ド田舎の独自ルールが怖すぎる!『オザークへようこそ』をより楽しむためのヒルビリー映画3作

Netflixオリジナルシリーズ『オザークへようこそ』独占配信中

アメリカのド田舎のぶっ飛び貧民たちの衝撃!『オザークへようこそ』

2020年3月からシーズン3が始まったNetflixオリジナルシリーズ『オザークへようこそ』。史上最高の海外ドラマ『ブレイキング・バッド』(2008~2013年)と同じテーマを持ちつつ、僕は『オザークへようこそ』に惹きつけらる。それはヤンキー娘を演じるジュリア・ガーナーが可愛いすぎるからです。

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ヤンキー娘がヤンキー娘を演じるって当たり前のようですが、このヤンキーって、日本で言うヤンキー、ギャルのことです。郊外(都市でもいいですけど)に住むヤンチャな子という意味。教育を受けてない(拒否している)から、頭が悪そうに見えるけど実は賢い女性、に僕はやられてしまうのです。天然なのか、髪をセットするのがめんどくさいからパーマにしているのか分からない髪型が最高なんです。この感覚ヤンキーぽいでしょ。大阪のおばちゃんとも言いますが。

『オザークへようこそ』はヤンキー、じゃなくて“ヒルビリー”というアメリカの貧しい人たちが、もう一つの大きなテーマなのです。原題は一言『OZARK』、アメリカで一番貧しいとされる土地。主人公家族が逃げて来た所は、メキシカン・マフィアもびっくりするくらいとんでもない人たちが住んでいる土地だったというのが、このドラマの面白さなのです。

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オザークに住むヒルビリーこそが現代アメリカのルーツ?

僕はオザークに住むヒルビリーの人たちこそが、本当のアメリカ人という気がしているんです。アメリカの歴史を語る上でブラック・ミュージックが大事なように、ヒルビリーが歌ってきた音楽こそが、現在のポップ・ミュージックのルーツなのです。この人たちがいなければ今のカウンター・カルチャーはなかったかもしれない、そんな僕らの大事な文化のお父さん、お母さんが、こんなヤンキー(日本で言う)というか、あかん人たちだったのかと思うと僕はなんか嬉しくなってしまうのです。

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と言うわけで、『オザークへようこそ』を観て欲しいのですが、それと並行して、これは観といた方がいいというヒルビリー映画を3本紹介します。きっとアメリカのことがもっと面白く感じられるでしょう。ヒルビリーの人々がどう扱われてきたか、はっきり言うと、ほとんどのアメリカ人はヒルビリーのことを『悪魔のいけにえ』(1974年)のレザーフェイスみたいに思っています。そんな差別的でいいのか? あかんけど、彼らのことはずっとアメリカ人の心の奥底に怖い存在として刻み込まれているのです。

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描写に悪意ありすぎ!? 田舎者への偏見が爆発した『脱出』

ヒルビリーのイメージって、元々はアメリカのTVドラマ『じゃじゃ馬億万長者』(1962~1971年)のような能天気なイメージだったと思うのですが、いつからレザーフェイスみたいなイメージになってしまったのか。それは1972年の『脱出』からだと僕は思います。この映画で世界中の人に、「アメリカの田舎は怖い、そんな所に旅行に行ったら殺される」というイメージを叩きつけた。

ヒルビリーをこんなにも悪者にしていいのか? 今だったら放送禁止ですよ。でも、当時はこんな描かれ方しても「俺たちの場所が映画に描かれるの」と、能天気に喜ぶ時代でもあったのです。この映画で一番奇異なのは、都会から来た主人公とヒルビリーの子供(知的障害を持っているように見えるのですが、おそらくヒルビリーたちは近親相姦するから……という偏見を表したシーンでしょう)がギター合戦をするシーンです。このシーンだけでも、この映画がどれだけ異様か分かると思います。

極貧集落の恐ろしい掟を真正面から描く『ウィンターズ・ボーン』

『ウィンターズ・ボーン』(2010年)は、麻薬の密造で捕まり保釈後に姿を消した父を探すヒルビリーの少女を演じた、ジェニファー・ローレンスの名演技に圧倒される作品です。少女が父がどこにいるのか集落中を訪ね歩くのですが、舞台を同じくする『オザークへようこそ』のような呪われた家族がたくさん出てきます。

僕がこの映画で一番びっくりしたのは、いまだにリスを撃ち殺して食料にしているのかということでした。もう僕らはリスとか野ねずみとか食えないすよね。そんな人たちがアメリカにはまだいるのか、と。そして、仕事もないからメタンフェタミン(覚せい剤)の製造・密売を生業にしている人たちが本当にいるって、先進国じゃないですよ。そんな国が世界一の大国なんです、怖いですよね。

スコティッシュ/アイリッシュ移民という共通点から見る『ディパーテッド』

娘がレイプされ焼き殺されたことに怒り狂う母親の「法律なんか関係ない、私の好きなようにやる」という頑固な女性こそまさにヒルビリーの母親だ、ということで3本目は『スリー・ビルボード』(2017年)にしようかと思ったのですが、アメリカという国がとんでもないということを紹介したくって、ヒルビリーではないのですが『ディパーテッド』(2006年)を。

ヒルビリーがスコットランド移民から形成されているとしたら、ボストンという街はアイリッシュ移民から形成されていて、そこの住人は警察官かアイリッシュ・マフィアになるしかないという、完全に呪われた設定です。親戚一同が集まるシーンがあるんですが、犯罪者と警官が一緒になっていて、ややこしい。よくこんなのでやっていけるなと思うのですが、そこがアメリカなんだなと思うのです。

ハーバードなどの一流大学があるボストンが犯罪者の街というのはびっくりされるかもしれませんが、この他にもボストンを犯罪者の街として描いている『ザ・ファイター』(2010年)『ザ・タウン』(2010年)など必見の映画がたくさんあります。

その昔、日本にも広島や神戸を犯罪者の街かのように描いた映画がありましたが、アメリカは今も変わらないんです。そんなことを思いながら『オザークへようこそ』を見ています。そして、いつかオザークでカントリー・ウエスタンを習いたいと思っている今日この頃です。

文:久保憲司

『オザークへようこそ』はNetflixで独占配信中

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