となる83駅(2月末時点。18年度統計で1日平均乗車人数1万人以上、都県ごとに乗車人数の多い順)

 【東京都】国立、西八王子、東小金井、日野、昭島、信濃町、成瀬、八王子みなみ野、千駄ケ谷、南千住、福生、小作、北府中、羽村、三河島、新小平、中神、相原、谷保、西府、矢野口、西国立、尾久

 【埼玉県】東大宮、桶川、宮原、北戸田、新座、戸田、鴻巣、北本、南与野、吉川、新三郷、北上尾、土呂、東所沢、与野本町、籠原、三郷、日進、中浦和、白岡、栗橋、指扇、西大宮、北与野、深谷

 【千葉県】南流山、南柏、幕張本郷、馬橋、北小金、下総中山、新検見川、西千葉、北松戸、東松戸、東船橋、天王台、北柏、船橋法典、千葉みなと、検見川浜、市川大野、八幡宿

 【神奈川県】鴨居、淵野辺、新杉田、港南台、稲田堤、古淵、十日市場、洋光台、矢向、中野島、平間、久地、二宮、向河原、鴨宮、矢部、小机

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